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2016/01/21

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  • デイドリーマー2

    日差しは眩しいが、刺すような暑さという訳ではなかった。生ぬるい空気が膜のように素肌をつつんでいる。日焼け防止にカーディガンを羽織っていたが、このままだと熱中症は避けられないだろう。下はキャミソールだ。はしたないような気もしたが、周りにビキニの人間がわんさか居る中でこんなことを気にしているのはあまりに馬鹿馬鹿しいので、とっとと脱ぐことにした。風に削られた手製の砂山に、誰かの忘れ物だろう赤いプラスチックのスコップが埋まっている。辺りに家族連れはもう、いないようだった。砂をすくい上げると、ほのかにあたたかい。手のひらから細かな粒子が滑り落ちた。少し深くまで掘り進めると、湿った土が湧き出てくる。私は漠…

  • デイドリーマー

    磨りガラス越しに夕陽が透けて見える。洗ったばかりの花瓶から水滴が流れ落ちた。流しっぱなしの水道を止めて、両手を布巾で拭う。惣菜デリバリーの配達員が、両手に抱えたビニール袋を揺らし、視線でこちらを伺った。 「場所もないので、テーブルの空いたところにでも置いておいてください」 「では、ここに置いておきますね!こちら次回お使いいただける割引クーポンですので、もしよろしければ……」 礼を言い受け取る。抱えた多量の容器を慣れた手つきで置いていく。女性らしからぬ筋張った腕がシャツの裾から垣間見えた。横に流れた前髪を左手でひろい上げるその仕草をいつまでも眺めていた。 この人が欲しい。ただ、どうにかして彼女を…

  • いつもと文体変えたら文の進みが早いけど脈絡がなさすぎる 脈絡がないのはいつものことだけど・・・(タイトル)

    早朝一番に気がついたのは、胴から胸が生えているということだ。別に男にも胸はあるけど、そういうことが言いたいわけではない。俺にしては豊満な乳房がだらしなく垂れ下がっていた。ハアー?!おっぱい生えてる──と思わず宙に話しかけるその声も、心なしかいつもより500000000オクターブ高い。ふざけるな、寝て起きたら女になってるなんてそんなふざけたことあるかよ!ぶち殺すぞと誰に言うでもなく叫ぶと突然、窓ガラスが砕け破砕音が響いた。 「説明しよう、お前が女になってるのは私の私怨もとい支援。新たなステージへお前を導きたいが故の所業なのだ」 窓からやってきたのはまさにトラブルメイカーであり、面識のない一般の怪…

  • 三方悪し2

    横柄な大家には、備え付けの家具は大概ろくでもないので、日本の家具屋で買って来いと言われた。ここが日本じゃないとでもいうのか、と聞いたらそうだ、と平然とした顔で言い放つ。全くふざけてやがる、どいつもこいつも全く冗談じゃない。いや冗談だろう。本当に恐ろしいのはこれが冗談じゃなかったときだ──そのときはそう思ったが、どうやら本音だったらしいと分かるのは、団地に住んで四ヶ月が経過した頃だった。 まともな家具屋、まともな家具屋とうわ言のように呟きながら、ひとで賑わう電気街をしらみ潰しにあたっていく。夏の蒸しあがる暑さとすかした顔の店主に腹を立てつつ、一通りの家具だけを買い揃えて新居である己の部屋へ向かう…

  • 三方悪し

    ここは広大な工業団地地帯。しかし大企業が単独で地方を寡占し、社員の社宅のようになっているという訳ではない。周辺には、精密機器のパーツ生産を担う中小工場が乱立と言っても差し支えないほどにひしめいていた。この団地地帯はすべて、昔からあるものではなく、ある時を境に急造されたものである。ともかく急ごしらえなだけあって、違法建築も真っ青の突貫具合であり、窓を開けば立て付けが悪いために開かず、天井からは水が漏れ、階下が水浸しになるといった始末であった。 しかし人々はそこから逃れることは出来なかった。なぜなら、この地域はまだ森林開発が進んでおらず、土地不足であるがゆえに地価がやたらと高い。そのため、うかつに…

  • 口にしては不味い 1

    「タイミングが悪かった」そうとしか言いようがなく、自らの手で己の首筋を少しずつ、しかし確実に削り取るような心地であった。薄氷の上に座しているのであり、それでいて奇妙な安堵感を抱えながら至極真っ当に真崎は日々を暮らしていた。それは自分の人生はこうあるべきだという確信に満ちた安らぎである。おそらくそうなるだろうという薄ぼんやりした予測の末に特に抵抗することもなく、またその余力もなく、収まるべきところに収まった現状は怠惰そのものである。本当のことを言えば、その言葉を信じてはいなかった。全て話半分にしか聞いておらず、まともに受け取る必要のないものだと初めから切り捨てていた。そのつもりだった。しかしそれ…

  • イジョウに脆いカンケイ

    破れ鍋に綴じ蓋であり、新たな拠り所を探し続けていたこの人はついにその相手を見つけたのだと思っていた。このままうまくいけばいいなとさえ思っていた。何故このようなことになってしまったのか。 綿貫は女の扱いに困っていた。最初はただの親切心から彼女の相手を始めたが、四六時中メールを寄越したり、誰かと出かけると思えばそれを追求したり拗ねるようなそぶりを見せたりして、彼女はまるで恋人のようであった。遠巻きに眺めてよほど善人そうに見えたあの姿は全くの虚像であった。同性であり、様々な交流があればこそそれを許容されようものの、2人はまだ出会って一ヶ月ほどであった。面倒になった綿貫は住まわせていた女を遠回しに追い…

  • 同情をどうぞ

    順々に思い出そうとしても何が何だかよく分からない。目の前の道路脇にはラバーポールが生えていた。眺めていると地面にくい止めてあるネジのところから海藻のようなものが這い出ているのに気づく。横をトラックが無遠慮に通り過ぎたので、泥水がシャツの袖口にかかる。足元では鋭い砂利と生ぬるい水溜まりの感触が混じっていた。それから私はベロベロに塗装の剥げた白い鉄橋をゆらゆらと歩いていた。私は橋の上から光の流れを眺め、自分がどうするのが一番都合が良いのかを考えていた。しばらくそのようにしていると後ろから声が聞こえた。私はそれが私に掛けられている言葉だとは思ってもいなかったので肩を叩かれるまで振り向かなかった。「何…

  • パラレルコンバータ

    完全に日は落ちたが、まだ比較的車の通りは多い。僕は在学証明書を実家に送るためにコンビニで百二十円切手を買い、投函しなければならなかった。ツタの這う郵便ポストの前に立つ。肩に任せたビニール傘は強風で向こうに引っ張られそうだった。ひどい土砂降りで地面が光っていた。セロハン袋の中から切手を取り出そうとするが、静電気でひっついてめくりにくい。濡れた肩が冷たかった。僕は車のハイビームからまだらに照らされながら切手の裏側を舐めた。傘からはみ出た投函予定の封筒が水滴が染みて湿っていたので剥がれるか心配になりもうひと舐めした。僕は何をしているんだろう。さっさと家に帰ろう。時折人がちらつく微妙にしょっぱい商店街…

  • 道行き

    横目に見た白い息は風に流されてしまった。私は両手に嵌めた防水仕様のナイロングローブをさすりながら玄関のアルミスコップを拾った。くたびれたモッズコートのフードを被り、使い捨てマスクをビニールから取り出す。上を見上げると、雲の隙間から光の筋が差し込んではいたが、太陽そのものは見えなかった。鈍色のくもり空のもとで少し鼻をすすりながらザラメ雪を掻き進んでいる。私は車の前の邪魔な雪をどかさなければならなかった。しばらくして冷えた車内に乗り込むが、フロントガラスが曇っていてまったく前が見えなかった。はり付いている霜をとり除くためにデフロスタのスイッチを押した。腿の裏まで冷たいので後部座席のクッションを引っ…

  • 揺さぶり

    「何かここに絵でも描いといてよ」濃いピンクの画用紙に書いたちゃちな料金表の空きスペースを指さし、黒のサインペンを手渡した。横目で覗き見ると、ミハルは年の割には少し幼い、ちょうど女子小学生が描くようなアンバランスなうさぎやハートをためらいながら描いていた。それを見て僕は肝を冷やすような思いがした。目の前に居るミハルはやはり生身のおんななのだ。そのおんなにも未だ自分のことをよく知らないで、親の手の中に柔らかく包まれている子どもだったときもあったのだ。例えば画用紙にクレヨンで太陽や花を書き殴り、無邪気に見せびらかすような……。それなのに僕には到底手の届かないことを、彼女はこともなげにケイケンしている…

  • 無題

    性的表現があります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。 汗の香りがプンプンとのぼり立つような完熟体を目前にして、ぎょろついた視線を余すところなく泳がした。ねめつけるような視線がいたく扇情的でぼくは全身の性感帯をねぶられているような気分になった。そんな目をしていても怯えて、ぼくが一発殴ってしまえば倒れてしまうくせに、妙に強気な態度を取ってみたりして、そんな女のいじらしいさまに感動した。とりあえず敷布に膝立ちさせて薄手のプリントTシャツを脱がせた。その身体の線イッパイに成長ホルモンが迸っているような目一杯パンパンに膨らんだ太ももを味わうように両の手のひらでひっ掴んで揉みに揉んだ。仄かな肉肌の…

  • あいの似姿

    起きぬけでよどんだ頭は、部屋着に残る体温だけを感じている。冬場の台所は冷たい。このまま淋しさが敷き詰められているような空しい空間に取り込まれていても仕方なかった。喉が渇いたので水を飲む。水垢のこびりついたシンクにダバダバと流れ落ちる流水が妙に不安を誘う。冷たい水を一気に飲み干した。電灯も付けないでいるので、薄墨色に濁った夕日がカーテンを開けるとよく見えた。しばらく眺めているとポツポツと佇む街灯しか見えなくなってしまった。そのとき、ガサゴソと音がした。襖を隔てた向こう側にはおとうさんが居る。今は、もう二十時……私は何時間寝ていたんだろう。ヒーターのスイッチを回してカゴに積まれたみかんを三個とった…

  • うまくいかない

    斉藤はヨウコと名付けたメスの猫を飼っている。今年のゴールデンウィークに引き取り手を探していた親戚からさずかった猫だった。やや忙しいバイト生活に明け暮れる斉藤にとっては行き場のない寂しさを紛らす唯一の救いである。ヨウコという人間の女のようなその名前の由来は、去年の夏の終わりから春にかけて半年ほど付き合って別れた元カノの名前からとったものだ。だからといってその猫をそのヒトの代わりにしているのかといえば別にそういうわけでもなく、ただ単に名付けるための名前におけるボキャブラリーが貧しかっただけである。しかしひとたびこのヨウコという名前が友人にバレてしまえば誤解を招くことは必至であり、免れることなく「キ…

  • 桂浜

    桂浜は綺麗でした。地元の浜やビーチとは比べ物にならないほどのもので、今まで自分はそれらに満足していたけれど、こんなにも透きとおった青い海というものを見てしまうとやはりがっかりせずにはいられないというか、あんな濁り水で喜んでいたんだという悲しいやら、それでいて目の前の景色には感動せざるを得ないような微妙な心持ちでいました。昨日高知城にも行きましたが、そこと同じように海岸の入り口にはやはりアイスクリンが売っていて、あとで買おうと友達に耳打ちしました。砂浜は太陽光のせいでかなりの熱を持っていて、その時私はサンダルを履いていたので小さな石のような砂がかわるがわる土踏まずの下に入り込んできて、小刻みに足…

  • 夢の猥雑

    6/4固まる感覚の無くなった手を必死になって揉みしだいた。現実味を帯びた生々しい夢から覚めきれないでいる。指先をきゅっと小さく折り曲げた。肉薄するリアリティに怯えながら、それでも何とか自分を鼓舞しようと、いつものようなルーチンワークをよどみなくこなしていった。 5/21溺れる気がつくととろみのある液体の海に沈んでいた。その液はほのかに熱を帯びていて、そのうち体の中まで浸水し、このまま皮膚や臓器が溶け出して消えてしまうのではないかという恐怖を抱いた。今すぐにでもそこから這い出たいと思ったものの、重たいぬめりに足を取られて抜け出せない。しばらくもがいているうちに、何とか顔だけは外に出すことが出来た…

  • せき止められない

    僕が居たのは、ワンルームの狭いアパートだった。そうだった。小さなテーブルの上には昨晩の食べくさしがまだ残っている。頭の中もまだ夢の続きを引きずっていた。未だにはっきりと目が覚めなかった。枕元の目覚まし時計は三時を指している。僕は十時間も眠っていた。空腹を満たすためだけに、布団を剥いで起き上がった。生臭い万年床からゆっくりと這いでて、冷めたカップ麺を少しだけすすった。朝から意味もなく泣いている。リアリティのない感覚にうろたえることさえ、もうすることはないだろう。鼻をかもうと、窓際に置いた日に焼けたティッシュを取った。逆に埃が舞って、くしゃみが出た。先週のはじめに買ったはずの、二リットルのポカリス…

  • プールサイドフロー

    平日だから、少しは人も減っているだろうと思っていたが、相変わらずカップルや家族連れで満員だった。最近雨続きで、ろくに外出出来なかったその反動かもしれない。今日は久しぶりに良い天気だ。良いプール日和だ。ウォータースライダーの前には行列が出来ているので、しばらく流れるプールに浮かんでいようと思う。ハイビスカス模様のピンクの浮き輪を借りた。濡れた階段を滑らないように降りる。何年かぶりに浸かったプールの水はとてもぬるかった。程よい抵抗を感じながら水の中を歩く。少しはカロリー消費されないかな。目の前の小学生だろう男の子が、ビート板の上に乗ろうとしている。三枚重ねのビート板の浮力はかなりのもんだろう。当然…

  • 今夜はトンカツ

    溶き卵が、小麦粉をまぶした厚い豚肉の両面に行き渡った。手早くパン粉をまとわりつかせ、熱い油の中へゆっくり落とす。ジュワッと気泡がわきあがった。鉄鍋から油が跳ねている。パチパチと音を立てながら、きつね色の衣に包まれていく。白い大皿の上に敷かれたクッキングペーパーの上に、熱いトンカツを重ならないようにして置く。換気扇と、ガス周りを照らすオレンジ色の明かりを切る。熱が冷めたら、皿に千切りしておいたキャベツとプチトマトを盛りつける。一切れずつに切り分けたトンカツを最後に並べる。炊飯器を開けると、フワフワと淡い湯気が吹き出した。白い茶碗に炊きたての白飯を盛り付ける。湯のみに冷たい麦茶を注ぐ。とりあえず何…

  • 渦の中

    幸いにも、入り組んだ路地の向こうにあったのは中華料理店だった。ただ、時間が悪かった。店内は結構混雑している。だけど、奥の方に一つだけ席が空いているようだ。ウエイターが雑にメニューと水二つを置いていった。場所が場所なのでそれが当たり前なのかもしれないが、いかにも中華だと言わんばかりの赤い提灯が大量に吊るされている。内装事情は一周回っているのか、天井に巡らされている配管はむき出しだ。店内は、広さの割にはあまり天井が高くない。そのせいか、大きく開いた厨房の方から流れてきた湯気が天井に充満している。やっぱり、大量の提灯がちょっと目障りだ。独特な、しみったれた閉塞感……。ある意味、夢みたいだ。取り敢えず…

  • 落下傘

    雨は全く止む様子がない。前髪からポタポタとしずくがしたたり落ちていた。この道は、濁った水溜りで埋め尽くされた粘度の高い湿地帯だ。立ち止まって靴底を見ると、模様に赤土がきゅうきゅうに詰まっていた。思わず鳥肌が立つ。はじめは水溜りを避けようとしていたが、後になるとジーンズの裾のことなどもうどうでも良くなった。僕は容赦なく泥水を跳ね飛ばして行った。ようやくのことで、三崎に追いついた。奴はスポーツ推薦で大学に進学したから体力には自信があるんだろう。だから、スマートフォンを僕から奪って走り去るなんて馬鹿なことをしたんだ。それに僕なら振り切れると思ったんだろう。だけど、追いついた。後先考えずに瞬発力だけで…

  • 箔/大判草

    彼女が持ってきたのは枯れた草だった。別に期待していたわけではないが、こうもどうしようもないものだとは思わなかった。僕は何だか馬鹿馬鹿しくなって、いい加減な相づちを打ちながら話し半分に聞いていた。彼女はそんな僕の態度を気にかけないで、誰それに貰っただとかいう何の得にもならないエピソードを楽しそうに披露している。枯れ草には、干からびた楕円形の葉がぶら下がっていた。その見た目から名付けられた名前は、大判草というそうだ。ドライフラワーの要領で乾燥させたらしい。何もかも薄茶色なのはそのせいか。彼女が言うには、この汚れた枯葉の皮の内にお楽しみがあるのだと言う。慎重にめくらないと破れるから、ゆっくりと剥がす…

  • 反芻⑴

    不明瞭な森の中を、僕は早足で突っ切っていた。早くここから出ていきたかった。なぜ自分がここにいるのか、全くわからなかった。どうしてこうなったんだろう。そんな疑念が止めどなくわきあがった。頭のなかに浮かんでは消えてゆく。気がついたらここに居た。日が射すこともなく、あたり一面が濃い霧に包まれている。その灰色を突き刺すように、数多の白樺がそびえ立っていた。ペンキで塗ったような白い木々に囲まれていると、嫌でも不安になる。いずれの木も全て落葉していた。湿った地面には枯れ葉が敷き詰められていた。全く落ち着かなかった。脊髄からじわじわと僕を侵食する奇妙な焦燥感だけが、確かなものだった。抜け出したい一心でひたす…

  • 反芻⑵

    こんな森の中に一人でいるなんて、危ないんじゃないか。そう思い少女に尋ねると、なんと家には彼女一人だという。驚きを隠せず、反射的に歳を聞くと、九歳だと言う。呆気にとられた。まだ小学生じゃないか。まあ、家庭の事情は人それぞれだから口出しは余計な事なんだろう。しばらく会話を交わしていると木造の小さな小屋が見えた。材木はまあ当然白樺だろうな。ピカピカの黒塗りの屋根が、自然な雰囲気のこの場所にはミスマッチだった。「すみません、狭いところで」少女は苦笑いする。「いや、そんなことないよ。大丈夫」嘘ではない。確かに広くはないが、窮屈さはさほど感じない。大きな窓が両壁についているからだろうか。「どうぞ、座ってく…

  • フラッシュ

    幻覚を見たことがあるんです。もしかしたら、幻覚を経験したことがあると言わないと怒られるかもしれません。幻聴じゃなくて幻視でした。どうして幻覚っていうのは、こう、ピンポイントで的確に恐怖心を煽るんでしょう。小学生のときのことです。僕は運動より本を読むことが好きで、暗い内向的な子供でした。昼休みはサッカーとかバスケとかには混じらないで、いつも図書館へ通っていました。それで、「ぼくは王さま」っていう児童書があって。そのシリーズをよく読みました。理由は覚えてないです。多分、たまたま手に取りやすい所に置いてあったとか、そんなもんじゃないですか。内容は、内容は、何か変な話が多かった気がする。多いというか、…

  • カミフウセン

    昔のことを思い出した。いつかの夏休み、従姉妹のカナちゃんと僕と父とでどこかの神社へお参りに行った。車から降りて駐車場の壁面の上を見上げると、大きな朱色の鳥居が連なっていた。僕たちは傾度のキツい坂を少しずつ上っていった。道の左側には個人経営であろう店が数軒立ち並んでいた。錆び付いた看板を見るにきっと常連客しか来ないのだろう。休憩所、土産屋、食堂という感じだろうか。店先では、おばさん二人が日に焼けたビーチパラソルの下で優雅にお喋りをしている。何かに気づいたおばさんが僕らに声をかけた。「ね、もしかして××さんの」僕の父が振り返った。少し間があく。「あ、そうです。そうです息子です」合点が行った父はおば…

  • 受容と恒久

    彼女は、自分は赤面症なんだという。僕は驚きはしなかった。以前から、おそらくそうだろうと思っていた。彼女はいつも顔を赤くしている。周りの人間に指摘されると、照れを装い笑顔を模るのだ。彼女は人を見るのが、人に見られるのが怖いのだろうか。視線を恐れているのだろうか。僕もだよ。僕も怖い。視線が僕に刺さるんだよ。君が感じている恐怖と僕が感じている恐怖は同じものなんだろうか。彼女は恐怖している。怯えている。囚われている。顔が赤くなることで、人から無遠慮な視線を向けられることを恐れている。みんな関心のおもむくままに、不躾な視線を向けるだろう。目線で何らかの意図を仄めかしている。彼女もそれを極度に恐れているは…

  • サテライター

    どうしてだか分からない。朝、起きると背中が濡れていた。寝汗だろうか。冷たい。気持ち悪いから着替えよう。体を起こすと、床には見覚えのない紙がまんべんなく散らばっていた。何が書いてあるのかよく見えない。とりあえず踏んで滑らないように慎重に立ち上がる。わずかに手の甲に痛みを感じた。人差し指と中指の関節が赤く腫れている。何で腫れてるんだろう。分かんないな。大きく背伸びをすると目眩がした。最近頭が痛くなるようなことが多い。例えば面倒なレポート課題、そして僕に対しての彼女の態度。おかしい。なんか変だ。一ヶ月ほど前から異変を感じていた。彼女はどこか、ぎこちなかった。それでも直に本人に言うほどの勇気はなかった…

  • それはそうなんだけど

    実家へ帰る。九月末に終わった夏休みから大体三ヶ月くらいが経っていた。この壁の薄いアパートから約一週間離脱、抜け出せるのだ。ここから僕の地元へ行くには時間もお金も結構かかる。乗り継ぎもある。僕は田舎者なのでJRの電車を汽車と呼ぶのだが、汽車の中では音楽を聞くか伏せって寝るくらいしか時間が潰せないので、スマホの充電と枕代わりのバスタオルは忘れてはならない。そして今日、僕は切符を、特急券を買い直さないといけない。これは本当にどうしてしまったのか、自分でも自分がよく分からない。僕は本当は二十六日の午後三時のぶんに乗って帰るはずだったんだ。だから二十五日にもう荷造りをしておかなきゃならなかった。でもその…

  • 迷妄

    今年に入ってから益々視力が落ちた。夕方になると、車のヘッドライトが放射状になって僕の視界を妨げる。完全に日が落ちると今度はぼやけて光は靄のように見える。昼間だって数メートル離れた先にいる人の顔なんかも目視できないくらいだ。僕は目が悪い。悪いにもかかわらず、眼鏡をかけていない。コンタクトをしているわけでもない。人がそれを知ると必ず「危険じゃないか」とかなんとか言って僕を咎める。でも、それは僕自身も重々承知している。なぜ眼鏡をかけないのか。それは他人の目を見ないようにするためだ。他人からの悪意の視線に気づかないようにするためといったほうが正確かもしれない。僕は眼鏡をかけないんじゃなくてかけられない…

  • どうにも眠れない

    不眠の解消方法の一つとして「眠らなければならない」という気持ちをなくすというようなことがよく挙げられる。しかしそんなことを言われても、ひとたび意識してしまえばその考えを打ち消すことは非常に困難な事であり、意識していること自体を意識することによって余計に想起されてしまって結局堂々巡りになるのがオチである。そんなことを考えながら一応は寝床に就いたものの、やはり瞼を伏せただけではどうにも寝付けない。冷蔵庫のコンプレッサーの音がやけに耳に障った。気晴らしに本を読んだり飲み物を飲んだりしたが、いっこう睡魔は訪れない。むしろ起き上がったせいで目が覚めてしまった。そうして無為な時間を過ごしているうちにあっと…

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