エミール・ガボリオ ライブラリ さん プロフィール

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エミール・ガボリオ ライブラリさん: エミール・ガボリオ ライブラリ
ハンドル名エミール・ガボリオ ライブラリ さん
ブログタイトルエミール・ガボリオ ライブラリ
ブログURLhttp://blog.goo.ne.jp/puereternus2
サイト紹介文19世紀フランスの探偵小説作家ガボリオの未邦訳作品を翻訳しています。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供336回 / 365日(平均6.4回/週) - 参加 2016/02/12 18:34

エミール・ガボリオ ライブラリ さんのブログ記事

  • 第九章 3
  • バティストの話を聞いている三人は真っ赤に燃えている石炭の上にでもいるようだったが、このけしからぬ男はそれに気がつきながら、鞘から実を一粒ずつ取り出すように言葉をゆっくり選んでいた。「それで旦那様は手紙を手に取り、よりはっきり字が見えるよう窓際に行かれました。と、一目ですべてを読み取られました。そのとき---いや奇妙な事を目にするものでございますね---旦那様は掠れた叫び声をあげられました。よろしいですか [続きを読む]
  • 第九章 2
  • 彼が鞄を手に居酒屋を出るとすぐにプランタ親爺が言った。「急ぎましょう。村長のところへ寄って様子を聞いてみたいと思いますのでな」三人の男たちは歩を速めた。プランタ親爺は不吉な胸騒ぎを覚え、自分の不安と戦うために言葉を続けた。「もしクルトワ家で何か深刻なことが持ち上がったのなら、今までにわしに知らせが来ていた筈じゃ。ロランスはただ単に病気になったか、あるいはちょっと体調を崩したと書いてきただけかもしれ [続きを読む]
  • 第九章 1
  • 出来るかぎり手早く仕事を片付けたものの、プランタ親爺と彼の招待客二人がバルフイユ城を後にしたのは間もなく十時になろうかという時刻であった。彼らは朝来た道ではなく、ド・ラナスコル夫人の所有地沿いに続いている傾斜のある小道を通っていった。鉄橋まで斜めに突っ切っていくルートである。ルコックがちょっとした荷物を預けていた居酒屋に行くにはこの道が最短であった。歩きながら、プランタ親爺は事件の取り調べに多少気 [続きを読む]
  • 第八章 4
  • 「確かに」彼は言った。「殺人は刑事さんの言われたとおりに行われたに違いありません」非常に気まずい沈黙が再び訪れたので、プランタ親爺は口を挟んだ方がよかろうと判断した。ルコックが頑固に押し黙っていることに、彼はじりじりしていた。「あんたは見るべきものを全部見たのですかな?」彼は尋ねた。「今日のところは、そうですね、見るべきものは見ました。もう少し調べられればもっと良いのですが、それには日中の光が必要 [続きを読む]
  • 第八章 3
  • 「結構!」とルコックが応じた。「但し、注意してください」ドクターは急いで言った。「私は事実を述べているのではありません。これはあくまでも一つの推測です。私の個人的な確信が何に依拠したものかというと、それはごく一時的な、その性質上非常に捉え難い、断言するにはあまりに異論の多い現象なのです」ドクターのこの説明はルコックを酷く苛立たせたようであった。「しかし」彼は言った。「死亡時刻は……」「確かに言える [続きを読む]
  • 第八章 2
  • ドクターの目はルコックの上に釘付けになり、驚愕の表情が浮かんだ。「何故それが分かったのです?」彼は尋ねた。「ああ、それは私だけの手柄ではありませんよ」とルコックは謙遜して答えた。「治安判事様のお力もあって、私たち二人がこの事実を予測するに至ったのですからね」ジャンドロン医師は額を叩いた。「なるほど、そうでした」彼は叫んだ。「今あなたの忠告を思い出しました。あまりに心乱れていたもので、すっかり失念し [続きを読む]
  • 第八章 1
  • バルフイユ城の玉突き室で、ドクター・ジャンドロンは陰鬱な仕事を終えたばかりであった。広い袖と大きな裾が付き、ボタン穴にレジオン・ドヌール勲章の赤いリボンが飾られた巨大な黒い服、といういかにも真の賢者といった服装は脱ぎ捨て、丈夫な麻のシャツの袖を肘のはるか上までまくり上げていた。彼の傍に、パーティ時に冷たい飲み物を供する小テーブルがあったが、その上には彼が使った用具がばらばらに置いてあった。柳葉刀や [続きを読む]
  • 第七章 13
  • 「しかしゲスパンは」プランタ親爺が不安そうに尋ねた。「彼にも新たに尋問をされたのですかな?」「ああ、彼ですか。彼については、言うまでもないことですよ」「白状したのですか?」ルコックが唖然として尋ねた。予審判事は、自分に質問するとは不届きな奴、と思ったかのようにルコックの方に半分身体を向けた。「ゲスパンは何も白状していませんが」それでも彼は答えた。「彼の動機はこれ以上ないほど明白でしょう。川を浚って [続きを読む]
  • 第七章 12
  • そしてゆっくりと、ルコックと彼は邸に戻っていった。玄関前の外付き階段の上に、まさに出かけようとしている予審判事が立っていた。彼は頭文字を記した暗紫色の書類鞄を脇の下に抱え、オルレアン・ブラックの薄手の外套を着て、満足そうな様子であった。「治安判事、後はあなたにお任せしますよ」と彼はプランタ親爺に言った。「今夜帝国検事と面談したいので、私は今すぐ出発しなければなりません。今朝、あなたが私に使いを寄越 [続きを読む]
  • 芥川のガボリオ評
  • 芥川龍之介 「一人一語」文芸春秋 1925 4月号僕は探偵小説では最も古いガボリオに最も親しみを持っている。ガボリオの名探偵ルコックはシャァロック・ホオムズやアルセエヌ・リュパンのように人間離れのしたところを持っていない。のみならずガボリオの描いた巴里は近代の探偵小説家の描いた都会---たとえばマッカレエの紐育などよりも余程風流に出来上がっている。ガボリオは僕にはポオよりも好い。勿論評判のルヴェエルよりも [続きを読む]
  • コナン・ドイルのガボリオ評
  • 以下は「ファイルナンバー113:ルコックの恋」の「訳者あとがき」の一部。「緋色の研究」の中で、ワトソンがホームズと探偵談義をする箇所がある。「君を見ているとエドガー・アラン・ポーのデュパンを思い出すよ」と言われ、ホームズは「それは僕のことを褒めて言っているつもりなんだろうが、僕に言わせりゃデュパンなんて大した人間じゃないね。十五分も黙っていた挙句、うがった言葉で連れの思考の中に割り込んでくるなんて、 [続きを読む]
  • 第七章 11
  • 「治安判事閣下は御冗談を仰っていますね」彼は答えた。「高校生でもあんな足跡には惑わされませんよ」「しかし、わしの目には……」「間違いはございません。砂は蹴り散らされ、えぐられているのは確かです。これらの足跡は砂の下の地面を剥き出しにしていますが、どれも同じ足によってつけられたものです。その上、ここは、そうは思われないかもしれませんが---爪先だけでついています---そこを見ればお分かりになるでしょう」「 [続きを読む]
  • 第七章 10
  • 「我々の推理によると」とルコックが言った。「伯爵夫人は逃げられた筈はなく、死体はここまで運んでこられたのだ、というものでしたね。でなければ辻褄が合わない。後は調べてみるだけのことです」それからルコックは三階の部屋でしたように膝をつき、更にもっと念入りに砂と小道、溜った水、水生植物の叢生した箇所を連続的に調べていった。それから少し身を起こすと、小石を一つ拾い上げ泥の中に投げ込み、すぐに近づいてその波 [続きを読む]
  • 第七章 9
  • 彼は慎みも忘れてしまっていた。それほど怒りが高まっていたのか、一遍に五つか六つの練り菓子を口に放り込み、むしゃむしゃと呑み込んだ。「まあまあ」プランタ親爺は、泣く子を宥めるときの父親のようなたしなめ口調で言った。「そう腹を立てなさるな。確かにこの連中は手抜かりだったが、やつらにとっては計算外のことだったのじゃよ。あんたみたいな切れ者が登場するとは」ルコックは役者なら誰にでもある虚栄心を持っており、 [続きを読む]
  • 第七章 8
  • 「では食器戸棚の中にラムやコニャックの口の開いた瓶はなかったんだね?」「はい、そういったものはありませんでした」「ありがとう。もう行っていいよ」フランソワが立ち去ろうとしたとき、ルコックが呼び止めた。「ああそうだ」軽い口調で彼は言った。「ついでに、ちょっと見て貰えないかなぁ。食器戸棚の下の方に置いてある空瓶が君の記憶と合っているかどうか」フランソワは言われたとおり食器戸棚の扉を開け、叫び声を上げた [続きを読む]
  • 第七章 7
  • 「何が?」「いや、何でもありません……今のところは、少なくとも。ともかく何を置いても、食堂と庭を見てみなければなりません」二人は急ぎ足で降りて行き、プランタ親爺が脇に寄せておいたグラスと酒瓶をルコックに見せた。ルコックはグラスを一つずつ取り上げ、目の高さまで持ち上げたり、日にかざしたりして、グラスの湿り気を帯び曇っている箇所をじっくり観察していた。やがて検査は終わった。「これらのグラスはどれも酒を [続きを読む]
  • 第七章 6
  • 「通常ですと」ルコックは続けた。「これで完璧という時にならなければ私は口を開きません。そのときになれば断固として宣託を下すわけです。『これはこうである。あれはああである』というようにね。しかし今日は、このような複雑な事件を一目見ただけで解決することなどあり得ない、とご存じのお方を前に、慎みを忘れた行動を取ってしまいました。私が暗中模索している様子を破廉恥にもお見せしてしまいました。一足飛びに真実に [続きを読む]
  • 第七章 5
  • 「そうですか。そういうことだったのですね。賊たちは庭の方から何か物音が聞こえたので、見に行ったのです。何が見えたのでしょう? 分かりません。私に言えるのは、ここで見えたものが彼らを震え上がらせ、急いで鉈を投げ捨てて逃げた、ということです。傷跡の位置をよく見てください。当然ながら切込みは斜めに入っていますが、鉈は長持ちの近くではなく、開かれた窓の傍から投げ捨てられたということが分かるでしょう」今度は [続きを読む]
  • 第七章 4
  • 「狡猾な男じゃ」とプランタ親爺は思っていた。「わしに考えがあることを知って、それを探ろうとしている。この分では、きっと見つけ出しおるのだろうな」ルコックは肖像画付きのキャンディ入れをポケットにしまった。本腰を入れて仕事にかかろうとするとき彼はこうするのである。タバレ親爺に教えを受けた者としての自尊心が掻き立てられていた。これは勝負であり、彼は勝負師であった。「さて!」彼は叫んだ。「いざ出陣と行きま [続きを読む]
  • 第七章 3
  • 「あんたの言われるとおりかもしれん」彼は大して関心のなさそうな様子で同調した。「実際この事件の背後には何かがあるのかもしれん」ルコックは彼をじっと見つめたが、プランタ親爺は身じろぎもしなかった。依然として平然たる表情のまま、手帳にメモを書きつけていた。かなり長い沈黙があり、その間ルコックは彼の頭を悩ませている問題を例の肖像画に打ち明けていた。『ねえお前、分かるだろう。ここにおられる紳士は、どうやら [続きを読む]
  • 第七章 2
  • 「もしロランス嬢が中傷を受けていたとしても」微笑みを浮かべながらジャンドロン医師が言った。「少なくとも彼女を立派に弁護してくれる人がいたわけですね」治安判事のプランタ親爺は、クルトワ村長に言わせると物に動じないブロンズのような男だということであるが、殆ど目に見えぬ程度に顔を赤らめた。自分の興奮ぶりが少し恥ずかしくなったのだ。「守る理由があれば、自か守られるものです」彼は静かな口調で言葉を継いだ。「 [続きを読む]
  • 第七章 1
  • 「ロランス嬢からの手紙とは、どういうことだ?」彼は尋ねた。「どこかに出掛けておられるのかね?」「はい、さようでございます。お嬢様は八日前から母方の伯母様のところに一か月の予定で滞在なさっておられます」「それで、クルトワさんの奥様の様子はどうだ?」「良くなられました。ただ、見るもお気の毒なほど泣き叫んでおられます」可哀想な村長は、それでも何とか立ち上がり、召使いの腕を掴んで叫んだ。「とにかく、行こう [続きを読む]
  • 第六章 8
  • それから、予審判事の無礼な態度が腹に据えかねていたので、他愛のない意趣返しの一言を付け加えた。「ドクター、あなたですよ、私のマッチとなってくれる方は」ジャンドロン氏が部屋から出て行こうとしたとき、クルトワ村長の召使いバティスト、誰にも文句を言わせないバティスト、が敷居の上に姿を現した。彼は長々と敬礼をし、口を開いた。「御主人様のお迎えに参りました」「私を迎えに?」クルトワが尋ねた。「何故だね? 何 [続きを読む]
  • 第六章 7
  • またそれ故、難しい予審に当たっては厳格かつ実際的な態度を示すことは不可能であるとも言えた。今回の事件にあっては、予審判事とプランタ親爺の見解は全く異なっていた。彼らは互いに口を開く前からそのことが分かっていた。しかし、ドミニ氏の意見は物理的証拠や明白な状況に基づくものであり、彼にとっては自明のものだったので、反駁の余地があるなどとは頭から想定していなかった。であれば、反論しても何の意味があろう?一 [続きを読む]
  • 第六章 6
  • 「実験してみましょう。もしおよろしければ、私がピストルを一発、この部屋で発射しますよ。表の通りからはその音が聞こえない、と私は賭けますね」「昼間ならば、そういうこともあるかもしれません。でも夜間ですよ!」クルトワがこんなに長々と喋っていたのは、一同が予審判事の動きをじっと見守っていたからである。「よろしい」ドミニ氏が締めくくった。「ゲスパンが今夜か明日にでも自供してくれるといいのですが、そうでない [続きを読む]