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明るい部屋:映画についての覚書 https://pop1280.hatenablog.com/

映画をめぐる覚書。ハリウッドB級映画、マージナルな映画作家たち…。あなたの知らない映画のすべて。

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2016/08/29

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  • マルクス兄弟讃

    ダリが描いたハーポ・マルクスの肖像 われわれが見た最初のマルクス兄弟の映画、『けだもの組合』は、私ばかりでなく、誰の眼にも、一つの異常なもの、日常的な語や映像の関係からはふつう生まれ出ない特殊な魔術を、スクリーンという手段によって解放したものと映った。そして、もし、シュールレアリスムと呼ばれる、精神の特徴的な状態、明白な詩的段階があるとしたら、この『けだもの組合』は、まさに完全にそれに加わるものである。アントナン・アルトー 私の作品に最も影響を与えた人物が3人います。それはグルーチョ、チコ、そしてハーポ・マルクスです。ウジェーヌ・イオネスコ あなたの肖像写真が手元に届き、歓喜しております。この…

  • 『編集室に落ちた顔』──エルネスト・ボルネマンについての覚書

    キャメロン・マケイブ『編集室の床に落ちた顔』 映画会社に勤めるキャメロン・マケイブは、完成間近の新作からある新人女優の登場シーンを全てカットするようにとの命令を受けた。その翌日、編集室で当の女優が手首を切って死んでいるのが発見される。自殺か他殺か。真相は、編集者のロバートソンが編集室に仕掛けた自動カメラが捉えていたはずなのだが、肝心のフィルムが消えている。捜査の難航をあざ笑うかのように、第二の事件が発生し……。“どんな探偵小説でも無限の終わり方が可能”と主張する作者が仕掛けた、二度と使えぬトリックとは? 「全ての探偵小説を葬り去る」と評された問題作。(単行本裏表紙より) 夢野久作『ドグラ・マグ…

  • 『アトランティック』『海賊のフィアンセ』『乙女の星』

    『アトランティック』★★★ 『海賊のフィアンセ』★★½ 『乙女の星』★★ マティ・ディオップ『アトランティック』(Atlantique, 2019) ダカールの高層ビルの建築現場で働く青年スレイマンは、彼と同じく貧しい家の娘アーダと恋仲である。しかし、アーダには親が決めた金持ちの婚約者がいた。彼女は家を捨ててでもスレイマンと一緒になるつもりだったが、現場で給料の未払いが何ヶ月も続いている状況に絶望したスレイマンは、アーダに黙って、仲間の男たちとともにボートで海を渡って新天地を目指す。しかし、やがて、彼らが乗った船は遭難し、みんな海の藻屑と消えてしまったという噂が流れてくる。スレイマンが死んだも…

  • ハワード・A・ロドマン『運命特急』

    「ラングの足は、手同様とても大きく、背筋をまっすぐ伸ばして歩く姿は軍人のようだった。試写が始まってからずっと、彼はそうしてここで外国製の粗末な煙草を吸っては投げ捨て自分の影がいくつも周囲で揺れ動くさまを眺めていた。廊下を行き来するたびに、影は伸びたり縮んだりする。しかしそれを眺めるのにもとっくの昔に飽きてしまった……。片眼鏡を直し、何気なくもう一本マッチを擦った。 と、爆発音が聞こえ、ラングは思わずにやりとした。悪名高い患者マブぜ博士の催眠術に操られて、精神病院長のバウムが化学工場を爆破したところだ。気に入っているショットの一つだった。」 ハワード・A・ロドマンが映画監督フリッツ・ラングをモデ…

  • コニー・ウィリス『リメイク』──フレッド・アステアと踊る

    SF小説、とりわけ未来世界を舞台にしたSFでいささか苦手だと思うのは、その独自の世界観に馴染むまで、というか、そこに描かれている世界を多少とも信じることができるようになるまでにどうしても時間がかかってしまうところだ。時間が逆行しているとか、天と地が逆さまになってるとか、常識離れしたそうした設定だけならまだしも、その世界を描写するために見たことも聞いたこともないような新造語が次々と繰り出されてくると、出だしでつまずきそうになる。日本語訳ならまだしも、英語の原書でそういうSF小説を読み始めたときは、その挫折率はかなり高いものになると言っていい。 実は今回紹介する映画=小説も、そんな近未来を舞台にし…

  • 新作DVDーー『金綺泳(キム・ギヨン) 傑作選 BOX』ほか

    ダグラス・サーク『間奏曲』 Blu-ray モンテ・ヘルマン『魔の谷』 [DVD] デイヴィッド・クローネンバーグ『シーバース/人喰い生物の島』 [Blu-ray] 『G.W.パプスト』 [DVD] フェデリコ・フェリーニ『寄席の脚光』 [DVD] ルチオ・フルチ『ザ・リッパー UHDマスター版 BD&DVD BOX』 [Blu-ray] マルコ・ベロッキオ『シチリアーノ 裏切りの美学』 [DVD] イングマール・ベルイマン『魔笛』 Blu-ray 『金綺泳(キム・ギヨン) 傑作選 BOX』 (収録作品:《Blu-ray》『下女』『玄海灘は知っている』『高麗葬』/《DVD》『水女』『火女'82…

  • キプリング「ミセス・バサースト」と創成期における映画=小説

    創成期の映画が文学にどのような映画を与えたのかについては、すでにいろいろ研究されているにちがいない(ちなみに、ここで「創成期の映画」というのは、サイレント映画がその洗練を極める以前、1910年初頭あたりまでに撮られた「プリミティブ」と呼ぶこともできよう映画のことである)。20世紀初頭の小説家たちの多くは、まだ生まれたばかりの映画をしょせんは安っぽい見世物として多少とも見下しながらも、その新奇さには注目していたし、直接的・間接的に影響を受けさえしていたものも少なくなかったはずである。ダブリン最初の映画館であるヴォルタ座の設立にたずさわった*1ジェイムズ・ジョイスならば、『ユリシーズ』や『フィネガ…

  • 新作DVDーー『ダグラス・サーク Blu-ray BOX』『マルグリット・デュラス Blu-ray BOX』ほか

    バズビー・バークリー『ゴールド・ディガース36年』 [DVD] 『ダグラス・サーク Blu-ray BOX』 (収録:『心のともしび』『大空の凱歌』『翼に賭ける命』) ジョン・カサヴェテス『愛の奇跡』 DVD、『愛の奇跡』 Blu-ray ジャック・カーディフ『悪魔の植物人間』 [Blu-ray] ドン・シーゲル『ガンファイターの最後』 [Blu-ray] 『没後40年 マリオ・バーヴァ大回顧 第III期』 [Blu-ray]『白い肌に狂う鞭』、『モデル連続殺人! 』『クレイジー・キラー 悪魔の焼却炉』1963年~1969年のホラー代表作3作品を国内初ブルーレイ化! 『呪いの館』 [DVD]、…

  • 忘れられた映画の町──ニュージャージー州、フォートリー

    (フォートリーの断崖の上で撮影中のパール・ホワイト) アメリカ映画が始めからハリウッドで作られていたと思っている人は多いだろう。しかし、実際は、アメリカの映画産業がハリウッドに完全に移行するのは1910年代の初めになってからであり、それまではアメリカ映画の大部分は東部で作られていたのである。例えば、D・W・グリフィスがハリウッドに移り住むようになるのは1912年になってのことである。彼がバイオグラフ社を辞めるのは、その直後の1913年であるから、1908年に監督デビューして以来、グリフィスがバイオグラフ社で撮った作品(その数は500本を超えるとも言われる)の大部分は、ハリウッドではなくアメリカ…

  • ホレス・マッコイ『I Should Have Stayed Home』

    広く映画をテーマにした小説を〈シネロマン〉というカテゴリーで紹介していくことにした。これまでにアップした記事の中で該当するものも、このカテゴリーに新たに分類し直してある。 −−− ホレス・マッコイ『I Should Have Stayed Home』 大恐慌時代のハリウッドで、映画監督になる夢破れた青年と、未来の見えない女優志望の女が出会い、最後のチャンスをかけて長時間のダンス・マラソン大会に出場する……。悪夢のようなダンス大会を通して若者たちの希望と絶望を描いた〈ハリウッド小説〉『彼らは廃馬を撃つ』(35) は、ホレス・マッコイが、最初ハリウッドで俳優を目指し、やがて脚本を書き始めた頃に得た…

  • 新作DVDーームルナウ『都会の女』、キン・フー『空山霊雨 』ほか

    F・W・ムルナウ『都会の女』 [DVD] バズビー・バークリー『ゴールド・ディガース36年 [DVD]』 『サスペンス映画 コレクション 陰謀の世界 DVD枚組』ジーン・ネグレスコ『深夜の歌声』、オットー・プレミンジャー『堕ちた天使』、ロバート・モンゴメリー『桃色の馬に乗れ』、ドン・シーゲル『仮面の報酬』、ロバート・シオドマク『クリスマスの休暇』、ジョセフ・H・ルイス『脱獄者の叫び』、ジーン・ネグレスコ『見知らぬ訪問者』ほか 『サスペンス映画 コレクション 脱獄の掟 DVD10枚組』アンソニー・マン『脱獄の掟』、エリア・カザン『影なき殺人』、フリッツ・ラング『ハウス・バイ・ザ・リバー』、アイダ…

  • ドン・レヴィ『ヘロストラトス』

    ドン・レヴィ『ヘロストラトス』(Herostratus, 1968) ★★ イギリスに住む若き詩人が、自分の飛び降り自殺を広告会社に売り込み、自殺を一大スペクタクルにすることで、それを現代社会に対するプロテストの行為にしようと試みるが、資本主義のシステムによって彼の試みはただの安っぽい売名行為に変えられてゆく……。 ドン・レヴィが撮った唯一の長編劇映画。公開当時ほとんど理解されず、長らく忘れ去られてしまっていたが、近年になって次第に再評価が高まっている。 物語はあって無きにひとしく、映画は、主人公の若者が見せる無意味でバカバカしい反逆的行動を、これといったドラマもなくダラダラと見せてゆくだけだ…

  • 「情け容赦のなさ」──ジャン=マリー・ストローブによるドライヤー論

    《情け容赦のなさ》 ジャン=マリー・ストローブ ここ数年で見たり再見することができたドライヤー作品においてとりわけ素晴らしいと思うのは、それらの作品がブルジョア社会に対してみせる情け容赦のなさである。その情け容赦のなさの矛先が向けられるのは、ブルジョアの正義(『裁判長』。この作品は、わたしの知るかぎりもっとも驚くべき物語構成を持つ映画の一つでもあり、もっともグリフィス的な、つまりはもっとも美しい映画の一つである)、ブルジョアの虚栄心(『ミカエル』に描かれる愛情と室内装飾)、ブルジョアの不寛容(『怒りの日』は、その激しさによって、論理(dialectique)で、唖然とさせる)、ブルジョアの天使…

  • 新作DVDーー『スパイクス・ギャング』『ブローニュの森の貴婦人たち 4Kレストア版』ほか

    ダグラス・サーク『異教徒の旗印』 [DVD] ハワード・ホークス『男性の好きなスポーツ』 [Blu-ray] ジョン・フォード『幌馬車』 Blu-ray、『逃亡者』 Blu-ray ロバート・シオドマク『大いなる罪びと』 [DVD] 『ボスを倒せ! 』[Blu-ray] ロバート・アルドリッチ『キッスで殺せ!』 Blu-ray オーソン・ウェルズ『偉大なるアンバーソン家の人々』 Blu-ray リチャード・フライシャー『スパイクス・ギャング』 [Blu-ray] ロベール・ブレッソン監督『ブローニュの森の貴婦人たち 4Kレストア版』 Blu-ray 『女は女である/パリところどころ』 Blu-…

  • ルイーズ・ブルックス讃

    昼顔の女、ルイーズ・ブルックスは彫像と張り合う。彼女は寺院から石を取り外し、円柱の周りに身をくねらせ、建物の前壁に花開く。そしてただあたりを焼き尽くすような純粋さによって、〈教会〉〈祖国〉〈家族〉などが社会に課す、力なき知恵に対して、無垢と狂気の愛が勝利することを宣言する。フレディ・ビュアシュ 彼女を一度でも見た者は、彼女のことを決して忘れることができない。彼女は現代の最も優れた女優だ。なぜなら彼女は古代の彫像のように、時の外にいるから……。彼女は映画撮影の知性であり、撮影効果の最も完全なる化身である。彼女は自身のうちに、映画がサイレント最後の時代に再発見したあらゆるものを体現している。すなわ…

  • 『デモンズ ’95』『白いトナカイ』ほか

    『明日になれば他人』★★★½ 『デモンズ ’95』★★★ 『荒野の処刑』★★½ 『軍用ラッパのロマンス』★★½ 『白いトナカイ』★★ 『ユン・ピョウ in ドラ息子カンフー』★★ ヴィンセント・ミネリ『明日になれば他人』(Two Weeks in Another Town, 1962) 同じミネリ監督、カーク・ダグラス主演ということで、どうしても『悪人と美女』の10年後に撮られた続編として見てしまう(実際、作中で、ダグラスがかつて主演した映画として上映されるのは『悪人と美女』なのである)。しかし、この10年の間にハリウッドはなんと変わってしまったことだろう。そう考えると、この映画の舞台がアメリ…

  • ナダヴ・ラピド『幼稚園教師』★★★ テイ・ガーネット『支那海』★★ マルコム・セント・クレア『駄法螺大当り』★ ナダヴ・ラピド『幼稚園教師』(Haganenet, 2014) イスラエルの監督ナダヴ・ラピドの『ポリスマン』に続く長編劇映画第2作目。 テルアビブの幼稚園に勤める女教師が、園児の一人が類まれな詩の才能を持っていることに気づく。しかしそのことに本気で驚き、理解するものは彼女の周りに一人もいない。一見理解を示しているように見えた女優の卵である園児の若き乳母は、男の子の詩をオーデションで勝手に使って、詩を〈搾取〉している。女教師はそれに腹を立て、園児の父親に訴えて乳母を解雇させる。しかし…

  • 『これが君の人生だ』 、『人生の乞食』ほか

    ヤン・トロエル『これが君の人生だ』 ★★½ ウィリアム・ウェルマン『人生の乞食』★★½ ジョセフ・ロージー『暴力の街』★★ フランク・タトル『百貨店』★½ エドワード・サザーランド『チョビ髯大将』★ カルロス・サウラ『従妹アンヘリカ』★ ヤン・トロエル『これが君の人生だ』(Här har du ditt liv [This Is Your Life], 1966) 20世紀初頭のスウェーデンを舞台に一人の少年 が成長してゆく姿を描くノーベル賞作家エイヴィンド・ユーンソンの半自伝的小説を映画化した、3時間近くに及ぶヤン・トロエルのデビュー作。 主人公の利発な少年は、貧しい養父母の家を出て、最初は…

  • ナンニ・ロイ『祖国は誰のものぞ』『カフェ・エクスプレス』

    ナンニ・ロイ『祖国は誰のものぞ』★★★ 第二次世界大戦中、ナチスに占領されていたナポリ市民たちの4日間の蜂起を描いた戦争映画。 主役であってもおかしくないジャン・ソレルを、開始早々わずか数分であっさりナチスに銃殺させる(『無防備都市』のアンナ・マニャーニが中盤で撃ち殺されるように)ことで、ナンニ・ロイはこの映画の主役たちはあくまでも無名のナポリ市民であることを示してみせる。ネオレアリズモの精神を受け継いだ「無防備都市ナポリ」とでも呼ぶべき内容の映画だが、その一方で、コミカルな要素(銃撃戦の只中にいるレジスタンスの男に、危ないことはやめてくれとすがりついて邪魔をする恋人の女)や、メロドラマ的要素…

  • 新作DVD――『イメージの本』『湖のランスロ』ほか

    ジョージ・A・ロメロ『ザ・クレイジーズ』 [DVD]、『ザ・クレイジーズ』 [Blu-ray] アベル・フェラーラ『ドリラー・キラー』 [Blu-ray] 売れない画家が精神に失調をきたし、自分でも記憶のないうちに電動ドリルで無差別殺人を繰り返してゆく。ロジャー・コーマンの『血のバケツ』をちょっと思い出させるアーチスト=殺人者もの。個人的には全く評価していないけれど、フェラーラ初期のカルト・ホラーとして長くソフト化が待たれていた。 カール・Th・ドライヤー『裁かるるジャンヌ デンマーク語字幕オリジナル版』 Blu-ray ジャン=リュック・ゴダール『イメージの本』 [DVD]、『イメージの本』…

  • ジャン=ピエール・モッキー『あほうどり』

    ジャン=ピエール・モッキー『あほうどり』(L'albatros, 1971) 『Solo』からの流れで撮られたモッキーの本領発揮の傑作。 警官殺しの罪(といっても、暴行してきた警官に対する正当防衛を認められなかっただけの不当な処罰だったのだが)で投獄されていた男が脱走し、夜陰にまぎれて壁伝いに走っているところから映画は始まる。その壁には、間近に迫った選挙の候補者のポスターが貼られている。 男は追っ手から身を隠していた時にたまたま出会った女を誘拐して、彼女を人質に逃亡を続ける。その女が選挙に出馬している政治家の一人の娘だったという展開はいささかありがちなもので、ヒッチコックの『第三逃亡者』のよう…

  • 『サイレント・パートナー』『生きている死骸』

    ダリル・デューク『サイレント・パートナー』★★½ 冴えない銀行の金銭出納係(エリオット・グールド)が、自分の銀行で強盗が行われることを偶然に知ってしまう。男はあらかじめ大金をバッグのなかに隠しておき、わずかに残しておいた金だけを強盗に手渡す。ニュースで発表された被害額が違っていたことを知った強盗はからくりに気づき、自分の愛人を男に近づけて探りを入れる。出納係は強盗の愛人と結託し、うまく出し抜いたつもりだったが、異常性格者と言ってもいい強盗はとても彼のコントロールできるような存在ではなかった……。 ラングの『スカーレット・ストリート』のエドワード・G・ロビンソンがもっとスマートで悪いやつだったら…

  • Dinu Cocea『Haiducii』、マルトン・ケレチ『伍長とその他の者たち』

    Dinu Cocea『無法者たち』(Haiducii, 1966) ★★ これも『ヴラド・ツェペシュ』と同じくワラキアを舞台にしたルーマニア映画。描かれる時代は『ヴラド・ツェペシュ』と違って18世紀だが、やはり国はオスマン帝国の存在に苦しめられている。そこに、サルブとアムサという義兄弟の義賊が現れ、金持ちから奪った金銀財宝を貧しい者たちにばらまき始め、民衆の喝采を浴びる。しかし、金に執着する弟とのあいだに確執が生まれ、リーダーである兄は裏切られて警察に捕まってしまう。兄が牢屋に入っている間に、弟は兄の恋人を奪って自分のものにしてしまうのだが、やがて脱獄した兄は二人に復讐を誓う……。 たぶん、ヘ…

  • 『ヴラド・ツェペシュ』‐‐ドラキュラと呼ばれた男

    『ヴラド・ツェペシュ』 Doru Nastase『ヴラド・ツェペシュ』(Vlad Tepes, 1979) ★★ 15世紀のワラキア公国の君主、ヴラド3世、通称ドラキュラ公、またの名を「串刺し王」を描いたルーマニアの歴史映画。ヴラド3世は、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』のモデルの一人とも言われる。父親のヴラド2世がハンガリー帝国のドラゴン騎士団に属していたことから、「ドラクル Dracul」(ドラゴン公)と呼ばれていたために、息子のヴラド3世は「ドラゴンの息子」を意味する「ドラクラ Dracula」の名で知られるようになった。ドラゴンは聖書において悪魔と同一視されることが多かった。そこ…

  • 新作DVD――『ビクトル・エリセ Blu-ray BOX』『アラン・ロブ=グリエ Blu-ray BOX I 』ほか

    だいぶ時間の余裕ができたのでそろそろブログを更新するつもりですが、とりあえずは、例によって DVD の紹介をしてお茶を濁しておきます。 ジャック・ドワイヨン『ピストルと少年』 [DVD]、『女の復讐』 [DVD] 『フレッド・アステア生誕120年記念 アステア&ロジャーズ傑作選 ブルーレイセット』 [Blu-ray] ジョン・フォード『果てなき船路』 [DVD]、『映画の王様ジョン・フォード傑作選 ブルーレイセット』 [Blu-ray] フリッツ・ラング『暗黒街の弾痕』 [Blu-ray] エルンスト・ルビッチ『生きるべきか死ぬべきか 2Kデジタル修復版』 [Blu-ray] W・D・リクター…

  • 『アルキメデスのハーレムのお茶』ほか

    なかなか書いている余裕がなくて、全然まともに更新できてない。ただのメモだけれど、 とりあえず穴埋め的に、最近見たいくつかの映画について少しばかり書いておく。 ーーー 『イメージの本』★★★ 『幸福なラザロ』★★★ 『ハイ・ライフ』★★½ 『ハロウィン』★★½ 『ワイルド・ツアー』★★ 『マケドニアの婚礼』★★ 『アルキメデスのハーレムのお茶』★★ 『チャイナ9、リバティ37』★★ 『Courte-tête』★ ジャン=リュック・ゴダール 『イメージの本』(Le livre d'image)画面オフから荘重な調子で何やら喋っていたゴダールが、突然わざとらしくゴホゴホと咳き込むシーンがとても好きで…

  • 新作DVD――『ルイ14世の死』 『人間機械』『港町』ほか

    ロバート・クレイマー『アイス』 『マイルストーンズ』DVDツインパック(2枚組) 『サスペンス映画コレクション 名優が演じる犯罪の世界 DVD10枚組』フィルム・ノワールの超傑作ばかり詰め込んだパッケージ。1. 復讐は俺に任せろ 2. 悪魔の往く町 3. 裸の町 4. らせん階段 5. 天使の顔 6. 呪いの血 7. 無謀な瞬間 8. ガラスの鍵 9. 罠 10 湖中の女 フランク・タシュリン『画家とモデル』 [Blu-ray] ロバート・フラハティ『ルイジアナ物語』 [DVD] エリア・カザン『群衆の中の一つの顔』 [DVD] フランシス・コッポラ『タッカー 4Kレストア版』 [Blu-ra…

  • ハワード・ホークス讃

    神戸映画資料館でのハワード・ホークス特集の宣伝がてらにツイッターでつぶやいていた「ハワード・ホークス讃」を、いくらか書き足した上でまとめました。 ホークスが持っているコメディのタイミングの才能は、他の追随を許さない。[…]『ヒズ・ガール・フライデー』の、ケイリー・グラントとロザリンド・ラッセルが丁々発止とやりあう会話でのタイミングの素晴らしさは、「タイミング」とは一体なんであるかを学ぶために、あらゆる映画監督、映画を学ぶあらゆる学生に、見せられてしかるべきであろう。サミュエル・フラー*1 明白さは、ホークスの天才の印である。『モンキー・ビジネス』は天才の映画であり、その明白さによって有無を言わ…

  • 連続講座「20世紀傑作映画 再(発)見」第6回「ハワード・ホークス――〈一目瞭然の映画〉の謎」

    神戸映画資料館でわたしが担当している連続講座「20世紀傑作映画 再(発)見」の第6回はハワード・ホークスに決まりました。今回はちょっと趣向を変えて、ゴールデン・ウィークに行われるハワード・ホークスの特集上映に組み込まれて行われることになっています。 ハワード・ホークス特集 1930年代編 2019年4月27日(土)〜29日(月・祝) 2019年5月3日(金・祝)〜5日(日)わたしは初日の4月27日に、「ハワード・ホークス――〈一目瞭然の映画〉の謎」と題してホークスの映画について話す予定です。詳細はこちらで。上映できるホークスのプリントはまだまだあるので、この特集上映が成功すれば、第2回のホーク…

  • 『ROAR/ロアー』――究極の「禁じられたモンタージュ」

    『ROAR/ロアー』★★★ 「ある出来事の本質が、行為の2つあるいはそれ以上の要素の同時的な提示を必要とするときは、モンタージュは禁じられる」 これは、アンドレ・バザンが「禁じられたモンタージュ」論*1のなかで提示した名高いテーゼである。同時に起きている2つの(あるいはそれ以上の)出来事を、モンタージュによって2つに分けて見せてしまったとき、物語は現実性(レアリテ)を失ってしまうだろう。たとえそれがフィクション映画であったとしても、このテーゼは当てはまる。いや、フィクションであるならなおのこと、観客がその物語を信じることができるためには、そのようなレアリテが必要となるのであり、文学などと比べた…

  • 新作DVD――『間奏曲』『肉体の遺産』『グラインド・イン・ブルー』ほか

    ロバート・パリッシュ『フレンチ・スタイルで』 [DVD] スタンリー・ドーネン『無分別』 [Blu-ray] 『ダグラス・サーク Blu-ray BOX』(『天はすべて許し給う』『間奏曲』『悲しみは空の彼方に』収録)『悲しみは空の彼方に』 Blu-ray、『天が許し給うすべて [天はすべて許したまう]』 Blu-ray ヴィンセント・ミネリ『肉体の遺産』 [DVD] ミュージカルの監督としては有名だが、サークと並ぶメロドラマの巨匠としてのミネリは日本ではまだまだ未知の存在である。これは彼のメロドラマの代表作の一つであり、傑作。必見。 ジョージ・A・ロメロ『【早期購入特典あり】 マーティン/呪わ…

  • 『桃太郎 海の神兵』

    瀬尾光世『桃太郎 海の神兵』★★ 終戦直前に撮られた国策アニメ映画。キャラクターが全部動物の姿で描かれる中、ただひとり人間の格好をした桃太郎が、仲間たちを連れて飛行機で東南アジアらしき土地にやってきて、戦闘訓練をする傍ら、現地の動物たちに文字を教えたりする(これは侵略戦争ではなく、民族開放のための戦いなのだ)。やがて彼らは玉砕覚悟で戦線に赴くのだが、無論、子供の観客を想定したこのアニメでは、「玉砕」というあからさまな言葉は使われないし、結局、敵も含めて誰ひとり死ぬものはいない。内容はともかく、アニメの完成度としては、動画の動きの滑らかさやダイナミズムなど、同時代のディズニーのアニメと比べても遜…

  • 『モアナ 南海の歓喜 サウンド版』

    『モアナ 南海の歓喜 サウンド版』(Moana, ロバート・フラハティ, 1926) ★★★ 『極北のナヌーク』でフラハティは、当時すでに銃を用いていたイヌイットに、あえて銛を使って狩りをさせた。ドキュメンタリー映画の歴史はこの〈嘘〉とともに始まる。『アラン』の島民たちは、自分たちの先祖がどうやってサメを獲っていたのかを知らなかった。彼らは映画を撮るにあたって初めて教えてもらったそのやり方で、カメラの前でサメを獲ってみせたのである。『モアナ』のクライマックスに描かれる入れ墨の儀式も、この島ではとっくに行われなくなっていたものだったという。フラハティのこのような手法は、真実を描くはずのドキュメン…

  • ベイジル・ディアデン『兇弾』ほか

    『無防備都市』(ロベルト・ロッセリーニ)★★★★ 『サスペリア』(ダリオ・アルジェント)★★★ 『愛と怒り』(ベルトルッチ、ベロッキオ、パゾリーニ、ゴダールほか)★★½ 『ルナ』(ベルナルド・ベルトルッチ)★★½ 『夜を殺した女』(Le lieu du crime, アンドレ・テシネ) ★★½ 『兇弾』(The Blue Lamp, 1949, ベイジル・ディアデン)★★ 『招待』(L'invitation, クロード・ゴレッタ) ★★ 『サーチ』(Searching, 2018) ★★ 『マッドボンバー』(Mad Bomber, 1972, バート・I・ゴードン) ★½ 覚書。 『無防備都市…

  • 新作DVD――マルコ・ベロッキオ『結婚演出家』『アッバス・キアロスタミ ニューマスターBlu-ray BOXI, II』ほか

    レイ・エンライト『セントルイス HDリマスター』、『セントルイス HDリマスター』 [Blu-ray] 蓮實重彦が西部劇ベスト50の一本に選んでいる作品だが、まあ、普通の映画です。 『戦争映画パーフェクトコレクション 栄光の軍旗 DVD10枚組』 ジョン・フォード『最後の一人』が入ってる。 『アメリカ時代のフリッツ・ラング(1936~1953)』 [DVD] ジョン・カーペンター『ゴースト・ハンターズ』 [Blu-ray] ギャヴィン・フッド『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 スペシャル・プライス』 [DVD] 、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 スペシャル・プライス』 […

  • ディーヴァ誕生――マリオ・カゼリーニ『されどわが愛は死なず』

    マリオ・カゼリーニ『されどわが愛は死なず』(Ma l’amor mio non muore!, 1913) ★★★ 第一次大戦前のイタリア映画は、ハリウッドにさえ負けていないどころか、その先をいっていた。アメリカ映画がまだ一巻ものの作品ばかりを作っていたとき、イタリアでは数巻よりなる長編映画が撮られていたのである。ジョヴァンニ・パストローネの大作『カビリア』(1914) が、まだ『イントレランス』に着手する前のグリフィスに多大な影響を与えたことは映画史の常識に属する事実である。1909年に、イタリアは、世界で最初の映画祭なるものを発明さえしていた。世界的に見てもイタリアは映画の最前線にいて、そ…

  • オーソン・ウェルズ『風の向こう側』、内田吐夢『警察官』ほか

    別に忙しかったわけでもないのだが、あまり書く気になれなかったのでしばらく更新できていなかった。最近見て印象に残った映画についてメモ書き程度に記しておく。 オーソン・ウェルズ『風の向こう側』★★★内田吐夢『警察官』(1933) ★★★三宅唱『きみの鳥はうたえる』★★★キング・ヴィダー『城砦』(The Citadel, 1938) ★★½溝口健二『ふるさとの歌』★★ミケランジェロ・アントニオーニ『ポー川の人々』★★ 『城砦』はヴィダーの中ではどちらかというとマイナーな作品に分類されている映画だと思うが、全然悪くなかった。フォードの『人類の戦士』(31) などが切り開いた医学ものの流れをくむ作品の一…

  • トンポン・シャンタランクン『I Carried You Home』

    トンポン・シャンタランクン『I Carried You Home』(Padang besar, 2011) ★★ タイ映画、といってもアピチャッポンの映画のように型破りで、作家性に溢れている映画ではないし、アノーチャ・スイッチャーゴーンポンのように実験的な作品でもない。タイの映画がみなアピチャッポンのような作品ばかりだと思ったら大間違いで、彼は例外中の例外でしかない。トンポン・シャンタランクン("Tongpong Chantarangkul" 適当に読んでみたが、正確な発音は知らない)監督のこの長編デビュー作も、そういう意味では、ごくごく慎ましやかな作品ではある。しかし、決してつまらない映画で…

  • ジョージ・キューカー『わが息子、エドワード』ほか

    ジョージ・キューカー『わが息子、エドワード』(Edward, my son, 1949) ★★★デヴィッド・ロバート・ミッチェル『アンダー・ザ・シルバーレイク』(Under the Silverlake) ★★½ヴァレリー・ドンゼッリ『禁断のエチュード マルグリットとジュリアン』(Marguerite et Julien, 2015) ★★ジョージ・キューカー『Her Cardboard Lover』(1942) ★★クリスチャン=ジャック『幽霊』(Un revenant, 1946) ★½ ジョージ・キューカーはいまだに未知の作家であると言っていい。彼には批評家からもなかば無視されている傑作…

  • ゾルタン・ファーブリ『第五の封印』『メリー・ゴー・ラウンド』

    ゾルタン・ファーブリ『第五の封印』(Az ötödik pecsét, 1976) ★★½ 監督のゾルタン・ファーブリ(ハンガリー風に言うならば「ファーブリ・ゾルタン」)の名前も、この映画のことも、日本ではほとんど知られていないが、ハンガリー映画史に残る傑作と言われる作品である。IMDb では2000人以上のレビュアーがありながら 8.8 という高得点がつけられている。 第二次大戦末期のハンガリーの首都ブダペスト。灯火管制が敷かれる中、とある酒場に4人の常連客(時計職人、本屋、大工、酒場の主人)だけがひっそりと集まっている。そこに、戦争で片脚を亡くしたという自称「芸術写真家」が飛び入りで参加し…

  • 新作DVD――『七人の無頼漢』、『人体自然発火/スポンティニアス・コンバッション』ほか

    『ダグラス・サーク Blu-ray BOX』 ダグラス・サーク『悲しみは空の彼方に』 Blu-ray 、『天はすべて許し給う』 DVD HDマスター 、『天はすべて許し給う』 Blu-ray チャールズ・ロートン『狩人の夜』 [Blu-ray] バッド・ベティカー『七人の無頼漢』 [Blu-ray] ニコラス・レイ『北京の55日』 [Blu-ray] トビー・フーパー『人体自然発火/スポンティニアス・コンバッション HDマスター版』 [DVD]、『人体自然発火/スポンティニアス・コンバッション HDマスター版 blu-ray&DVD BOX』 ブライアン・デ・パルマ『【Amazon.co.jp…

  • 映画本ピックアップ――『ジョン・カーペンター 読本』ほか

    『ディアローグ デュラス/ゴダール全対話 (DURAS/GODARD DIALOGUES) 』 『眼がスクリーンになるとき ゼロから読むドゥルーズ『シネマ』 』 『フランシス・フォード・コッポラ、映画を語る ライブ・シネマ、そして映画の未来』 木全 公彦 『スクリーンの裾をめくってみれば――誰も知らない日本映画の裏面史』 『ユリイカ 2018年9月号 総特集=濱口竜介 ―『PASSION』『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』・・・映画監督という営為』― ムック – 蓮實重彦『映画はいかにして死ぬか 横断的映画史の試み 新装版』、『シネマの記憶装置 新装版 単行本』 黒沢清、荒木啓子、青山真治、…

  • イディッシュ語映画を見る――マイケル・ワジンスキ『ディブック』

    マイケル・ワジンスキ『ディブック』(The Dybbuk, Der Dibuk, 1938) ★★★ ロシアの作家S・アンスキが書いた同名の戯曲を、ポーランドの監督のマイケル・ワジンスキ(という読み方でいいのか? Michal Waszynski)が映画化した幻想的作品。 ジョゼフ・グリーンの『ヴァイオリンを持った少年』(Yidl mitn Fidl, 1936) 、エドガー・G・ウルマーの『緑の草原』と並んで、アメリカで(そして、おそらくは世界で)最もヒットしたイディッシュ語映画といわれる。"Dibuk" とは、「死人の霊」を意味するイディッシュ語である。アンスキは最初ロシア語で原作の戯曲を…

  • マラン・カルミッツ『ここではない場所で七日間』ほか

    今週末に迫った神戸映画資料館の講座の準備で、いよいよ余裕がなくなってきた。コメントを書いている時間もないので、とりあえず最近見て印象に残ったタイトルだけを並べておく。 ベルナルド・ベルトルッチ『暗殺のオペラ』(Strategia del ragno, 1970) ★★★½マックス・オフュルス『ウェルテルの書』(Le roman de Werther, 1938) ★★★マラン・カルミッツ『ここではない場所で七日間』(Septs jours ailleurs) ★★½マックス・オフュルス『優しい敵』(La tendre ennemie, 1936) ★★ ½クロード・シャブロルほか『ファントマ』…

  • 『地の塩』『青春物語』『地の果てを行く』

    ハーバード・J・バイバーマン『地の塩』(Salt of the Earth, 1953) ★★マーク・ロブソン『青春物語』(Peyton Place, 1957) ★½ジュリアン・デュヴィヴィエ『地の果てを行く』(La bandera, 1935) ★½ マーク・ロブソン『青春物語』は、アメリカではファミリー・メロドラマの名作として非常に有名なのだが、日本ではあまり知られていない。田園の四季を映し出す冒頭のシークエンスを始め、時折挿入される風景ショットにはハッとさせられるし、カラー作品でありながら深い影の落ちる室内撮影の重厚さはどことなくダグラス・サーク作品を思い出させ(ラナ・ターナーが主役の…

  • ウジェーヌ・グリーン『ジョゼフの息子』、ベルトラン・ボネロ『ノクチュラマ』など

    神戸映画資料館の連続講座が目前に迫ってきたので、なかなか更新している余裕が無い。とりあえず、最近見た中で印象に残った映画を列挙しておく。 バート・レイノルズ『シャーキーズ・マシーン』(1981) ★★★ベルトラン・ボネロ『ノクチュラマ』(Nocturama) ★★½マルコ・ベロッキオ『Sbatti il mostro in prima pagina』 ★★½ウジェーヌ・グリーン『ジョゼフの息子』(Le fils de Joseph, 2017) ★★½フィリップ・ガレル『Actua 1』(Actua 1, 1968) ★★½ユエン・ウーピン『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイ…

  • ウィリアム・ディターレ『ラブレター』

    ウィリアム・ディターレ『ラブレター』(Love Letters, 1944) ★★★ 一般にはそこまで評価が高い作品ではない。星の数にはわたしの個人的な思い入れが多分に入っている。なぜだかうまく説明できないのだが、わたしはこの映画がとても好きなのだ。 「ラブレター」というタイトルは非常にロマンチックであるが、映画の内容はそこから想像されるものとはいささかかけ離れている。フランスでの公開タイトル「嘘の重さ」(Le poid d'un mensonge) のほうが、この作品の重々しい雰囲気を正しく伝えていると言えよう。 第二次大戦中、ジョゼフ・コットン演じる主人公アランは、がさつで文才のない友人に…

  • フランク・D・ギルロイ『正午から3時まで』――事実ではなく伝説を印刷しろ!

    フランク・D・ギルロイ『正午から3時まで』(From Noon Till Three, 1976) ★★ フランク・D・ギルロイが自身の小説を映画化したカルト西部劇。「撮影リュシアン・バラード」という文字に一瞬心躍るが、タイトル・バックに映し出されるいかにも作り物めいた西部の町を目にしただけで、その気持ちも萎えはじめる。しかし、 映画が進んでゆくに連れて、西部劇とは名ばかりで実は西部劇の枠組みを借りただけの艶笑喜劇とでも呼ぶべきこの映画の内容には、この作り物めいたセットはひょっとして似つかわしかったのではないかと思えてくる。いかにもセット然としたその作り物めいた町の大通りを、馬に乗った4人の強…

  • 新作DVD――S・フラー『陽動作戦』、ベルトルッチ『暗殺のオペラ』、曽根中生『夜をぶっとばせ』ほか

    D・W・グリフィス『國民の創生』 DVD HDマスター、『國民の創生』 Blu-ray 、『イントレランス』 DVD HDマスター、『イントレランス』 Blu-ray サミュエル・フラー『陽動作戦』 『戦争映画 パーフェクトコレクション 狂気の戦場DVD10枚組 ACC-126』 オットー・プレミンジャー『兵士の家』 (In the Meantime, Darling, 1944) 『戦争映画 パーフェクトコレクション 恐怖と欲望 DVD10枚組 ACC-094』 ダグラス・サーク『ヒットラーの狂人』 『戦争映画パーフェクトコレクション 戦場の黙示録 DVD10枚組 ACC-117』 ジョン・…

  • フィル・カールソン『ギャングを狙う男』

    フィル・カールソン『ギャングを狙う男』(99 River Street) ★★★ ボクシングの試合のシーンから始まる映画は少なくない。これもそんな映画の一つだ。リングの上で二人のボクサーが激しいパンチの応酬をしあっている。パンチが入るたびに興奮してまくしたてる実況アナウンサー。やがて、一方のボクサーが片目を負傷し、闘いは終わる。ここまで、てっきりこれは、今まさに行われている試合を映し出した場面だと思って見ていたのだが、聞こえてくるナレーションから、これはとっくに終わってしまった試合をリプレイしたものに過ぎないことに不意に気づく。これは「往年の名試合」といったたぐいのTV番組の一場面だったのだ。…

  • イングマール・ベルイマン『愛のさすらい』

    イングマール・ベルイマン『愛のさすらい』(The Touch, 1971) ★★ アントニオーニに寄せたような邦題よりも原題の「ザ・タッチ」 のほうが馴染みがある。一度も見る機会がなく長らく気になっていたベルイマン作品のひとつ。『狼の時刻』や『恥』のように今まで抱いてきたベルイマンのイメージを改めさせてくれるような作品をちょっと期待していたのだが、そういう意味ではいささかがっかりする内容だった。ただ、その一方で、「神の不在」を問う深刻な(あるいは深刻ぶった)いつものベルイマンの世界とも、この映画は異なっている。人妻の不倫を描いたメロドラマ的、というかソープオペラ的な凡庸な物語を、一見なんの工夫…

  • リカルド・フレーダ『神秘の騎士』

    リカルド・フレーダ『神秘の騎士』 (Il cavaliere misterioso, 1948) ★★★ 18世紀のイタリアを舞台にジャコモ・カサノヴァが活躍する冒険活劇。『Don Cesare di Bazan』(42)、『Aquila nera』(46) につづいてリカルド・フレーダが撮ったコスチューム・プレイの傑作だ。蓮實重彦も某ベストテンのなかにこの作品を忍び込ませている。カサノヴァを演じるのはデビュー間もないヴィットリオ・ガスマン。この映画が7本目の出演作だが、それまではほとんどが脇役だったので、これは初主演と言っていい作品だったのだろう。この映画のガスマンは珍しくクールで男前な美男…

  • ロバート・シオドマク『ハリー叔父さんの悪夢』

    ロバート・シオドマク『ハリー叔父さんの悪夢』 (The Strange Affair of Uncle Harry, 1945) ★★½ ヒッチコックの『疑惑の影』のようなスモールタウンを舞台にした犯罪ものと一応は言うことができるだろう。しばしばフィルム・ノワールにも分類される作品である。しかし、シオドマクがこの前後に撮った『幻の女』 (44)、『らせん階段』 (45)、『暗い鏡』 (46)、『殺人者』 (46) などと並べて見るならこの作品はいささか異質であり、見るものは肩透かしを食らったような気になるかもしれない。名だたる名家でありながら、大恐慌のあおりをくって財産を失い、今では立派な屋敷…

  • 猫と映画と寺山修司

    今まで作っていなかったのが不思議なくらいだが、新しく「猫」のカテゴリーを設けることにした。いよいよ猫学を極めることを決意したからである。というのは嘘で、長い記事ばかり書いているとあまり更新できないから、ちょっとした小ネタを挟んでゆくことで、更新の間隔をできるだけ開けないようにする、そんな試みの一環としてである。まあ、小ネタなのでそんなに大したことは書いていない。気楽に読んでいただければと思う。 さて、このカテゴリー最初のお題は、「猫と映画と寺山修司」である。寺山修司の作品にはたびたび猫が登場する。たとえばこんなふうに。 少年時代 長靴をはいた猫と ぼくとが はじめて出合ったのは 書物の森のなか…

  • 新作DVD――『追われる男』『蜘蛛の巣』『世界のイメージと戦争の刻印/隔てられた戦争』ほか

    ジョゼフ・マンキーウィッツ『大脱獄』 [DVD] マンキーウィッツ唯一の西部劇。大昔にここで紹介している。レビューにごちゃごちゃ書いてあるけど、ちゃんとシネスコになってると思うけどね(シネスコが DVD では 16:9 の表記になってるのはよくあること)。 ニコラス・レイ『追われる男』 [DVD] いかにもニコラス・レイ的な疑似父親-息子の関係が描かれる西部劇の傑作。 ゴットフリード・ラインハルト, ヴィンセント・ミネリ『三つの恋の物語』 [DVD] ヴィンセント・ミネリ『蜘蛛の巣』 [DVD] 日本ではあまり有名ではないが、 精神病院を舞台に描かれるミネリの傑作の一つ。 フィル・カールソン『…

  • ナチス映画を見る――ハンス・シュタインホフ『老いた王と若き王』『クリューガーおじさん』

    わたしが見ることができたハンス・シュタインホフの映画は結局3本だけだが、この監督には確かな演出力があることが確認できた。彼が映画を撮ったのがたまたま(本当にたまたまなのか?)ナチス・ドイツでなかったならば、ひょっとしたら今頃は巨匠として名を残していたかもしれない。 ハンス・シュタインホフ『老いた王と若き王』(Der alte und der junge König - Friedrichs des Grossen Jugend, 1935) ★★ 18世紀プロシア におけるフリードリヒ・ヴィルヘルム1世と、その息子の王子フリードリヒ2世との確執を描いた伝記映画。軍人気質の権威主義的な父フリード…

  • ナチス映画を見る――ハンス・シュタインホフ『ヒトラー青年』についての覚書

    ハンス・シュタインホフ『ヒトラー青年』(Hitlerjunge Quex, 1933) ★★★ ヘルベルト・ノルクスという名前を聞いてすぐに誰だか分かる人は、ドイツ史の専門家でもない限りそう多くはないだろう。1932年1月24日、ベルリンで、いわゆるヒトラーユーゲント(ナチス党内の青少年組織)の一員だった若干15歳の少年が、ナチ党のポスターを張っていた際に共産主義者に刺殺されるという事件が起きる。その少年のこそがヘルベルト・ノルクスである。当時、ヒトラーユーゲントを指導していたバルドゥール・フォン・シーラッハと、ナチの宣伝相ゲッベルスは、すぐさまこの少年を英雄に祭り上げ、彼の死をナチのプロパガ…

  • フェリクス・E・フェイスト『世界大洪水』――プレ・コード時代の大災害パニック映画

    フェリクス・E・フェイスト『世界大洪水』(Deluge, 1933) ★★ プレ・コード時代のハリウッドで作られた最初期のディザースター・フィルム(大災害パニック映画)の一つ。フィルムは失われてしまったものと長らく考えられていたが、1981年にイタリア語版のプリントが発見され、2016年になってさらに英語版も残っていたことが判明した。現在ではデジタル修復されてまばゆいばかりの状態で Blu-ray 化されていて、簡単に見ることができる。監督のフェリクス・フェイストは、カート・シオドマクの原作を映画化した『ドノヴァンの脳髄』で有名だが、フランスのシネフィルの間などではカーク・ダグラス主演の『ザ・…

  • フセヴォロド・プドフキン『脱走者』

    フセヴォロド・プドフキン『脱走者』(Dezertir, 33) ★★ 『A Simple Casse』でトーキーを試みたものの果たせずに終わったプドフキンは、この『脱走者』で初のトーキー映画に成功する。「脱走者」というタイトルからつい戦争映画を想像してしまうかもしれないが、そうではく、工場のストライキを描いた映画である。むしろ「離脱者」くらいのタイトルが適当であろう。労働者運動からの離脱という意味だ。映画の舞台となるのはロシアではなく、ドイツ(ハンブルク?)の造船所。そこの労働者たちはソヴィエトと密に連絡を取りながら、労働者運動を繰り広げている。工場で働く若者レンは、ストライキやデモに参加しな…

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