クジラ さん プロフィール

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クジラさん: ヤケクソ・バッテン
ハンドル名クジラ さん
ブログタイトルヤケクソ・バッテン
ブログURLhttp://kujirayori.blog.fc2.com/
サイト紹介文本音バッチリ! 人生、社会、村上春樹にうんざりした人、どうぞ
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供72回 / 107日(平均4.7回/週) - 参加 2017/08/30 15:05

クジラ さんのブログ記事

  • 風癩――バリカン後日譚――(10)
  •      10 ウッチャラ まだ話が終わってはいないと聞かされて、クジラは軽い虚脱感に襲われて、ガックリと肩を落とした。一秒で、疲労感は二倍に増幅されたみたいである。白痴みたいに、ポカンと口をあんぐり開けてしまったかもしれない。が、それと同時に、三つ離れたテーブルでお喋りに花を咲かせているサラリーマンたちの声が、はっきりと耳に入ってきた。声の調子は同じなのに、つい今しがたまでは耳に入ってこなかった [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――(9)
  •      9  カマキリ「パンサーの店内では、おれが一番近くにいた」ボッチャはボソッと口を切った。「もちろん当事者のバリカンは別にして……」「どのくらいの距離だった、白人のデブとは……?」クジラ。「一メートルは離れていなかったと思う。ゆっくりと倒れかけていくところで、二、三秒後にはフロアに崩れ落ちた」「目と鼻の先に転がったか?」「そう。気絶してしまって、薄汚い巨体がゴロッと転がっている。仰向けに… [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――(8)
  •      8 竹箸一本 すぐにビールがテーブルに運ばれてくる。今度はルディーではなく、新入りの若いウェイトレスであるが、こちらは北方系タイ人の顔立ちをしていて、黙っていれば日本人のアイドル歌手と勘違いされても不思議ではないほどチャーミングである。ルディーは南方系の美人であって、スラっと背が高くて、いかにも王女然とした雰囲気を湛えているのとは対照的だ。少女は十六、七歳だろうか。同年代の日本の女に比べ [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――(7)
  •      7 ルディー ルディーは一七〇センチに余る長身の別嬪さんであり、睫毛が長く、優雅に歩く姿に熱帯ならではの優美な気だるさを感じさせる。全身から余計な意識が抜け落ちていて、ありのままの自然な歩みである。それに歩みと同じくらい自然な微笑みを、いつもコーヒー色の頬に湛えているが、おそらくルディー自身は魅力の秘密に気づいてさえいないだろう。 ルディーの自然さと対極にあるのが、スチュワーデスたちの極 [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――(6)
  •      6 ボッチャ 食事には中途半端な時間帯だったせいか、思ったとおりレストランは空いていた。昼食には遅すぎるし、また夕食にはまだ数時間も早い。ウェイトレスたちは二人の来客などそっちのけで、隅のテーブルに陣取っては、お喋りの花を咲かせていた。若い女たちの屈託ない笑い声が耳をくすぐる。顔見知りのルディーだけが、チラッと目だけでクジラに会釈を返してくれた。 日本人会のレストランは、普段クジラが通っ [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――(5)
  •      5 とりとめもない舌戦を交わしながらも、クジラは素知らぬ顔のまま、番太郎を事細かに観察していた。六尺近い長身はもともとスリムな体型ではあったが、今はさらにスリムどころか、鶏ガラみたいに痩せこけてしまって、みすぼらしい姿を世間に晒している。 以前はフサフサと豊かだった髪も、今は浮浪者のごとくボサボサに伸び放題であり、両耳を隠し、簾のように両眼を覆い加減だった。頬はゲッソリとこけてしまって、 [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――(4)
  •         4  クジラはシーバンペン通りに出てもなお、ボスの一言が気になって仕方がなかった。クソッパゲのことを、ボスは〈プロフェッサー〉と呼んでいたではないか。くだけた言い方ではあっても、どこか敬意が込められている。あながち、気のせいとばかりはいえまい。 クソッパゲの小佐野賢治みたいな頭蓋骨を眺めながら、てっきり悪徳不動産屋のエロ爺くらいに値踏みしていたから、プロフェッサーとは意外である。そ [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――(3)
  • 3 チョークディー! タイでの滞在期限が迫っていた。もし期限を過ぎてしまったら、マァ、牢屋にブチ込まれることはないにしても、イミグレ(入国管理局)に出向いて、何かと面倒臭い手続きを踏まなければならない。金と時間の無駄であり、それ以上に精神的なロスが大きく、鬱陶しくてイライラさせられるばかりだ。 稀にではあるが、イミグレの係官のなかには意地悪く、根掘り葉掘り質問を繰り返すクソ野郎もいる。ムカついても [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――(2)
  •      2  ああ、哀愁のスタン・ハンセン! 手始めに、ざっとタイの通りについて説明しておこう。大通り(大路)はタノンと呼ばれていて、そこから枝分かれしている小路はソイと呼ばれている。タイの道路は、基本的にこのタノン(大路、大通り)とソイ(小路)の二つから構成されているが、ただソイを小路と訳すことには、いささか違和感がある。 小路の語感として、どことなく古風で雅な感じを受けるが、しかしときには慌 [続きを読む]
  • 風癩――バリカン後日譚――
  •           風癩――バリカン後日譚――          1 下痢と捻挫 イモ男爵の健康法は一風変わっていて、朝、目覚めてすぐ、思いきり放屁することだ。寝惚けながら、ただトイレでブッ、ブ〜ッと放屁するのではない。コメカミに気を集中し、さらに下腹から肛門にかけてグッと力を込めながら、気合を入れてブッ放す。スカシッ屁はいけない。 この放屁の響きを聞くだけで、男爵はほぼ正確に自分の健康状態を把握 [続きを読む]
  • バリカン(12)
  •     12 御用とお急ぎでない方は 一つだけ、注意しておかなければならない。作中にも簡単に触れておいたが、ソイ・カウボーイがすっかり変貌してしまったことである。家庭の事情もあって、クジラは一九九九年から約十五年間、タイを訪れることができないでいた。その間も、もちろん友人・知人からタイが急激に変わっていく様子をあれこれ耳にしていて、当然、ソイ・カウボーイの変化も知っていた。 バンコクの変わりようは [続きを読む]
  • バリカン(11)
  •    11 ハルマゲドン 夜明け前が一番暗いという。熱帯のバンコクとて、例外ではなさそうだ。深い闇の底から、夜明けを予感する。クジラは新しい蚊取り線香に火を点けた。そろそろ蚊が人の生血を求めて、活発に飛び回る時間帯になる。蚊に刺されるのは薄暮の夕暮れか、明け方が多いが、理由は分からない。 その年はとくに地方でデング熱が流行していて、知合いの日本人が一人、北タイのチェンマイで罹ってしまった。マラリヤ [続きを読む]
  • バリカン(10)
  •    10 ミネルバの梟「バリカン、女のオ・・コを舐めたことがあるか?」単刀直入、クジラは前置き抜きに直球をぶつけた。 「当然、あります」バリカンもバリカンである。恥ずかしげもなく、いともあっさりと肯定しておき、「舐めるどころか、フッフッ、ときにはむしゃぶりつきますよ。フッフッ、舌を高速回転させて……」「ほう、毎回か?」「いや、女によりますね。感覚的に、なんとなく舐めたくない女もいますから……」と [続きを読む]
  • バリカン(9)
  •    9 ガバガバ論 クジラはトイレから出ると、キッチンに立ってコーヒーメーカーにコーヒーをセットした。日本からタイに戻るときは、たいていレギュラー・コーヒーを四、五缶持ってくるが、今は最後の一缶になっている。 とくにコーヒーの味にうるさいわけではなく、普通のコーヒーを普通に飲めるなら、クジラはそれで十分に満足できるが、一九九〇年当時、バンコクで普通のコーヒーを見つけることは容易ではなかった。何が [続きを読む]
  • バリカン(8)
  •      8 法隆寺「一つ、心残りがある」「何ですか、クジラさん?」「アンナ・カリーナのことで……」「転合はお止めください。どうせガイコツのことでしょう?」「そうだ」「体形は、どちらも一七〇センチで五〇キロと同じでも、大違いだ」「でも、フッフッ、よく分かったな。勘がいい」「はいはい」バリカンは鼻白みながら受け流して、「それで心残りとは、何ですか?」「なに、たいしたことじゃない」クジラはフ〜ッと溜息 [続きを読む]
  • バリカン(7)
  •    7 ウスラー 初めてタイを訪れてときの感動の一つが、町の暗さだった。バンコクよりも、とくに北タイのチェンマイであり、さらに北のチェンラーイだ。日本に比べて街路灯が暗く、それに数も少なかった。光は真実をさらけ出そうとも、平和と安堵を奪ってしまう。クジラはまだ、停電の安らぎを知っている世代に属している。昭和の二十年代から三十年代にかけて、停電は日常茶飯事ではないにしても、そう珍しいことでもなかっ [続きを読む]
  • バリカン(6)
  •    6 楊貴妃よ、永遠に!「あの女とは、バリカン、今、どうなっている? まだ、つづいているか?」「あの女って……?」 バリカンは白々しく空トボケけて、素知らぬ顔で網の上で燻っている生焼けの牛肉を竹箸で突っついている。クジラと目を合わせるのを避けているようだが、どうやらこの話題を避けたいらしい。が、クジラはビールを一口あおってから、「あの女といえば、フンッ、あの女に決まってらぁ!」クジラは乱暴に言 [続きを読む]
  • バリカン(5)
  •      5 バジャー 黄昏どき、クジラが部屋でシャワーを浴びていると、ソッとドアがノックされた。場末の古びたアパートだからドアは木製であり、乾いた音が打楽器みたいにシャワールームまで響いてくる。ノックは遠慮がちな音にも聞こえるが、どうして、どうして、なかなか油断ならない響きが奥に籠っていた。用心深く、人の心を探っているようだ。 バリカンに違いない。かつては虚弱児であり、しかも長い年月を少年院で送 [続きを読む]
  • バリカン(4)
  •      4 最後の晩餐 死神は真夏のアブラゼミみたいに騒々しい小男であって、今、必死になって、身に余るタイの別嬪さんを口説いているらしい。前回、一年半前には、知らぬこととはいえ、亭主・子持ちの女と結婚するという、とんでもない離れ業をやってのけた。チェンマイの郊外に二階家を新築したまでは順調でハッピーだったが、ピカピカの新居が完成するや、それを待っていたかのように、やおら亭主があらわれて、あっけな [続きを読む]
  • バリカン(3)
  • 3 イモ男爵 ペブリ食堂に行くと、中央のテーブルに顔見知りの大男が陣取っていて、一人でカオカームーをパクついている。体全体がヒグマみたいにゴツくて、北海道出身のせいか、顔もジャガイモそっくりだ。ジャガイモといってもメイクイーンではなく、れっきとした男爵イモであって、実際、大男の仇名だが、男爵イモひっくり返して〈イモ男爵〉、あるいはイモを端折って〈男爵〉で通っている。ときにはイモと呼ばれることもある [続きを読む]
  • バリカン(2)
  •         2 交通事故には気をつけろ! いつものことだが、バリカンは女と一緒にエレベーターから姿をあらわした。女なしでは三日と生きていけない男であり、二十代も半ばを過ぎているのに、〈深夜、一人でいると怖くてゾッとする〉と、子供みたいなことをいう。とんでもないスレッカラシの糞餓鬼なのに……。バリカンはエレベーターから一歩外に踏み出すや、遠慮無く大欠伸をした。 連れの女は初めて見るが、小柄であり [続きを読む]
  • バリカン
  •                         バリカン           1 ガイコツ、失踪 すでに時代は一九九〇年代に入っていたから、その数年来、日本全土を荒れ狂っていた狂気と喧噪のバブル景気も、ようやく翳りをみせ始めていた。とりわけ地価と株価が極端に鰻登りしてしまい、四半世紀を隔てた現在から振り返れば(二〇一七年)、まさに〈気違い沙汰〉の一語に尽きよう。都心に近ければ、猫の額ほどの空地に一 [続きを読む]
  • ベトン(26・ラスト)
  •    26  プラチナのネックレス 朝、聞き覚えのある鐘の音で、クジラは目を覚ました。鐘の響きが鼓膜を蟻が這うみたいに、くすぐったい。空を漂う鐘の音は、どうやらヤラ駅から聞こえてくるようだ。まだ、いくらか意識は朦朧としている。と、クジラはハッとして、慌ててベトンの存在を確かめた。この数日来の出来事が、まるで夢のように思えてしまって、自分自身、心の底では夢か現実か、どちらとも決めかねて迷っているらし [続きを読む]
  • ベトン(25)
  • 25 ピラミッド 夜、予定より少々遅れて、二人は性の交わりを果たしたが、仕掛け花火の連発みたいな激しく熱い情交だったにもかかわらず、一件落着となったあとは、なぜか、急に白けて気づまりになってしまった。部屋の空気がガラスみたいに固まったようだ。ベトンは素っ裸のままベッドに仰向けになって、牡蠣のように押し黙ったままである。音もなく、天井をヤモリが這う。何となく、女の気持ちが分かるような気がしないでもな [続きを読む]
  • ベトン(24)
  •      24  神の無力 だが、いくら威勢がよくても、空元気の安請け合いでしかなかった。これもクジラの愚かな悪癖であるが、自信がないときに限って、反対に大見えを切ってしまう。内心、クジラはどこから、どう話したらいいやら、とんと見当がつかずに、しばし黙り込む。しかし生来の楽天性といおうか、〈マァ、何とかなるだろう。いざとなったら、涅槃像が救いの手を差し伸べてくださるさ!〉と高を括って、とにかく口を [続きを読む]