杠 志穂 さん プロフィール

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杠 志穂さん: 逢魔時堂
ハンドル名杠 志穂 さん
ブログタイトル逢魔時堂
ブログURLhttp://yuzuriha-shiho.hatenablog.jp/
サイト紹介文闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供46回 / 365日(平均0.9回/週) - 参加 2016/07/11 16:31

杠 志穂 さんのブログ記事

  • 四月馬鹿.5
  •  明くる日、再訪した柊氏に私たちはすべてを白状した。 しばらく呆然と偽茶碗を見つめていた柊氏だったが、本物の在り処を尚も打ち明けられたあと爆笑していた。「ああ、こんなに笑ったのは生まれて初めてです」 氏は眼鏡を外し、目尻を拭いながらまだ笑いが収まらない様子だ。「本当に申し訳ありません」 平身低頭の私たちに「いやいや、まったく騙されました。ああおかしい。しかも猫のご飯茶碗になっているとは。本当にあな [続きを読む]
  • 四月馬鹿.4
  •  ボスがその箱を受け取り、開いて「これですじゃ」とごく自然に手渡そうとしてその手が止まった。「ん?」 急いで残りの二つの箱も開く。「ん?」「んん?」 ボスのその一連の動きの間に柊氏は最所に開かれたそれを見て「すばらしい……」 と息を呑んでいた。「まさに至高! 人類が生んだ奇跡の宝物ですな。眼福とはこのことです。これは守らなければならない! 俄然、ますますやる気になりました」 柊氏は熱を帯びた声であ [続きを読む]
  • 四月馬鹿.3
  •  とにかく、その会が開催されるまであと一月あまりしかない。自然な形でその場に加わる方法はないものか。 その御大尽が何者なのか、事件との関連性があるのかどうかは別問題としても、私たち全員の動物的な勘が動いたからには探りを入れたい。 ひとつには、例の窃盗団の黒幕がどこの何者なのか未だに正体が突き止められていないせいもある。その筋では幻のミスターXと呼ばれているほどだ。 そのものずばりのミスターXとは思 [続きを読む]
  • 四月馬鹿.2
  • 「それは……しかし、その方の身になれば大変なことですねえ」 京念も話を合わせた。「やはり、それだけ奥深い世界ということなのでしょうねえ」 会長は茶碗を桐箱に戻しながら低い声音で吐き出すように言った。「いや、あいつはどう見ても世間に憚る稼業に関わっとるに違いないから、痛い目にあっても同情する必要もない。大体において物の良し悪しはすべて金で決まると思い込んどる。まったく、骨董好きの風上にも置けんやつ [続きを読む]
  • 四月馬鹿
  •  さて、意外なことに新しい情報は京念からもたらされた。 それはここのところずっと「振り回されている」感が強い彼のクライアントの話題からだった。 古い馴染みの同業種からぜひとも、と紹介されたそのクライアントは、不動産業を幅広く手掛けている人物で、国内はもちろんのこと、海外のリゾート施設も多く所有しているということなのだが、最近は古書や骨董といった趣味にのめり込んでいるのだという。 それもどちらかとい [続きを読む]
  • 語り継ぐもの6
  •  折しも咲良さんの部屋も夕焼けに染まり、それが段々と群青に変化しだしたころ、庭の木戸口を開けて誰かが厨房の方へ小走りに急いでくるのが見えた。「あ、麦ちゃんだ!」 それは忙しくなった「塀のむこう」が新しく雇い入れた娘さんで、コロコロとよく太り、働き者で力持ちで頬が赤く、およそ現代の美人という評価からは外れているのだが、なんとも言えない愛嬌があり、皆からは「麦ちゃん」あるいは「大麦」とからかわれてい [続きを読む]
  • 語り継ぐもの5
  •  つまり私の考えは、咲良さんの茶碗を追う一味と、駒鳥を忘れるなとメッセージを送ってきた人物は同一ではない。全く別の人物ではないだろうか、ということである。たまたま時期が重なったのではないだろうか。 しかしそうであれば誰が一体、なんのためなのか。そこで堂々巡りになってしまう。――お前たちの罪を忘れるな。お前たちがしてしまったことを忘れるな――とリフレインするように、何度も何度も囁きかける「忘れるな、 [続きを読む]
  • 語り継ぐもの4
  •  そして私はもう一つの、これもずっと引っ掛かっていたことを話しだした。実はずっと感じていたモヤモヤをひなことふたば、咲良さんに聞いてほしかったのだ。 通りの衆も、件の茶碗についての知識はほとんど無いと言ってもよい。 それは夜咄の夜の驚きぶりを見ても想像がついた。後日佐月さんでさえ「なにか大切にしているものがある」と聞かされてはいたが、その価値は知らなかったし、それ以上考えたこともなかったと言って [続きを読む]
  • 語り継ぐもの3
  •  そうこうしている内にテーブルにひょいと飛び乗った小雪が茶碗の中の水をちょろちょろと舐め始めた。「こら小雪。ちゃんとお水茶碗持ってるでしょ。そっちのお水を飲みなさい」 そう言いながら慌てて小雪を抱き上げた私はふと何かが心に引っかかったような気がした。 猫の食器――どこかで、いつだったか私はこんな景色を見た。あるいは思ったことがある。あれは何だったろうか――思い出せない。「父さんは――」 二つ目の [続きを読む]
  • 語り継ぐもの2
  • 「いいのぉ」 しげしげと作品を見るボスにひなこは「単なる道具ですよ」と恥ずかしがったが、「ひなちゃん、みんな道具として作られるんじゃよ。初めっから名品と呼ばれるものは無いんじゃないかの。作り手の目的は元々はそういうもんじゃないかの」 と語ったボスの言葉を私は深く胸にしまった。 確かに後世まで残るような品であっても、作り手が初めからそのことを意図していただろうか。 その時の土の状態やら釉薬の調合、 [続きを読む]
  • 語り継ぐもの
  •  その後も話し合いは何度も開かれた。というよりかは、今やほとんど夕食を共にしている我々だったので食後のコーヒータイム、デザートタイムは咲良さんの部屋で、というスタイルが定着したに過ぎないのだが、みんなで車座になってはああだこうだ、と話し合うと時として不安になる心も穏やかになっていく。 るり子姉さんを中心とするその筋の方々が捜査を進め、磐石の布陣となっている安心感もあってこそのことだが、それ以上に強 [続きを読む]
  • 玉響6
  • 「そんなことはない!」 私たちが叫ぼうとしたとき、会長がふと顔を上げた。「ん?」 怪訝な顔で私たちを見る。「え?」「今誰かわしの背中を撫でたかの?」「いえ……」 会長の椅子は私たちと少し離れた場所にあり、もちろん後ろには誰もいない。虚ろな表情を浮かべたまま視線は咲良さんの絵に留まった。 咲良さんの絵を見た会長は急に目を見開いたかと思えば目をこすり始めた。「逢摩――いや、逢摩さんよ。いよいよわしもヤ [続きを読む]
  • 玉響5
  •  そのようなことを話していると、店のドアが開く音が聞こえ、店番の猫たちの甘えるような声も聞こえた。「ごめんなさいよー!」 どうやら来客者は鬼太郎会長のようで、私がはーい、と飛び出す前に会長はすでに部屋まで来ていた。「おおう、まあ揃いも揃って揃っとる。お、新婚さんも揃っとるな」 相変わらず賑やかな人だが、咲良さんの絵の前で手を合わせ、頭を垂れることは決して忘れない。 差し出された椅子にどかんと座り、 [続きを読む]
  • 玉響4
  • 「やっぱり、それほどの価値があるんだ……」 私たちは件の茶碗が納められた古ぼけた箱を見つめた。 価値があるとは聞かされていたものの、それがどれほどのものなのかを実感する機会があまりなかった。 しかし国際的に狙われているということを聞かされた以上は、その価値を改めて感じざるを得ない。「それだけではないかもしれん。実は……」 その話を聞いていたボスが口を開いた。「まだあるのじゃ。三つ揃って価値がある [続きを読む]
  • 玉響3
  • 「こんなところでしょうか。他にある?」 私はそう言って両隣を見る。それを聞いたひなことふたばは口々に、私もそう思ってました、と応じた。 その様子を見ていた男たちは目で相談し合ったようだった。ボスが頷き、るり子姉さんが口を開いた。「その内のいくつかは私から説明するわ」 そう言うとゆっくり私たちの顔を見回し、少しの間を置いて言葉を続けた。「簡単に言うと、ここ四、五年――不可解な事件や事故が続いたの [続きを読む]
  • 玉響2
  •  ではみいこさんから――と話を振られ、私は話を始めた。「いくつかわからないことがあります。それはるり子姉さんが以前この店が――たしか色んな筋から狙われている、と言ったこと。あの後の露敏君の指輪事件やら逢魔時堂の都市伝説やらで、このことなのかなと納得はしてたんですけど……なんだかそんな程度――まあそれはそれで大きな出来事ではあったんですけど、これだけのことだったのかなぁって思ってるんです。もっと他 [続きを読む]
  • 玉響
  •  最所とふたばが新婚旅行へ飛び立ってから一週間後、帰国した二人はかのハリー・ポッターグッズを山のように買い込んできたのでしばし私たちはもちろんのこと、通りの皆もそのコスプレを充分に楽しんだ。 猫たちも各々、作中に登場する四つある寮のシンボルカラーというのか、おしゃれなマフラータイプの首輪をもらってご満悦だったし、あの重い告白の後、しばらく体調を崩したボスも元気を取り戻した。 もっとも、元気になった [続きを読む]
  • Who Killed Cock Robin? 6
  • 「それ以来咲良も、五人の娘たちもおらん」「たくさんの犠牲者が出て変わり果てた姿で見つかった。しかし見つからんかった。五人の娘たちがいた置屋は、他の者は皆逃げたそうじゃ。五人の娘らは誰も見かけんかったと言うておった。――いや、自分の身と自分の家族のことだけで精一杯じゃったと。――あとで聞いた話じゃ。娘らの部屋は外から鍵がかかっておったそうじゃ」「――それから時は止まったままじゃった。わしも、そして通 [続きを読む]
  • Who Killed Cock Robin? 5
  • 「あの夜――」 少しの沈黙が訪れたあとにボスはまた口を開いた。「山が崩れた」「そうじゃ。予兆はあった。昼間から山鳴りがしとった。長老たちはこんな音は聞いたこともない、逃げろと言うた。若いもんは――わしらは、大丈夫じゃ、ちゃんと土留めもしてある、と言うて気にもせんかった」「――咲良は、咲良は心配した。他の娘たちは――そうじゃ、あのひと飲みに崩された斜面にあった置屋に住まいしとったから。あそこは危ない [続きを読む]
  • Who Killed Cock Robin? 4
  •  あれらがどんな経緯で売られてきたのか知っとるもんはおらんかった。 この地には流れに流れてきたのじゃろう。その世界ではよくあることじゃった。 しかし、咲良にはもちろんのこと、あの娘たちもそんな世界にいたにも関わらずなんとも言えぬ品格があった。――そうじゃ、泥沼の泥に染まらぬ蓮の花、という風情があった。 しかし、しかしじゃ。人の心は恐ろしい。わしらはこの品格が気に入らんかった。そこが一番惹かれた部分 [続きを読む]
  • Who Killed Cock Robin? 3
  • 「駒鳥? 駒鳥じゃと?」 ボスが呻くように呟いた。「ひなちゃん、すまんがそれ全部読んでおくれ」 はい、とひなこがその歌詞を読み始めた。マザー・グースの中では異例なほど長いのだ。 朗読を続ける途中でボスの顔色が悪いのに気付いた。「父さん、顔色悪いですよ。お疲れでしょう? 休みますか?」 小声でそう聞いたのだが「いや、大丈夫だ」 と目を閉じたまま答える姿が妙に弱々しく、気になって仕方がない。「―― [続きを読む]
  • Who Killed Cock Robin? 2
  • 「うーん、なんともはや」 ボスがうめいた。「こりゃまた疲れるもんじゃのう。まだこの後二回もあるのか。いやいや、楽しみなことじゃな」 それを聞いたひなこと私は噴き出した。「父さん、私たちは――いえ、少なくとも私は当分行きませんから」「私も――ごめんなさい。多分行きませんからね」「いやいや、まあ、嬉しいような――寂しいような、じゃの」「あ、そうだ」 何かを思い出したのか、ひなこが急に立ち上がる。「 [続きを読む]
  • Who Killed Cock Robin?
  •  こうしてすったもんだの末、ふたばと最所は結婚式を挙げた。 家族のみ立ち会った厳粛な挙式の後は、咲良さんの庭で流行りのガーデンウェデイングパーティーが行われた。「誰でもウェルカム!」 という二人の希望のまま、それはそれは賑やかな祝宴となった。中には「たぶんコスプレイベントなのだろう」と最初から最後まで信じて疑わなかった一般客も多くいたに違いない。「入場料はいくらか?」「食べ物のチケットはどこに売っ [続きを読む]
  • ひいふうみい11
  • 「ふーたちゃん! ひーなちゃん!」 やはりふたばはそこにいて、その側にひなこがいた。二人は子どものように足を投げ出し座っている。夜空を見上げながら座っている。「いーれて!」 そう言って私もふたばの隣に座る。「風邪ひくぞ、ふたりとも」 三人で毛布をすっぽり被る。しばらくしてふたばがぽつりと言った。「父さんたちは?」「うん――たぶん事務所で大反省中」「きっと今ごろ青菜に塩」「ていうか、まだグズグズ小声 [続きを読む]
  • ひいふうみい10
  • 「私は! 私はこう見えて剣道二段です!」 最所が顔を真っ赤にして叫んだ。「ほう、そうじゃったかい」 ボスはそう言いながら件の釣書をガサゴソと引っ張り出した。「あ、惜しいの。ラグビー男は空手三段じゃ」「私は、私はこう見えて一応弁護士です!」「ふん、それがどうした? むこうは腕のいい外科医じゃぞ」「憚りながら私の家は代々続く造り酒屋です」「ふたばは下戸じゃ。知らんのか。むこうは大地主じゃ。松茸の山もあ [続きを読む]