ウイルソン 金井の小説 さん プロフィール

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ウイルソン 金井の小説さん: ウイルソン 金井の小説
ハンドル名ウイルソン 金井の小説 さん
ブログタイトルウイルソン 金井の小説
ブログURLhttps://wilson-t-kanai.muragon.com/
サイト紹介文創作小説を紹介
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供286回 / 295日(平均6.8回/週) - 参加 2017/07/04 16:28

ウイルソン 金井の小説 さんのブログ記事

  •    偽りの恋 Ⅴ 
  •  空は快晴だった。池の水面に爽やかな風が吹く。ただ、日差しは暑い。ボートが横に揺れると、佐藤は顔をしかめる。 「揺れるのが、怖いんだ?」 「ええ、怖いわ。だって、泳げないんだもん」  一瞬、俺の心に邪気が過る。遊び心で、ボートを揺すろうと考えた。 「そっか、でも転覆したら、俺が助けるよ」 「いいえ、もう降りるわ。ね、お願い・・」  佐藤は眉を寄せ、本当に怖がっていると気付く。俺は揺するのを止めた。 [続きを読む]
  •    偽りの恋 Ⅳ 
  •  坂本が現れると、互いに名前を伝えた。 「ほな、金ちゃん行こうか〜」 「えっ、どこへ?」  女の子が案内する近くの池らしい。そこは、歩いて行ける場所だ。 「金ちゃん、右の子は自分に任せるからな」  寮生活を始めて直ぐに、俺の名前を金ちゃんと呼ばれるようになった。誰が最初に呼んだのか、俺にも分からない。 「なんで、俺が左の子なんだ?」 「左の子、ちゃうよ。金ちゃんは右の子・・」 「だって、右は自分っ [続きを読む]
  •    偽りの恋 Ⅲ 
  •  夕食が終わっても、誰一人席を外す者はいなかった。この機会に、ぎこちない態度や話し方も薄れ、全員が打ち解ける。歳の差や境遇も関係ない寮の仲間になった。  ただ、それぞれの過去や価値観に対し、決して侵害しない暗黙の了解を俺は感じた。 《海外に生活を求めるには、それなりに理由が有るはずだ。その点、俺は逃避かもしれんな。海外に志を目指す? そんなかっこいいことじゃない。俺のことは、口が裂けても話せない内 [続きを読む]
  •    偽りの恋 Ⅱ 
  •  入学式が終わり、学校の敷地内にある寄宿舎に戻った。二人部屋の同居者は、四国宇和島出身の佐川であった。俺より三歳年上である。二段ベッドが置かれ、佐川が先に上を選んだ。俺も上を望んでいたが、年下の俺は諦めるしかなかった。  同期生は二十人。二十二歳の俺が一番年下で、早稲田工学部出身の海田が二十七歳の年長者であった。  寮は自治制で、寮長に海田が選ばれた。俺は学校との連絡係。雑務だが、気楽な担当で良か [続きを読む]
  •    偽りの恋 Ⅰ 
  •  人の生き方が違うように、恋も人それぞれに異なる。  恋は甘くほろ苦い。胸が締め付けられ、切ない思いをするものだ。  常に相手の心に切々と迫る。時には、思わぬ相手から切望される。  恋は純粋な心の動き。多々ある恋から粛清されぬものが、愛を成就できる。  だから、恋は神が与えた人間特有の悟性。  ただ、恋には嫉妬心が生まれる。  これは粛清された恋が、悪魔の囁きから修得した知恵である。  悲しい心の [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅧⅩⅡ 
  •  真美と同じく、明恵母さんもオヤジさんの考えを、読み取ってしまう。 「だから、明恵が近くにいるときは、余計なことを考えない」 「そうか、俺も注意しよう・・」  真美が嬉しそうに反応した。俺は背中に寒気を感じる。 「ダ~リン! 残念ね。私は、遠くでも感じるのよ」 「えっ、嘘だろう・・」 「洸輝さん、それは本当よ。真美さんの力は、私より上のクラスなの」 「ど、どうして?」  俺は、焦った。明恵母さんが [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅧⅩⅠ 
  • 「確か、前に話したよね。仲の良い三人が、それぞれの子供を結婚させる話さ」 「ええ、聞きました。覚えています」  しかし、三人の選んだ道は、決してまっすぐな道ではなかった。ただ独り残った明恵母さんが、諦めかけていた約束を果たすことになる。それは、俺と真美の母親が、書き残した明恵母さん宛の手紙に関連した。  手紙を読んだ明恵母さんが、オヤジさんに打ち明けて協力を依頼した。俺の居場所は、既に知っている。 [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅧⅩ 
  •  駐車場に車を停め、公園の敷地内に入る。林に囲まれ人影が少なく、俺が想像した以上に静かな公園であった。  公園の中心に大きな池があり、その脇に日本風の小屋が見えた。 「お母さん、あれが東屋よ」 「へえ〜、本格的で、凄いわね」 「トーマス小父さんも、ボランテアしたそうよ。職人さんの技能が直接に見られて、手伝うのが楽しかったって・・」 「そうでしょうね。日本では、もう簡単に見られなくなったわ。あら、池 [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅨ 
  • 「はい、読んでみます。それに、欲しいものは、自分で買います」 「なに言ってんの、洸輝にはお金が無いでしょう」  真美が、意地悪そうに言う。でも、直ぐにウインクした。 「はい、はい、奥様。どうぞ、買ってください」  俺は丁寧に頭を下げて、お願いする。真美が笑顔で頷いた。 「あっ、詩もいいかもしれないよ」 「えっ? 詩ですか・・」  俺は学校の図書室で見たことがある。分かり易い詩もあれば、意味難解な詩 [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅧ 
  •  テーブルの上は、瞬時に皿の山と化した。  食後、男性三人はコーヒーを飲む。真美と明恵母さんは、デザートのフルーツ・パフェを食べている。 「ところで、オヤジさんは神学校へ通ったけど、どうして?」  俺は、気になっていた。 「ああ、運命と宗教は非常に関連している。それを学びたくてね。運命や宿命は人間の力が及ばない。だから、多くの人間が本質を探究してきた。特に、古今東西の哲学者たちがそうだ」  俺の軽 [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅦ 
  •  牧師のオヤジさんから問われるまま、ふたりは素直に答えた。 「それでは、指輪の交換をして下さい」  俺は一瞬固まる。 《しまった。指輪を用意していなかった。え〜、どうしよう》 「トーマスオジサン、リング プリーズ!」 「オッケイ メッチェン」  後ろに控えていたトマース小父さんが、小箱を取り出した。 「ごめん、真美・・」 「いいのよ、洸輝。私がトーマス小父さんに頼んでおいたから、安心して・・」   [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅥ 
  •  深まる秋の風に吹かれ、五人の思いが空へ舞う。トーマス小父さんも何かを呟き、胸の前で十字を切った。瞳に涙を浮かべている。 《トーマス小父さんって、優しい人なんだな。俺は好きになった》 「洸輝、ありがとう。彼も、あなたが好きだって思っているわ」 「そうか、もっと話せるといいね。頑張って、英語を覚えなきゃ・・」  俺の眼差しに気付き、彼はウインクする。俺は片手を上げて応じた。 「ナウ、 レッツ ゴオ  [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅤ 
  •  車は市街地を出ると、幹線道路を走った。しばらくして、脇道にそれる。細い林道は、まるで紅葉のトンネルだった。 「凄いロマンチックな景色ね。あなたたちにぴったりよ」  明恵母さんがうっとりと眺め、隣に座る真美に呟いた。  トンネルをくぐり抜けると、前方の視界が広がった。そこは、広大な墓地である。片隅に白亜の教会が、ひっそりと建つ。 「近くで見ると、かなり古そうな教会のようだね」  オヤジさんが、興味 [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅣ 
  •  トーマス小父さんは親指を立て、大きな口を開けて笑った。 「どうしたの? 大騒ぎだこと・・」  明恵母さんが、真美の試着室から顔を見せる。 「いや、なんでもないよ。それで、真美さんの具合はどうかな?」 「ええ、ぴったりよ。とても綺麗で、可愛い花嫁になったわ」 「早く見たいもんだ・・」  オヤジさんがソワソワと待ちわびる。俺も早く見たいと思った。 《真美の花嫁姿かぁ〜、ドキドキするな》  試着室のド [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅢ 
  •  トーマス小父さんの案内で、センターの中を歩く。日本と余り変わらない風景だ。真美が、落ち着かない俺を心配している。俺の手をしっかり握り、離さないでいた。 「さあ、ここよ」  目の前のお店は、レンタル・ショップであった。 「トーマス小父さんに頼んでいたの」 「えっ、何を?」  真美と明恵母さんが目を合わせ、笑顔で頷く。トーマス小父さんと店員が、俺たちの方へ目を向けながら話している。店員がニコリと微笑 [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅡ 
  • 「この街は、デトロイトに近いでしょう。だから、デトロイトの工場地帯へ機材を運ぶ貨物車が通るの。この街だって、ケロッグの工場があるわ」 「なるほど、デトロイトは自動車産業で有名だよな」  オヤジさんが納得して、頷く。 「ケロッグと言えば、高崎にも工場が有るよね。施設の朝食で、良く食べさせられたな」 「そう、そう、確かにそうだ。高崎の姉妹都市もこの縁でなったらしい」 「ええ、私も知っているわ。夏休みに [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅠ
  •  部屋に戻った二人、食事会の高揚が続いていた。真美が英語を交えて喋り、俺の軽い脳は沈黙。ただ、理解できる範囲で、頷くしかなかった。 「どうしたの? 黙ったままで・・」 「いいや、聞いているだけで、十分だよ」 「あ〜、分かった。他のことを、考えているのね」 「いいや、何も考えていないよ」 「いいえ、考えているわ。これからの事でしょう?」 「はあ? これからの事・・。これから、どこへ行くんだい?」   [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅦⅩ 
  •  そこへ明恵母さんとオヤジさんがやって来た。 「初めまして、真美の母です。それに父です」 「まあ、本当に? メッチェンは幸せになったのね」 「はい、私たちもです」  先生夫婦と母さんたちは、意気投合したようだ。俺は真美に呼ばれ、トーマス小父さんと三人で話し合う。 「洸輝、明日はママのお墓に行くけど、そこで結婚式をしたいの」 「え、結婚式?」 「そうよ、嫌なの?」  俺は驚いたが、彼女の望むことなら [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅥⅩⅨ 
  •  着替えると、ホテルの外へ散策。 「本当に、静かで落ち着いた町だね」  真美の案内で、図書館や市役所を見て回る。風が冷たく感じ、真美が体を寄せて来た。 彼女の温もりが伝わる。 「でもね、独りになったときは、この静けさが怖かったわ。特に、夜になると、寂しくて泣いて過ごしたの」  真美の言葉に、小さな肩を強く引き寄せる。 「私が暮らした家は、この直ぐ先にあるわ。今は、誰かが住んでいると思う・・」  そ [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅥⅩⅧ 
  •  至ってシンプルなロビー。受付けで一枚の用紙にサインをする。サイン以外は、真美が書き込んだ。俺の名前の横にハズバンドと書かれていた。受付けの女性から、握手を求められる。 「えっ?」  俺は応じた。早口で何かを言われた。 「彼女、私の知り合いなの。結婚のお祝いを言ってるから、礼を答えれば・・」  真美が説明する。俺は笑顔で、決まり文句で答えた。 「センキュウ、センキュウ」  受付けが終わり、部屋に向 [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅥⅩⅦ 
  •  バトル・クリークに向かう道路は広く、対向車線を走る車が少なかった。周りの景色は紅葉が見事であった。 「本当に綺麗、想像以上の紅葉だわ。ねえ、あなた!」 「ああ、色が鮮やかだ・・」  オヤジさんが、ひっきりなしにカメラのシャッターを押す。 「でも、この紅葉の景色は、確か北海道東部の女満別空港の周辺に似ている」 「そうね、飛行機が降りるとき、凄い景色が見えたけど。ええ、思い出したわ。うん、確かに似て [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅥⅩⅥ 
  •  こぢんまりしたロビー。二十人程度が座れる広さだった。一緒に降りた人たちは、地元の住人と思われる。迎えや駐車場の自家用車に乗って、姿を消してしまった。 「車が来たわよ。さあ、行きましょう」  外には、十人ほどが乗れるカーゴ車が待っていた。まるでクロネコ・ヤマト宅急便の車に似ている。 「ホ〜ゥ、これか。こりゃぁ、荷物を載せてもゆったりだ」  オヤジさんが驚き、感心した。 「そうですね、普通のタクシー [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅥⅩⅤ 
  • 「これから、国内線に乗り換えるのよ。洸輝、迷子にならないでね」  国内線のロビーから、国内線受付けに向かう。どこを見ても、外国人の顔ばかりだ。俺は恐怖を感じ始めた。 「どうした、洸輝君。先ほどから、キョロキョロと落ち着きが無いね」 「オヤジさん、ほとんど日本人らしき人が見当たりません」 「アハハ・・、いなくても、私たちがいるじゃないか。心配ないよ」  しかし、俺は日本人ばかりの生活に慣れていたから [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅥⅩⅣ 
  •  フワフワと体が揺れガクンと着陸するまで、俺は生きた心地がしなかった。無事に着陸すると、俺は神仏に感謝する。 「洸輝、体が強張っているわよ。大丈夫?」 「ああ、平気だ。なんでもないさ」  俺は、真美に弱みを見せないよう強がった。 「うっそ、本当は怖がっていたわ。ふふ・・」 《確かに、そうだ。初めてだから、仕方ないよ》  手荷物をまとめ、前から順に降りる。俺は真美の分まで運ぶ。 「これから、入国審査 [続きを読む]
  •    謂れ無き存在 ⅥⅩⅢ  
  •  機内の時間は、俺にとって随分長く感じられる。幾度も時計を確認。ただ、真美のお喋りが退屈を凌いでくれた。  早い夜が訪れ、軽い夜食後に機内の照明が落とされた。慣れない体のリズムが、目を覚ましたまま過ごす。真美と前のふたりは、静かに寝入っている。仕方なく、俺は耳にイヤホンをつけ、好きな音楽を選んで聴く。  突如、機内が明るくなり、俺は目を開けた。いつの間にか、眠っていたのだ。 「良く眠れたようね」 [続きを読む]