しゅり さん プロフィール

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しゅりさん: 未題
ハンドル名しゅり さん
ブログタイトル未題
ブログURLhttp://shurir.hatenablog.com/
サイト紹介文大切なひとを大切にしたい。短編より短い短編小説を書いています。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供152回 / 365日(平均2.9回/週) - 参加 2016/07/07 01:13

しゅり さんのブログ記事

  • 愛されない。
  •  父が行方不明になった。すこし前、医師の診断によりその事実が明るみになったばかりだった。正直、意外だったといえる。どちらかといえば父は、どんな逆境にも負けない、否、抱えることを根本から拒んでいる性格だと認識していた。 わたしは父の娘だが、妹は父の娘ではない。父、と呼ぶのはそう呼ぶしか彼を指し示す単語がないからだ。わたしたちはともに暮らしたことがない。父らしい父の姿を目撃したことがない。 もともと放 [続きを読む]
  • 理性の糸
  •  河川敷で彼女とぼーっと夕日を眺めるのが夢なんだ、高校時代の同級生が和やかに語ったその願いに、大学三年生になったわたしたちはずいぶんと知った口調でそれは夢物語だね、と言った。 「だいたい、そんなピュアな景色が存在するわけないよ。小学生かよ。」 いま、目の前でせっせと幹事をする彼はあれからよっつ歳を重ね、表情もそれらしくおとなになった。 「正直将来の具体的なあれこれはまだ考えてはいない。けれど、大切 [続きを読む]
  • 役割分担
  •  結婚は現実なんですよ、彼女は言う。 「だいたいいまの時代専業主婦なんてむずかしいものです。わたしは、いまの仕事をやめる気はない。なぜなら、旦那がなにか不慮の事故で、或いは突然職を失ったとき、代わりに働くのはだれですか。女です。」 わたしは力強く頷いた、そのとおりだとおもう。 「いや、べつに専業主婦を否定しているわけじゃないですよ。もし専業主婦を希望していて、旦那もそれを希望していて、ぼくが外で働 [続きを読む]
  • 家庭のあれこれ
  •  “食事の際に箸を使わず、わざわざ手掴みでもの(きょうは豆腐)をたべている事を注意する事はおかしいですか?” 一見するとさっぱりわからない文字の羅列を表示されたときわたしは、奥さんとうまくいかないんだと嘆く彼のその凡庸に落とし込んだ解釈にかんして驚きを隠せなかった。或いは虚構の自覚なき人間の、狂気へとすすむ姿にぞくり、悪寒が走る。 「死への最良の形はもちろん狂い死ぬことにある。」 彼はいつものごとく [続きを読む]
  • りりちゃん
  •  わたしのおしえる体操教室には、りりちゃんという女の子がいます。 りりちゃんは自由奔放です。りりちゃんは自分のやりたいことばかりやる子です。やりたくないことは一切やりません。せんせいの言うことはろくにききません。だから、練習態度はとても不真面目にみえます。 そんなりりちゃんがわたしはだいすきです。りりちゃんにいつも元気をもらっています。りりちゃんのおかげで、すこしの生きる希望を取り戻すことができま [続きを読む]
  • 境界の認知
  •  約束を守りたかった。もらってばかりは嫌だから。けれどこんにちは、挨拶しただけで向こうはぎょっとした表情をみせ、そこではじめて、わたしはようやく自身の狂気に辿りつく。内包する虚無やさみしさがいささか異常だと知る。 おとなになったらただ好意を示すだけでもひと筋縄じゃあいかないんだ、おもう。十分理解していたはずだった、けれど理解じゃ足りなかった。 「だからきみの哀しみは遥か遠く、アフリカあたりに埋葬し [続きを読む]
  • 検康診断
  •  「おまえ、俺の会社はいるか?」 父は言った。 ひととのつながりを極限まで削ぎ落とし、家族という最小単位で生を重ねてきたサラリーマンの父にこんなことを言わせるなんて、わたしはいよいよ人間として堕ちるところまで堕ちてしまったんだなあ、とおもう。 なんの仕事、震える声を抑えきくと、営業だな、と父は言った。それもいいかもね、わたしは言う。いいかもね、なんて言える立場ではなかったけれど、わたしはまだ納得で [続きを読む]
  • 帰り道
  •  一歩踏み込むと用意されていたのは、予想に反し硬い座席が連なりよっつ。そのひとつに腰をかけ出発した夜行列車で、わたしは故郷へと向かう。 故郷、と言ってもその地に両親がいるわけではない。ただ、気を抜くと音を立てて壊れる現実から離れて、わたしはわかめになりたかった。いまならなれる気がした。 日常への不満というより、日ごろから筋をとおすと、綻んだ端から甘えたいきもちが蓄積していく。わたしの現実にはいま帰 [続きを読む]
  • 優先順
  •  10年前、彼女が死んだと話したときの彼を、わたしはいまでもよくおぼえている。彼は電話口でぽつりぽつりと呟いては、ひとはがんばりすぎてはいけない、と言った。 「仕事なんて、時間の切り売り。或いは技術料だ。」 優秀なひとが発する独特のことばづかいにわたしは一旦閉口し、ああ、このひとはその優秀さを持て余しているのだなあ、とおもう。 「正直なところ、能力の低い人間がこの世にはごまんといる。」 わたしはなん [続きを読む]
  • 郷愁
  •  朝起きて、喉の痛みを感じる。頭が熱い。きのう突っ込んだ指と、内臓への負担を考えると妥当な結果だとおもう。夜中になると突然発熱する身体をなんとかねじ伏せ越える夜、わたしは知らないうちなにか禍々しい化物を抑圧し生きていると痛感する。 怒りはたまっていく。哀しみは沈んでいく。そのなにかを糧に日々生きる。それでも、と彼女は言う。 「あなたのそのがんばりは、本来なら半分でもいいくらいのものなのよ。」 がん [続きを読む]
  • 長いグラウンドラン
  •  「おねえちゃん、もう不幸せに逃げるのはやめたいんだ。自分を、変えたいんだ。」 ひさしぶりにかかってきた電話を取って開口いちばんそう言うと、弟はうん、と頷いた。 「自分を傷つけて安心するのをやめたい。マトモになりたい。いまの仕事はちっともマトモじゃないけれど、マトモになるためにとても必要なことなんだ。」 弟はつづけて頷く。 「変えたい。変わりたい。笑いたい。」 あまりに鬼気迫ったわたしの声に弟はす [続きを読む]
  • 衝突事故
  •  彼はよぼよぼの身体にぱりぱりの一張羅でやってきた。75歳にしては顔がつるりと光っていて、わたしははじめ、それがなにを意味するのかよくわかってはいなかった。 ひさしぶりだね、彼は言い、おひさしぶりです、わたしも言う。さて、いこうかと連れていかれたのは中華料理店だった。 「いやあ、メールをくれてありがとう。きみとまた会えて嬉しいよ。」 いえこちらこそ、あ、就活のESなんですが……と鞄をごそごろ漁ろうとす [続きを読む]
  • 雪解け
  •  堪えるしかない。どんなに孤独を感じても。見返りはなくとも。やりたいからやっている、その意思をもって。変えるのは相手じゃない、自分だ。 誤魔化しも、焦りも、受けとめられるのは自分だけ。この自分をもって、堪えて堪えて堪えて、乗り切る。だれにも任せない、自分の人生を自分で背負う。 「ようやくそれらしくなってきたね。」 「だから言ったでしょう。出会うのがすこし遅かったらって。」 「けれどぼくと出会わなけ [続きを読む]
  • 踏み出す、踏み出す。
  •  幸せに浸り泣きそうになるときがある。いまがあまりに幸せすぎるから、この幸せが溶けて消えたときわたしは、もういままでの自分のまま生きることがむずかしくなるようにおもう。 幸せを掴むと幸せがなくなる気がする。幸せの味をおぼえてしまうのがこわい。だからずっとずっとがんばると決めた、この幸せを守るためにずっとずっとがんばると決めた。 となりに座る同僚とラーメンとチャーハンをたべる、目の前には上司が座って [続きを読む]
  • 「二重人格」
  •  わたしのなかに生まれつつあるもうひとりの人格が、強烈な存在感をもって現実を後押ししてくれる。彼女は理想だ。もちろん聖人ではないけれど、切り離された姿にはひととしての強さとやさしさが詰まっている。 わたしがどんなに嘆こうと、彼女はぐいとわたしの手をとり、明るい世界に引っ張っていく。その状態において彼女は躊躇わない。そしてだれよりも人間を信じている。 「こわいの、どうしても。失敗しやしないかな。」  [続きを読む]
  • 幸せの準備
  •  長らく囚われていた不幸思想からようやく脱却できるかもしれない、光をみて、つぎの瞬間には引き戻される現実に、いつでも絶望の色をみていた。 とどのつまり思い込みだ、おもいはするけれど、理解と実践の間には深い深い谷底がある、それが難題だ。と起き抜け、ぼーっとする頭で夢と現を擦り合わせた。 もし君が現実にいるとして、彼は言う。 「ぼくらがいまいるこのロフトの床が歪んで下に落ちる、その可能性はゼロじゃない [続きを読む]
  • 自然的療養、或いは遊戯。
  •  さびしくて泣いている。拒絶された苦しみというより、とてもやんわり、線を引かれたことに泣いている。仕方ないとわかっている。それでも、自らの素直さにより断ってしまった道を憂いている。それは仕方のないことだよ、あれもこれもは取れないんだよ。やさしいひとほど、返せない愛は受け取らないものだよ。拒絶というわけじゃない。 ただ、浮遊した愛をさびしく眺めている。 夜中、幾度となく目覚めるときわたしは、世界との [続きを読む]
  • 無自覚の背信
  •  絶句した。今朝の一発は相当響いた。あんまりびっくりしたので、びっくりしたことがわからないよう、感情が一気に反作用を起こしたくらいだ。 まだ信じていなくてよかった。傷が浅くてよかった。穏やかな未来を描いていなくてよかった。こころを許していなくてよかった。突き詰めると自己と他者はマーブルに混ざっていく。その境界を踏み間違えたとき、一気にくだる鉄槌を、その威力を、わたしはよく知っている。 いちばん哀し [続きを読む]
  • メビウスの輪
  •  なけなしのSOSは気づかれなかった、というより、わたしのほうがどうかしている。焦りもあるけれど、根本的恐怖から逃れるため出したそれが打ち払われ、目覚めの一発にしてはあまりに手痛いビンタに、おもわずわんわん声をあげ泣く。 「いきたくないよ、もういやだよ、しにたいよ。」 何度も何度も紡いだそれは一時期意識的に口を噤んだこともあれど、正直なこころを吐露できないのはあんまりにも辛くて、つぎの瞬間生きる意思 [続きを読む]
  • 信じる意思
  •  「わたしのアイデンティティはがんばることだけ、だから、がんばれなくなったらもう用済みなの。」 電話口で、彼女は黙っていた。これまでため込んだ苦しみがおもわず涙としてこぼれる。 「ずっとずっとがんばっているつもりだった、けれど、甘えだと言われてきた。かといって死ぬことさえできない甘えを抱えたまま、わたしはまだ息をしている。」 しななくていいのよ、彼女は言った。 「結局のところ、わたしはいつ首を切ら [続きを読む]
  • 決断力不足
  •  この世はまっくろけだよ。どうせまっくろけだよ。きれいにみせることができるだけだよ。感情の美しさに愛の湧くほんの瞬間だけ、あとはどんよりよどんでる。 ほんとうは苦しい。感情は反発する。過去の怨みが疼くんだよ、この手の人間に散々馬鹿にされてきたんだよ。わたしは一生このきもちを忘れないよ。 それでもできる限り美しくありたいと願うでしょう。正しくありたいとおもうでしょう。殺意はすべて押し込めるんだよ、べ [続きを読む]
  • 生還の代償
  •  自らの叫びを発することにより一瞬は落ち着くけれど、その後自身の発言がどんどんと退路を断っていく現実に気づく。さっと青ざめ、冷めたもうひとりの自分が、毎分毎秒トランスにはいりつづけるのを酷く斜に構えてみている。 やりきっているのは良い、本気すぎるのも良い、やりたくてやっているのも良い。むしろ我にかえらないほうがいい。それでもだれかと接するとき、相手の感情が追いついていない場合、わたしのこの熱は相手 [続きを読む]
  • 本能的拒絶
  •  疑心暗鬼がとまらない。特定のだれかに向け疑いの念をかける感覚に慣れない。いままでは逃げてきた、こわくなったら信じなければよかった。どちらにせよ理性でひとは信じられないけれど、遠まきに距離を取ることで凌いできた。ほんとうに信じて差し出して、ぐちゃぐちゃに引き裂かれた哀しみを背負うなんてこわい。もうしたくない。 酷く矛盾しているのに、わたしはこわいこわいと呟いて、信じたいとおもっても信じられない愛の [続きを読む]
  • 重ね重ね
  •  ろくに休めちゃいないくせ追いうちをかける業務メールに面喰らい、なにか差し出せばそれだけさらに高いハードルを課せられる期待の片鱗を垣間みて、わたしはぐう、と唸った。予測していなかったことがどんどん起こる、こりゃすごい。 クリエイティブは鮮度が命だ。発した瞬間から腐っていく生ものだ。つまりきょうの作品は基本的にあすへと持ち越せない。まったくおんなじ作品を二度とはつくれない。だから瞬発力が大切なのだ。 [続きを読む]
  • 湧き水
  •  頭がぼーっとする。目覚めると午後5時、身体がだるい。なにかしなければ、起こそうとしても動かない上半身、もしかすると必要以上にだれかの悲哀を吸い取ってしまったかもしれない。言動から滲み出る人間のあれこれをわたしはたべて生きている。そうして蓄積したたくさんの思想をぐちゃぐちゃに混ぜ、グレーの物語を紡ぐ。きれいでも汚くってもいい。ただ、人間らしいといい。 久方ぶりに開いた村上春樹をもう一度読み返して彼 [続きを読む]