油屋種吉 さん プロフィール

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油屋種吉さん: 油屋種吉の独り言
ハンドル名油屋種吉 さん
ブログタイトル油屋種吉の独り言
ブログURLhttps://blog.goo.ne.jp/knvwxco
サイト紹介文種吉が今と昔のお話をいろいろに語ります。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供78回 / 365日(平均1.5回/週) - 参加 2013/08/16 08:26

油屋種吉 さんのブログ記事

  • 沢姫さま  その12
  •  この部屋に姫さまがいる。 千代はそのことを、栄二に伝えたかった。 それを感じとり、栄二のこころはじわりと熱くなった。 こんな化け物やしきにいて、どうして人間味を保っていられるのだろう。 驚きとともに、彼女に対する特別なおもいがこみあげてきた。 愛しさと呼ぶほどには成熟してはいなかったけれども。 間違いなく好意以上のものだった。 千代はしゃがんだまま、彼に近づくと、 「あれをよくごらんなさい。姫さ [続きを読む]
  • 沢姫さま  その11
  •  「やれやれ、やっと小骨がとれましたよ」 栄二はそう言って、部屋にもどった。 「あれっ、大丈夫ですか。唇から赤いものがのぞいていますわ」 年輩の召使いが立ち上がり、そう言って栄二に近づこうとした。 「いい、いいんです。ほんとに大した傷じゃなかったんです」 「でも、ひどいことになりでもしたら」 「大丈夫ですったら」 「ご遠慮なさらないで、くださいましね」 なにを思ったか、彼女は小袖で自分の顔をかくし [続きを読む]
  • 沢姫さま  その10
  •  食事をとったのは、栄二にとってはなじみの部屋だった。 着物を身につけた女がふたり、つぎつぎに膳にのせた料理を運んできては、栄二の前においた。 姫と呼ばれる女がきている衣とは比べようもないほど粗末だ。 木綿で織られているようで、こざっぱりしていて汚れがない。 ひとりは二十歳くらいで、もうひとりは四十がらみ。 山の奥にもかかわらず、料理はけっこう海のさちでいろどられていた。 「わあ、これはすごい」  [続きを読む]
  • 沢姫さま  その9
  •  「寝てるとき、お、おれ、何にもしなかったですよね」 ずっと気になっていたことを、この時になって初めてきいた。 とにかく夢も見ずにぐっすり眠っていたのである。 そんなことで女のからだに触れられるはずがなかった。 「ふふっ、さあどうだったでしょう。何にもなかったんなら、こうやっていっしょに湯船につかることってできるかしら」 女はそう言って、ひと足、栄二に近づく。 ザバッと音たて、栄二は湯からあがろう [続きを読む]
  • 沢姫さま  その8
  •  山のもののけたちみんながよってたかって自分をばかにしている気がして、栄二は腹が立った。 「なにがめでたいんだい。まったくわけがわからん。なにも知らねえからっておらをなめんじゃねえぞ」 口からきたない言葉をくりだすたびに、胸の鼓動が高まる。 大声をだすことで、彼らの呪文を破ろうとするかのようだ。 「これでどうだ」 勢いよく両手でかけぶとんをはねのけ、上体を起こそうとしたが、枕もとにいる、女の手でお [続きを読む]
  • 沢姫さま  その7
  •  高さ十メートルくらいの切り立った岩のぜっぺきがあり、その上から水が勢いよく流れ落ちている。  水がきざんだ滝つぼはかなり深そうで黒々としていた。「もう大丈夫。ここでおろしてちょうだい。目の痛みもずいぶんとれたから」 女の言い方がふいにぞんざいになった。 自分の住まいに近づいたからかもしれないな、と、栄二は思う。 滝の音がやけに響くのは、ひょっとして背後に洞窟があるせいかしれない。 「そんなこと言 [続きを読む]
  • 沢姫さま  その6
  •  左太ももにかかっていた重しのようなものがとれてしまい、栄二は楽になった。 「いやはや気づきませんでした。こんなのがたかっていたなんて。どうもありがとうございます。それにしてもあなたは勇敢ですね」 「何がです。ああヒルを笹の葉につつんで捨てたことですか。こんなこと山中ではよくあることですよ。慣れていますので、お気づかいなさらないでください」 傷口に吸いつき盛んに血をすすっているのをむりやり取り去っ [続きを読む]
  • メイ  その18
  •  この川のぬしに違いありません。 頭から尾びれまで、ゆうに一メートルはあるまごいです。 メイのいる水際までなんとか来ようというのでしょう。 大きなおなかが川底の小石にぶつかるのもかまわず体をくねらせます。 見ていてかわいそうになるくらいです。 浮いていられるぎりぎりの深さのところまでやって来ると、ひげ面の口をパクパク動かしました。 まるで何かを伝えているようです。 「ふむふむ、やっぱりそうだったん [続きを読む]
  • 沢姫さま  その5
  •  母親にえらそうに言ったものの、ここは山あいの狭い街。 簡単に嫁っこをもらえそうもない。 若い娘はみな都会の生活を夢み、田舎から出てしまっている。   こんなことなら都会に出ているうちになんとか糸口でも見いたしておくべきだったと栄二は悔やんだ。 「栄二くんのことが好き」 そう言ってくれる職場の同僚がいたが、彼女は五歳くらい年上。 (おれはまだ早い。これからいくらだって話がある) そう思い、その場は [続きを読む]
  • メイ  その17
  •  その週の土曜日。 モンクは仕事を休みました。 メイの願いをかなえるためでしたが、自分自身の健康のことを考えてのことでもあったのです。 道路工事の際の車の誘導、それは思ったより大変でした。 炎天下でも風が強く吹いても、小雨がぱらつく程度ならやらなければなりません。 一日じゅう同じところでたたずんでいますから、顔や首筋はっ黒に焼けました。 紫外線も大いに気になります。 両の太ももだって、まるで太い棒 [続きを読む]
  • 沢姫さま  その4
  •  家に帰ってからも栄二は夢にでてきた女のことが忘れられず、ぼんやりしていた。 「なんだい、栄二。いったいどうしたんだい。さっきからぜんぜん箸がすすまないじゃねえか」 その日の夕食の時間。 母親の栄子は息子がいつもと様子がちがうのを一瞬でみやぶり、カツを入れた。 「かあちゃんごめんよ。ちょっと考えごとがあってさ」 栄二は目を伏せ、テーブルの上に箸をそろえておいた。 「ふん。なに言ってる。考えごとだっ [続きを読む]
  • メイ  その16
  •  その日をさかいに、メイの顔にはいつ見ても憂いがうかぶようになりました。 心配したメリカは彼女にそのわけをたずねましたが、なかなか話そうとしません。 メイは赤ちゃん時代からお風呂がとっても好きです。 ごきげんのいいときならどうだろう。 そう思ったメリカは試してみることにしました。 「こらメイ。おばちゃんにお湯、そんなにぶっかけるんじゃないよ。ところでさ、どうしてこの頃そんなに沈んだ顔をしてるの。お [続きを読む]
  • メイ  その15
  •  メイは十二歳になり、ひとつ上の学校に通いはじめました。 この年頃になると、だれもが少しは世の中のことに興味を示します。 彼女には不思議な能力があったからなおさらでした。 今日は土曜日、学校がお休みです。 たった今メリカおばさんとふたりでスパゲッテイを主にした昼食をとりおえたばかりです。 彼女は台所のテーブルの上に新聞をひろげ読みはじめました。 モンクおじさんはいません。アルバイトをしに、街にでか [続きを読む]
  • 沢姫さま  その3
  •  二十歳前だろうか。 いまだに幼さを顔立ちに残している。 透きとおるように肌色が白く、唇の朱がきわだつ。 ひろすえなんとかさん・・・・・・。 たしか高知出身でこんな感じの女優さんがいたなあと栄二は夢の中にもかかわらず、妙に冷静である。 女は厚めの唇を上下にひらき、 「ちょっとちょっと。いやだわねまったく。ぼんやりしてなによ。わたしを見てもこわいと思わないの」 と訊ねた。 何をするのわけでもない。  [続きを読む]
  • 沢姫さま  その3
  •  驚きながらも、これは夢だうつつではないんだ。 そう自分を納得させることで、栄二は心の安定を保とうとした。 だが、あまりに生々しい。 自分の息づかいが聞こえるほど近くに女は好奇心で満ちた顔を寄せてくる。 「ねえあなた、見かけない顔だけど、どこのどなたかしら。ずいぶんまじめね、仕事ねっしんだわ。今までこの谷間で何人もの若者を見てきたけどあなたが一番。からだに力がみなぎっていて、すごい。まだしんまいな [続きを読む]
  • 沢姫さま  その2
  •  お昼近くになると、辺りがずいぶん明るくなり、雨の降り方が弱くなった。 栄二は若い。 草刈り機のあつかい方をすぐに覚えた。 わきで仕事をしている横尾も、自分の脚が切られまいかと心配する必要がなくなった。 「よおよお、栄二」 目の前の草を刈り取るのに夢中になっているせいで、彼の呼びかけが聞こえない。 「よおったら、よう、栄二。ちょっと休んだらどうだ。一服すんべや」 それでも栄二は草刈り機の柄をふるう [続きを読む]
  • メイ  その14
  •  「メイちゃんどうしたの、そんなところで」 聞き覚えのある男の子の声が土手の下でしました。 ニッキでした。 いま目を離したら、メイはもう二度とお母さんと思われる女の人と会えないような気がしました。 でも心の優しいニッキがせっかく心配して来てくれているんだから、と、 「なあに。あたしいま忙しいんだけど。ご用があるならあとにしてくれる」 とこたえました。 メイの口からでてきた言葉は、心とはうらはらです [続きを読む]
  • 沢姫さま  その1
  •  谷間に草刈り機の音がこだましている。 杉やひのきの下草を刈りとっているのだ。 昼間でも陽はあまりささない。 六月にはいって雨ばかりふっている。 山中栄二の雨がっぱは、たちまちずぶぬれになってしまった。 「いてっ」 ふいに栄ニが左手で首筋をおさえた。 とたんに草刈り機が大きく弧をえがいてブルンと空を切る。 「おいこら、何やってんだ。あぶねえじゃねえか」 となりで同じ作業をしていた年輩の男がこわい顔 [続きを読む]
  • メイ  その13
  •  メイはこわくなり、土手をスルスルすべりおりようとしました。 でもからだが動かないのです。 膝ががくがくふるえます。 「行かないで、メイ。お願いだから」 女の人は今にも泣きだしそうそうです。 (メイって言ったわ......。わたしこんな人に会ったことも見たこともないのに。きっと人違いしてるのにちがいないわ) メイが黙ったままでいると、女の人を包んでいる光が弱まりはじめます。 「なんにもしないわ。心配しない [続きを読む]
  • メイ  その12
  •  それ以来気味わるがって、メイのそばに寄ってくる子はいません。 ただひとり頼りになるのは、ニッキ。 でも男の子です。 「おはよう」とか「さようなら」のあいさつをしてくれるものの、女の子みたいにあれこれおしゃべりはしません。ですから、メイはいつも孤独でした。 「ねえあのね... ...」 黙っているのがたまらなくなり、クラスの女の子たちの会話に加わろうとするのですが、むだでした。 彼女たちはメイの顔を見る [続きを読む]
  • メイ  その11
  •  人とちがったことができるのはいいことばかりではありません。 メイはおとなの足でも一時間ほどかかる町の小学校までスクールバスでかようようになりました。 「ねえ、ケイちゃん。あのねきのうね。森のなかを歩いてたら、大きなくまさんに会ったのよ」 メイがふりむき、すぐうしろの席にすわっていた級友に話しかけました。 でもその女の子は返事をしません。 ぎょっとした目をし、わきを向いて、通路の向こうにいる男の子 [続きを読む]
  • メイ  その10
  •  どこで習いおぼえたのか、メイも鳥のさえずりに合わせ、かわいい声で歌います。 それはいい加減なものではなく、ちゃんとした旋律をもっています。 「ちょっちょっと、メイちゃん。その歌って」 メリカの呼びかけに、メイはちょっと顔をしかめましたが、すぐにまたほほ笑んで、歌うのをやめました。 「なあに、メリカおばちゃん」 「どこでおそわったの。わたしのぜんぜん知らない歌みたいだけど」 「そうかしら。なんだっ [続きを読む]
  • メイ   その9
  •  モンクは家までもう少しのところで、メリカと行きあいました。 足もとを見つめ、ゆっくり歩いてきます。 (かわいそうに、どれほど心配したことだろう) メイについてくわしいことを彼女に知らせていないことを悔やみました。 ただの捨て子としか思っていないのです。 でも告げたら告げたで、心配が増すかもしれないとモンクは思いなおしました。 メリカがモンクの足音に気づいて、顔をあげました。 「おまえさん」 顔をこ [続きを読む]
  • メイ   その8
  •  「おじちゃん、だいじょうぶ?」 そう言って、メイがモンクの顔をのぞきこみました。 あんなに探しまわったメイの顔が、目の前にあるのです。 モンクは胸がいっぱいになりました。 ブランコでからだを揺すられるどころの騒ぎではありません。 めまいがして、結局立っていることもかなわなかったのです。 気持ちがわるいのですが、メイにいやな顔を向けているわけにはいきません。 「ああ、大丈夫さ。なんのこれしき」 む [続きを読む]
  • メイ   その7
  •  歌声のぬしがメイだとすると、ひょっとしてあそこから落ちでもしたら、とモンクの心ははやります。 急がば回れ、で安全なルートをとるのがベストでしょうが、とてもそんな悠長なことをしているひまがないように思えました。 (ちょっとあぶないが、気をつければなんとかなるだろう) 彼は、ちょっと油断すれば、ころび落ちそうな崖をのぼりはじめました。 木の根っこや草をつかみながら、一歩また一歩とのぼっていきます。  [続きを読む]