森田 享 さん プロフィール

  •  
森田 享さん: 物語作家 小説家 森田 享
ハンドル名森田 享 さん
ブログタイトル物語作家 小説家 森田 享
ブログURLhttps://ameblo.jp/torujiro/
サイト紹介文私の書いた物語や小説、映画原作などを、このブログやアマゾンのkindleストアで発表していきます。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供30回 / 365日(平均0.6回/週) - 参加 2016/12/29 11:56

森田 享 さんのブログ記事

  • 娘盛りと死(8)
  •  水車小屋の近くで、三平たち少年五人は、飽きることなく子供遊びを続けている。どうして少年とは、あんなに楽しく夢中になって、時間など忘れ去り、いつまででも遊び続けることができるのだろうか。その少年たちに、遊びを止めさせることができるものは、ただ夕闇と空腹だけなのである。夏の陽が落ちて、樹海の西の空が朱色の夕焼けに染まり、森の中も水車小屋の辺りも薄暗くなってくる頃、三平の年下の仲間たちも空腹にも気 [続きを読む]
  • 娘盛りと死(7)
  •  古く崩れかけた水車小屋の中は、壁板の隙間のあちらこちらから光が差し込んでいるが、薄暗い。屋外の真夏の灼熱と比べれば、小屋の真横を冷たい川水が流れていることもあって、小屋の中は少しだけ涼しく感じられる。 三平たち少年は、疲労と痛みのある肩や腕に最後の力を込めて、武士の大きな重たい体を、小屋の荒れ果てた床板の上に担ぎ下ろした。澪は、武士の頭を支えて体を横たえるのを手伝っている。少年たちは、「ああ [続きを読む]
  • 娘盛りと死(6)
  •  真夏の太陽の下で、生命力に満ち溢れた緑の樹海は、まさに大海原のように、ぎらぎらとうねって地平線の彼方にまで広がっている。 その樹海の淵では、森のあちらこちらに裂け目のような谷川が見える。その川に沿った小道を、五人の少年たちは進んでいる。狩人たちが大きな獲物を運ぶときのように、太い木の枝を縦、横に組み合わせた担架のような物で、少年たちも武士の大きな体を担いで運んでいる。澪は、武士の長い太刀を抱 [続きを読む]
  • 娘盛りと死(5)
  •  渓流沿いの藪の中の小道で、前を走っている半裸の少年たちに追い付こうと、澪も衣を風に、なびかせて駆けている。「待って三平! あんたたち、あたしより先に行かないで!」 少年たちは、川辺の岩の陰に何かを見つけて、急に立ち止まった。 澪も追い付いて来て立ち止まり、息を切らして、素肌には新鮮な汗を、にじませながら言った。「あんたたちが皆で近づいて行ったら、あの武士が驚くでしょ。あたしが、まず様子を確か [続きを読む]
  • 娘盛りと死(4)
  • 「三平。そんなことより、前にここで話したとき、あんた山賊みたいに、森の中に秘密の隠れ家(かくれが)を持ってるって、あたしに言ったでしょ?」「えっ? あっ、ああ」 突然に、澪から意外な問いを投げ掛けられて、三平は驚きながらも頷いて、「なんだ、おまえ、あの時 おれの話を全く聞いてない感じだったのにな」と、どうにか平然と応えて見せた。「ちゃんと三平の話しを聞いてたのよ、あのとき。あたし覚えてるもん。 [続きを読む]
  • 娘盛りと死(3)
  • 澪は、渓流沿いの草地を小走りに急いでいる。遠くから見ると、鮮やかな緑の川原を、淡い黄色の衣を着て小さく跳ねるように歩いている澪は、夏空に舞う紋白蝶のようである。澪は、自分が探していた人を見つけて立ち止まった。額の汗を手で拭ってから、大人の女がするように結った髪の乱れたのを直し、一番自信のある笑顔を作って、また歩き始める。澪の歩いて行く先では、渓流が緩やかに湾曲している。その川幅が広くなってい [続きを読む]
  • 娘盛りと死(2)
  • 真夏の陽の光に、谷底の渓流は澄明な輝きを放っている。ちらちらと白い光を乱反射している清らかな水面に、浮き沈みしながら惟近の体が流れている。その死体のような武士の姿は、水中の岩の上を滑りながら、やや減速し、やがて、渓流の淀みの大きな岩に引っ掛かって止まった。水辺に浮かんだ惟近の肉体に、小さな人影が近づいて来る。その人影は、山里の十四歳の少女、澪(みお)。長い黒髪を頭の上で結っていて、麻布の粗野 [続きを読む]
  • 娘盛りと死(1)
  •    娘盛りと死(むすめざかりとし)  王朝時代なのか、あるいは戦国時代なのか、定かではないが、都からは遠く離れた山間(やまあい)の深い森の中のことである。男の烏帽子や装束は、汗や埃で汚れている。腰に太刀を、背中には弓矢を帯びているその武士の男は、まだ若く精悍な顔つきで、筋骨逞しい腕に力を込めて弓に矢を番え(つがえ)、鷹のように鋭い眼光で一点を見つめている。 薄暗い森の中に身を潜めている男の [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(16)』
  • 小学校の卒業式のことは、よく覚えていない。そして、小学校生活最後の春休みのことは、まったく何一つ記憶にない。春休みが終わって、中学校に進学してみると、なぜか私たち仲間はみんな、ばらばらになった。中学校生活が始まることへの、ぼんやりとした不安もあり、よく仲間同士では、中学校へ行っても、ずっと一緒に遊ぼうな、と約束していたような気もするが、学級が別々になったら自然と互いに離れていった。 そして、中 [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(15)』
  • 「ちょっと来て」と、バレンタインデーの昼休みに、小学校の廊下で成田美穂に呼び止められて、私は胸の鼓動の高鳴りが彼女にも聞こえるに違いないと思って、ひやひやした。緊張で手が震えそうなのも、涙目に成りそうなのも、彼女には分からないように、と懸命だった。――頼む、いつものまま。普通の僕でいるんだ。少年の私は体が、がちがちに緊張していて、そんな私からは不自然で『ぎこちない』動作や言葉が次々に出てきてし [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(14)』
  • 小学校生活の最後の数カ月が始まった。それとは関係なく私の思春期が始まっていたのかも知れなかったが、もうすぐ終わる小学校生活は、それまでと同じ、いつもの授業、いつもの給食、飽きることのない遊びや馬鹿騒ぎが続いているだけだった。ただ、私たち六年生の生徒たちは体育館に集められて、卒業式の練習などもさせられるようになっていた。――ああ、自分たち六年生は、もうすぐ小学校生活を終えるんだな。と、少年なりに [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(13)』
  •  成田美穂からの年賀状は簡単なものだった。もっとも彼女は勉強が良くできる訳でも、作文や絵が得意な訳でもなかったから期待はしていなかった。だが、それは市販の、干支や何かが印刷されてある年賀葉書に、『今年も仲良くしてね』みたいなことが書いてあるだけの、おそらく彼女が女子の友達に送った年賀状と同じようなものだった。彼女が、いま一番好きな男子に送った年賀状とは、どう『ひいき目』に見ても思えないものだ [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(12)』
  • クリスマスで、二学期終業の日という解放感もあったのだろうか、それに、なんと言っても早熟な成田美穂は『ませて』いたからだろう、彼女は陽気に、そして何気なく私に、「森田くん、お正月に年賀状を出したいから、住所を教えて」と、まるで姉が弟にでも話すかのように言った。まったく落ち着いていて、テレビで見る年上の女のようだった。少年の私は、と言うと平気な顔を見せながらも内心、動揺していて、彼女の可愛くて大人 [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(11)』
  •  小学六年生の夏休みは、いつの間にか終わっていた。そして雨が降っていた。台風が近づいていたのかも知れない。 雨の日の登校は、子供ながらに、しっとりとした切ない気持ちがあった。小学校の生徒たちは、みんな彩り鮮やかな傘をさしていて、灰色の靄に煙る通学路には、様々な種類の傘が揺れて学校へ向かっている。校庭には大きな水溜まりができていて、校舎の窓は水滴に曇り、いつもとは違って外からは中が見えない。教室 [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(10)』
  • 夏休みの終わり頃。夜気の中にも暑熱が残っている季節。まだ夕涼みなんて全然できないような宵だった。私たち小学校六年生の仲間たちは誘い合って、口約束か何かの、いつもの不思議な連絡手段で五人くらいが、ちゃんと何処かで待ち合わせしてから、町の夏祭りへ出かけた。私の住む青葉ヶ丘にある白山神社は小さく、山影にひっそり蹲っているような境内で、祭りをやるような広さではないのだが、私が少年の頃には、ほんとに小さ [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(9)』
  •  夏休みの間、小学生の男子は、同級生の自分の好きな女子には、ほとんど会うことができない。小学校プール開放の日とか、学習塾の日にちが、たまたま同じになるとか、余程の偶然がない限り、その子の姿を見ることさえできない。まだ、恋だとは思いも及ばないのに、好きな子の姿を何週間も目にすることができないのは苦しく、居ても立ってもいられないのだった。そんな苦悶の一端でも、男友達に打ち明けて楽になりたいと思った [続きを読む]
  • 私の心に残った名言
  • 『永遠に生きるかのように、学べそして明日、死ぬかのように、生きろ』『苦しいから逃げるのではない逃げるから苦しくなるのだ』『人間にとって、痛みとは死そのものよりも恐ろしい暴君だ』『人間にとって、生と死とどちらが強いかは分からないただ、愛だけは、死を越えられる』『明日のことを思い煩うな明日のことは明日自身が思い煩うであろう』『明日やれることは、今日やるな』『長生きして何をやるのかが大事人生は生き残り [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(8)』
  • 小学校五年生の夏休み前、校庭の一画にある小学校プールでの水泳授業の頃は、少年の私は、もっと子供だった。授業前の休み時間、教室で男子たちは、お互いの下着や水着を無理矢理に脱がせ合ったり、裸になった相手が着てしまう前に、そいつの水着を教室の外の廊下の遠くの方まで投げてしまったり、そんなことをして、ふざけ合いながら着替えていた。男子同士で飽きてきたときには、蜂の巣に悪戯するように、女子の着替えている [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(7)』
  • でも、そのあと、体育館から教室に戻って、私は成田美穂のことを強く意識してはいなかった。男友達と、ふざけ合うことに忙しかったのだ。少年同士で遊ぶことが一番だった。なんか近頃、変なことをしていたり、妙な『しぐさ』を見せたり、目障りな言動をとる女子たちは後回し。男子だけで遊んでいて飽きたときや、余程つまらないと思ったときに、女子にも目を向けて、ちょっかいを出してみる、それくらいに考えていた。男子より [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(6)』
  •  六年生の夏休みの二カ月ほど前、あれは恋を知るのにふさわしい、うららかな或る春の日。忘れもしない、小学校の体育館で行われた映画鑑賞会でのことだった。それは道徳授業の一環だったのか、とにかく私たち生徒はみんな、体育館の床に膝を抱えた体育座りで並んで、文部省が監修しているような、とても清潔な映画を見た。教育テレビ『中学生日記』の小学生版みたいな映画で、上映時間は小一時間。母子家庭の母親と小学生の息 [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(5)』
  • これは、おそらく少年の私が、その頃の夜に見た夢である。 ――私は水辺で足を止めた。水辺は、その夏、何度も足を運んだ瀬神ノ沼の水辺であるような気がするが、夢のことだから、何かもっと幻想的な、いつか訪れた湖の畔だったかも知れない。乳白色の朝靄の中に、同級生女子の成田美穂がいて、水浴びか何かをしている。たぶん彼女は裸なのだろうが、女の裸体の全てを見たことのない少年の私自身が、その裸を、ぼやかしている [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(4)』
  • しかし、それぞれの虫籠に思いのままの昆虫を何匹も入れたのに、少年たちの遊び心は、まだ満たされてはいなかったのだ。私は昆虫狩りをしながらも実は、瀬上ノ沼で溺死した生徒のことを考えていた。誰かが一度そのことに触れたら、もう少年たちは、小学生溺死事件と瀬神ノ沼の『主』に夢中になった。夏休みが冒険心を掻き立てたのだろう。そのまま私たちは夜の瀬神ノ沼へ向かった。夜の森の闇は本当に恐ろしかった。夜に懐中電 [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(3)』
  •  夏休みは、その始まりも終わりも遠くに感じ、永久に続くかと思われるほどに長かった。ある午後、私は、佐藤卓也、石神、横山、中野、神戸たちと待ち合わせて瀬神ノ森へ入って行った。 あの頃の少年たちの待ち合わせは不思議だ。はたして少年たちは、どのように互いの連絡を取っていたのだろうか。とにかく何らかの方法で示し合わせて、四人五人が必ず集まって遊んでいた。少年たちだけが持つ何か特殊な信号があって、ある [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(2)』
  • 一学期の最後の日だから、全校生徒が整列し終わった朝の校庭で、終業式が行われていた。壇上から校長先生が、「夏休みの間は、とくに交通事故と水の事故に注意するように」と言うようなことを生徒たちに向かって講話した。そして、私たちの学校の、すぐ隣の地区にある小学校の生徒の事件について触れた。その少年は先日、円海山の麓に広がる森の奥に、ひっそりとある『瀬神ノ沼』に落ちて溺死した。校長先生は、その事件を引 [続きを読む]
  • 自伝連作小説『少年時代(1)』
  •    少年時代 あれは、私が十二歳の夏だった。少年の私は、毎年決まってやって来る、いつもの熱い夏の中にいた。情け容赦なく照り付ける太陽。大地には陽炎が揺らめき、熱波は体の中心まで刺激しながら全身にまとわり付いてくる。子供の頃に繰り返された夏は、ひたすらに暑かった。私の少年時代には、冷夏なんてものは無かったような気がする。私たち小学六年生の仲間は、いつものように緑ヶ丘公園に集まっていた。ドッチボ [続きを読む]