春の水は、濡れているそうだ。水に濡れる、ということは普通のことだ。しかし、水が濡れているというのは、新しい驚きの感覚で、次のような俳句を、目にしたときのことだった。春の水とは濡れてゐるみづのことこれでも俳句なのかと驚いたので、つよく記憶に残っている。たしか作者は、俳人の長谷川櫂だったとおもう。水の生々しさをとらえている、と俳人の坪内稔典氏が解説していた。「みづ」と仮名書きして、水の濡れた存在感を強調した技も見事だ、と。散歩の途中、そんなことを思い出して改めて池の水を見た。日毎に数は減っているが、あいかわらず水鳥が水面をかき回している。池の水がやわらかくなっているように見えた。池面の小さな波立ちも、光を含んで艶っぽい。真冬の頃のように、冷たく張りつめた硬さはない。水が濡れる、という言葉がよみがえってきて、こ...水が濡れる