山に越して さん プロフィール

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山に越してさん: 山に越して
ハンドル名山に越して さん
ブログタイトル山に越して
ブログURLhttps://blog.goo.ne.jp/tckk58sso
サイト紹介文日々の生活の記録
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供13回 / 365日(平均0.2回/週) - 参加 2014/10/01 09:42

山に越して さんのブログ記事

  • ミミの旅 10−8
  •  八 風と、カラスと話をして、ミミは少しだけ勇気と元気が湧いてきました。そしてまた北風を受けながら歩いて行きました。砂浜も所々小さな石粒に変わっていました。石と石との隙間に何匹かの小魚が泳いでいました。「こんにちは」 と、ミミは声を掛けました。「こんにちは」 と、魚が答えました。「こんなに北風が吹いていて、ねえ、寒くない?」「何時も水の中にいるから、風が冷たいのか分からない」「水の中って暖かいの [続きを読む]
  • ミミの旅 10−7
  •  七 朝になりました。昨日の夜、街灯の周りを回っていた蛾たちは、すっかりいなくなりました。でも、ミミの心の中には蛾たちの言った言葉が残っていました。 ミミは橋を渡り、川に沿って海辺に下って行きました。昨日上った数だけ下ったならば、そこは、川を越えた海岸でした。そしてまた、海岸線を北に向かって歩いて行きました。風が吹いてきました。初め西風が、次に東風が、そして最後に正面から北風が吹いてきました。ミ [続きを読む]
  • ミミの旅 10−6
  •  六 ビー玉と話をしていたので、辺りはすっかり暗くなり少し寂しくなりました。ミミはベンチに戻り、リュックサックの中からパンを出して食べ始めました。 まだ、皆さんにはミミのことを話していませんでした。 ミミは海辺の小さな町に住んでいました。お父さんと二人だけの生活です。そのお父さんも、漁に出掛けると二日は帰って来ないときがありました。そう、お母さんは、ミミが今よりも小さかった頃に亡くなっていました [続きを読む]
  • ミミの旅 10−5
  •  五 ミミは北に向かって歩いて行きました。ミミの決断は北に向かうことを決めたのです。途中海に流れ込む大きな川があり、深そうだったので渡れそうにありません。ミミは川を越えるために上流に向かって歩いて行きました。暫く行くと橋があって、橋の袂に公園がありました。ブランコが目に付き、乗りたくなって公園の中に入って行きました。 ミミはブランコに乗って風と遊んでいました。側で小さな囁くような声が聞こえました [続きを読む]
  • ミミの旅 10−4
  •  四 翌朝目覚めると近くでコソコソと音がしていました。始め、寄せる波音だろうと思っていたのですが違いました。小さな虫たちが、せっせせっせと働いていたのです。 小さな虫は、海岸が整備される毎に数を減らしていました。小さな虫のなかには、その場所でしか生きられない、その場所を離れてしまうと死んでしまうものもあります。きっと、その場所にはその生き物にとって、生きるためのなくてはならない栄養素や、小さな虫 [続きを読む]
  • ミミの旅 10−3
  •  三 その夜は星が綺麗に輝いていました。ミミは少しだけ寒かったので体を丸めて星を眺めていました。始め少しだった星も、辺りが暗くなるに従って増えてきました。でも、本当は増えてきたのではなく、ミミの目にもよく見えるようになってきたのです。 夏の宵、日本海の浜辺では、宝石箱をひっくり返したように満点の星々が輝き地平に零れ落ちます。その美しいことと言えば、見た人にとって生涯忘れられない思い出となります。 [続きを読む]
  • ミミの旅 10−2
  •  二 夕暮れが近かったので、ミミは一生懸命歩いて行きました。少し疲れたけれど、休むような所はなく、防波堤まで行き休むことにしました。防波堤は、台風の大波や、地震の津波などを防ぐ、コンクリートで出来た大きくて長いものです。その上を自動車が走るようになっていたり、散歩が出来るようになっています。でも防波堤が出来ると、海辺の環境が変わってしまうことを、理解している人は多くいません。「こちらにいらっしゃ [続きを読む]
  • ミミの旅 10−1
  •  一 右を見ても左を見ても、気の遠くなりそうな広い砂浜が拡がっていました。大きな石ころや岩もなく、ただ、寄せる波に洗われている砂浜です。ミミは、寄せる波音と、引いて行く波音の違いを聞こうとしていました。静かに聞いていると、確かに違って聞こえました。それは、砂の流れるような音にも聞こえ、水が砂に吸収されてしまうような音にも聞こえました。 ミミは女の子の名前です。漢字で書くと、【美美】と書きます。ミ [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-16
  •  十六 裕二は暖房のない独房で蒲団にくるまっていた。これまで冬の寒さなど感じたことはなかったが寒くて仕方がなかった。四ヶ月間の独房での拘禁生活は身も心も切り刻んでいた。『・・・明日が来ることを信じて勉強していた。しかし十年も二十年も此処に居るような気がする。確固たる意識を持続させようとしても不安に脅される。慣らされることは無いだろうと思っていた。でも、知らず知らずの内に精神は腐敗して白昼夢を見る [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-15
  •  十五 学期末試験も終わり冬休みも間近に迫っていた。一日が長く、そして短く過ぎていった。「正美、毎週行っているの?」 と、夏江が言った。「うん」「正美の恋って辛過ぎる」「今は待つことしか出来ない。でも、苦しみではない」「子供だった正美が、いつの間にか大人に変わっていた。何が正美を変えたのか考えていた」「私・・・」「私達って一人の人間として見られることがない。本当は精神的に自立しているかいないかで [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-14
  •  十四 裕二は図書室にいた。読書することの楽しみを少しずつ身体で感じ始めていた。土曜日や日曜日、独居にいるとき、読書することで自分自身を変えようとしていた。「裕二、腕章の色が変わったな」 と、齋藤が言った。「お前もな」「このまま行けば年度内に出られるかも知れない」「そう言う訳にはいかないだろう」「さにあらずだ」「退院出来れば良いが!」「二段階特進がある」「どう言うことだ」「成績が良ければ今年中に [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-13
  •  十三 毎日が淡々と過ぎていた。無為な時間は生きることを放擲して惰性に身を委ねる。少年院の生活は若者たちに生きる力を、希望を与えるものではなく、心を、人間性を蝕んでいた。しかし裕二や齊藤光男にとって自問することで微かに保っている。「一日が意味を持っていない」 と、図書室の片隅で齊藤光男が言った。「そう思う」「独房の壁に触れていると過ぎ去った俺の日常が見えてくる。社会的な生活をする為には共通する知 [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-12
  •  十二 天気の良い日だった。午後のラジオ体操が終わり、裕二は一人ベンチに掛けジーッと塀を見ていた。入院後一ヶ月半過ぎていたが、裕二は努めて一人で居るように心掛けていた。話をしないことで自分自身に耐えていたのではなく、一人黙々と作業することや、瞑想することで正確に物事を捉えようとしていた。また、独居での生活に順応しながらも、一つ一つの事柄を正確に記憶して置くことが、裕二にとって院内に於ける唯一の抵 [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-11
  •  十一 N中等少年院に入院してから二週間が過ぎていた。正美のこと、家族のこと、学校のことなど考えることが次から次へと浮かんできた。不安であった。不安であったが静かに考えて行こうと思った。 その頃の裕二は少年院での日常が分かり掛けてきた。六時半の起床、居室の清掃及び整頓、七時の点検、七時半の朝食、八時半の出房、十一時半までの教育、十二時の昼食、休憩、体操、レクレーション、そして還房は午後三時、夕食 [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-10
  •   十 裕二が逮捕されてから正美は不安定な日々を送っていた。両親との軋轢、また、父親から殴られ酷く罵られた。母親は正美を庇っていたが、父親はそんな母も罵っていた。弟や妹も不安な眼差しで姉を見ていた。 夏休み中は外出することもなく過ぎて行った。そして、二学期が始まり一週間が過ぎた。G警察署で事情聴取を受けていたことを学校側は知っていて、登校初日校長室に呼び出された。校長室には教頭、学年主任も立ち会 [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-9
  •   九 N中等少年院は関東地方の南西部多摩丘陵地帯の一角にあった。周囲は閑静な住宅地に囲まれ、未だ開発が進んでいない山林地帯が拡がり、小高い丘の上からはS市の全景が見渡せた。しかし少年院の周囲は、高さ四メートルの剥き出しのコンクリート塀に囲まれ、内部の所々は有刺鉄線が張られ物々しさが感じられた。N中等少年院は、収容人員二〇〇名、職員数七十名で管理運営されていた。正面玄関に管理棟、その奥に独居棟が [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-8
  •   八 裕二は一週間の間受験勉強に取り組んでいた。国立大学を目指していたが、受験科目が同じと言うことで教育学部だけではなく、もう少し考えてみることにした。それに、難しいことは分かっていたが、家から通学するのではなく自分だけの生活をしたい欲求もあった。夕飯のとき父親に相談した。「話があるけれど・・・」「大学のことか?」 父親は最近の様子を母から聞いていたのだろう、そんな風に応えた。「大学を変えたい [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-7
  •   七 正美は夏期練習の為朝早くから登校していた。昼迄練習があり、帰宅後は昼食の支度、掃除、時間があれば読書をしていた。また夕方になると買い物に行き夕食の準備に追われた。家事をしていても苦痛に思ったことはなく、時間に追われる生活だったが心のなかには余裕があった。それも正美の性格だったのかも知れない。 二階のベランダから涼しい風が流れ込んでいた。『・・・夏休みが終われば高校生活も丁度半分終わる。来 [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-6
  •   六 裕二の内面は変容しつつあった。青春時代にとって自我の確立は必要不可欠のことである。自分と言うものを確立することで、人間として確かなものを見出して行く。受験に合格しても失敗しても、しっかりとした意識がなければ結果的に生きることの前提を失う。裕二は自分の中に何があるのか知りたかった。「裕二」 母親が階下から声を掛けた。「何か用?」「御飯だから下りていらっしゃい」 今夜も二人だけの夕食だった。 [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-5
  •   五 裕二は正美と別れてから近くの店でパンを買い、公園で食べ終わると再び図書館に戻った。焦燥感を感じていた。今やらなければならないことが沢山あるように思った。背表紙を見つめ、其処に自分自身を置いてみた。何故生きているのか、何故高校生なのか、これから何をするのか、何を求めているのか知りたかった。その日、裕二は夕方まで図書館にいた。何冊かの本を手に取り、ぱらぱらと捲っては文字を追っていた。 家に [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-4
  •   四 弟、妹は食後直ぐ出掛け、正美は食後の片付け終えるとベッドに横になり読みかけの本を開いた。しかし本の中に入って行くことが出来なく、今別れてきたばかりの裕二のことを考えていた。『・・・裕二に会うことが出来た。私のなかで裕二との出会いを摂理ではないかと感じるときがある。あの日、私を引っ張って行く手の力に、私の全てを吸収してしまうものを感じていた・・・私が虐められていたところを遠くで見ていた人が [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-3
  •   三 その日、裕二は九時近くになって帰宅した。そして、「ただいま」と言うなり母や父にも会わず玄関から二階に上った。顔や腹を殴られ痛みは残っていたが出血はなかった。ワイシャツは破れていたがズボンは大丈夫だった。二階から、「お母さん、飯は友達と食ってきたから風呂だけ入る。空いたら呼んで」と言って、部屋の戸を閉めた。『・・・自転車で突っ込んだから相手は怪我をしたのかも知れない。しかし上手く逃げること [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-2
  •   二 もう一人の主人公田中正美の通う都立商業高校は、裕二の通っている私立校より三キロほど東に位置していた。東京の郊外で、広葉樹が多く残っている街並みと、家々の庭先には、柿木やカリンなど実の生る木々が植えられ穏やかな風情を見せている。その日、クラブ活動が七時過ぎに終わり正美は帰宅の道を急いでいた。母親は仕事で遅くなると分かっていたので、早く帰って夕飯の支度をする予定だった。 都立商業高校は女子生 [続きを読む]
  • 鷺草(さぎそう) 16-1
  •   一 学期末試験も終わり山下裕二は高校生最後の夏休みを迎えようとしていた。一年生の時から常に学年上位の成績を修め、今回もある程度の成績が取れたことで、このまま行けば来春公立大学が受かるだろうと確信していた。また、兄は地元の公立大学工学部の三年生で、自分も同じ大学の教育学部に進学する積もりでいた。将来は学校の教員となるか、公務員として働くことを希望し、遊びたい年頃だったが、机に向かうことは嫌いで [続きを読む]
  • 通り過ぎた海辺 12-12
  • 十二  春が終わり、夏、秋と過ぎて行った。一週間ほど前からガリガリ、ガリガリとモーター音が酷くなっていた。そして、後ろ足は腐りひっくり返りそうだった。最早寿命を延ばす修理より廃棄処分が似合うことだろう。 傾き掛けた後ろに松の姿が見えた。その度に、松は悲しそうに俺を見つめていた。今日で終わりなるかも知れないと思いながら、それでも三度目の冬を迎えようとしている。しかし、この寒さと [続きを読む]