welfair8 さん プロフィール

  •  
welfair8さん: 誰も読まなかった幻の小説、「片端者」
ハンドル名welfair8 さん
ブログタイトル誰も読まなかった幻の小説、「片端者」
ブログURLhttp://misaki8.sblo.jp/
サイト紹介文片端者の心理を描いたもの
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供146回 / 218日(平均4.7回/週) - 参加 2018/01/14 15:30

welfair8 さんのブログ記事

  • 手術
  • やがて「終わったよ」と女医さんが言った。井芹先生が縫われた正一郎の左の皮膚を軽く叩いて「きれいになったよ」と言った。正一郎は嬉しかった。看護婦さんに抱き起されて正一郎は病室に戻る。病室に戻ってから出血止めの注射を一本打たれた。これは4時間ごとに一回である。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" height="31" border="0" alt=.. [続きを読む]
  • 手術
  • 痛さで顔の輪郭が壊れていきそうである。正一郎の耳の上でがちゃがちゃ音がする。麻酔がきいているのか耳のはるか上の方である。まるで幻聴のようである。耳のはるか上の方でぶんぶん音がする。大きな蜂が上で舞っているような感じである。たぶん糸で縫っているのだろうが、猛烈な痛みが走る。皮膚を縫うとはこんなに痛いものか。猛烈な痛みの中でうん、うんと正一郎はうなり続ける。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/im [続きを読む]
  • 手術
  • 突然、ピィ、ピィと皮膚が剥がされる感じ。猛烈な痛みが走る。火傷の醜悪な瘢痕が剥がされてゆく。それはよく解った。実に良い気分だが、痛みは猛烈である。痛いの痛くないのって。のどに流れてくる生暖かい液体は血である。自分を苦しめていた醜悪な火傷の瘢痕が消えてゆくのは正一郎にとって最高の気分なのだが、メスで切られるのは痛い、痛い。あまりの痛さに正一郎の体はのたうつのである。>src="//novel.blogmura.com/novel_l [続きを読む]
  • 手術
  • 手術が始まる。針を刺すような鋭い痛みが走る。「うっ」と思わず正一郎はうなる。「大丈夫かい」と井芹先生は声をかける。「はい、大丈夫です」と正一郎は元気よく返事をするが、空元気である。手術に対する恐怖心から正一郎の体の震えがとまらない。失敗すれば大きな傷跡が顔に出来るわけだから、手術を受ける方も命がけである。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" he.. [続きを読む]
  • 手術
  • 井芹先生はこの病院の院長である。小柄だが貫禄がある。堂々としている。消毒液が顔、耳の後ろ、あご、肩に塗られた。消毒液が塗られると正一郎の足はゴムの輪で縛られた。顔に頭巾のようなものがかぶせられた。緊張が走る。正一郎の体は冷や汗をかいている。体が手術の恐怖で震える。嫌な気分である。まな板の上に載った魚の境地である。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88.. [続きを読む]
  • 手術
  • 1月11日午前10時、出血擬固時間を量るために看護婦がやってきた。剃刀で正一郎の耳たぶを切る。しばらくして再び看護婦がやってきて、「今から手術をします」と言う。車いすに乗せられて地下の手術室に正一郎は降りた。手術室にはドクターが3人、その中の一人が井芹先生である。あとの2人は女の先生である。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" height="3.. [続きを読む]
  • 入院
  • 1月10日入院する。8人部屋である。窓際から2番目のベツトが正一郎に宛がわれた。集団生活には慣れていないので正一郎は戸惑った。ひとり部屋なら最高なのだが。この部屋、日が差しているので明るく気分はいい。暗い部屋なら集団生活は嫌だが、部屋が明るいので団体生活も我慢できる。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" height="31" border="0.. [続きを読む]
  • 手術
  • 顔のケロイドがどれだけ正一郎の気持ちを傷つけたか。他人の冷たい視線の中で戸惑い、惨めな気持ちになったか。姿勢は猫背になり、他人の視線にいっも怯えていた。生まれてきたことを呪い、母親を憎み、すべてに感謝できず、いやいや神さえ呪う毎日であった。けれども手術を受けることによって、今までの惨めな気持ちから解放されるのである。こんなうれしいことがあるか。今までは将来も未来もなかったが、今は真面目に将来につい [続きを読む]
  • 井芹先生
  • 手術代は7万円である。大阪に比べてずいぶん安い。地理的にも近いので便利である。2週間で退院できる。患者が多く年内に入院するのは無理と言うので、年明けに入院する事になった。手術が旨く行くかどうかはわからないが、顔のケロイドがなくなると思っただけで心は明るくなった。心はワクワクする。将来の事を考えて楽しくなる。こんな経験は今までになかったことだ。正一郎の心は弾んだ。>src="//novel.blogmura.com/novel_liter [続きを読む]
  • 井芹先生
  • 「失敗ということはありませんか?」「もう何百人と手術してきたからね。恨んでいる患者もいるだろう」「手術してから色が変わるということはないですか?」「下の顎の皮膚を引っ張つて来るから色が変わるということはないよ」井芹先生の自信に満ちた言葉に正一郎は安心と信頼を持った。はっきりした先生の説明に正一郎は納得したのである。この先生に手術を任せようと正一郎は思った。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/ [続きを読む]
  • 井芹先生
  • 「耳の方はどうですか?」「うん、それは肩の皮膚を移植したらいいだろう」と井芹先生はおっしゃった。ところが後で分かったことだが、肩の皮膚を移植すれば、肩の皮膚を剥いだ部分がケロイド状になりその傷の痛みで苦しむことになる。福岡の院長先生がおっしゃったように耳の皮膚を剥いでひっぱっていく手術方法の方が結果的には良かったのである。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" widt. [続きを読む]
  • 井芹先生
  • 「傷をグラインダ‐か何かで削つたらどうですか。判らなくなるのではないですか」「判らなくなる場合もあるし目立つときもある。目立つときは削ったらいいだろう」「退院するのにどのくらいかかりますか」「2週間で退院できるよ」耳もつぶれているので、耳の事を井芹先生に正一郎は聞いた。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" height="31" border=".. [続きを読む]
  • 井芹先生
  • 「ところで?」「ええ、実は小さい頃、堀り炬燵に転げ落ちて顔と手に大やけどを負いまして。治らないかと思って」先生は正一郎の左の顔のケロイドを見た。「手術しても顔に傷が残るよ」「どんな傷ですか」先生は黒板から白い白墨を取り出して正一郎の左の顔に印を入れた。「こういう風にメスで切るので、耳の後とあごの下に傷が残る」と先生は答えた。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" wid [続きを読む]
  • 井芹先生
  • 小倉の市民病院には井芹先生はいなかった。S町に転勤していた。小倉駅からバスで40分、S町のバス停の近くにその病院はあった。井芹先生はその病院の院長になっていた。井芹先生は背が低くまるでフランスの画家ロートレックにその風采は似ていた。井芹先生に福岡の院長の名刺を見せると、「ああ、先生は元気ですか」と懐かしそうに言う。紹介状と言っても名刺に私の患者です、よろしくと書いてあるだけだが、その効果は絶大であった [続きを読む]
  • 小倉に
  • 大阪から九州の小倉に正一郎は向かった。福岡の院長が紹介してくれた小倉の井芹先生に会うためである。井芹先生に会えばきっといいことがあるに違いない。もう絶望するのはやめよう。顔のケロイドがなくなれば人から嫌われることもなくなるし、ケロイドを隠すために顔を左に傾ける必要もなくなる。堂々と胸を張って生きていける。夢に見た明るい未来がやってくるのだ。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_litera [続きを読む]
  • 大阪にて
  • 正一郎は大阪で治療を受けるのは難しいと思った。大阪と熊本を往復すだけでも交通費がかなりかかる。経済的に無理である。大阪で働くと言っても親戚も友達もいない。アパートを借りるにしても保証人になってくれる人もいない。けれども大阪に来て良かったと正一郎は思った。治療方法があるとわかっただけでも救われた気がした。来る前は絶望的な気持ちの中にあったので。暗い海の中で灯台の火を見たような気がした。>src="//novel. [続きを読む]
  • 大阪にて
  • 「きれいになるものですね。それで手術費用はどのくらいかかるのですか?」と正一郎は医者に聞いた。「一度、メスを入れて瘢痕を縮め、さらにもう一度、メスを入れるから50万くらいはかかるね」「50万ですか」50万と言えば大金である。今のように経済的に余裕のないときに父親が出してくれるだろうか。50万は高すぎると正一郎は思った。「治療期間はどのくらいですか?」「手術してから半年後に傷口が盛り上がって来るので二度目 [続きを読む]
  • 大阪にて
  • 医者は写真帳を開いて正一郎に見せた。それは左の頬に醜い火傷の瘢痕のある中年の男の写真であった。手術の後の写真もあった。メスで切った後、刃物で切られたような跡が大きく残っていた。火傷の引き攣った醜い後は消えていたが、これではやくざ者に間違われる。けれども醜い火傷の跡は消えているのだから、これで良しとせねばならぬ。贅沢は言っておれぬ。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gi [続きを読む]
  • 大阪にて
  • 「どうしてもやらなきゃいかんかね」「どうしても治したいと思います」「手術しても傷が残る
    よ」「傷の方がいいですよ」「傷の方がいい?」正一郎の答えに医者は驚く。ちょつと考える仕
    草をして、それから立ち上がるとカーテンの中に入り一冊の写真帳を持ってきた。>src="//nove
    l.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" height="31" border="0" al
    t="にほんブ.. [続きを読む]
  • 大阪にて
  • カーテンが開いて今度は恰幅のいい、柔道の師範のような先生が出てきた。「どこが悪いの?」と先生は聞いた。「はい、小さい頃に堀り炬燵に飛び込みまして顔と手に大やけどをしたのです。治らないかと」「どれどれ」その体格のいい先生は正一郎の顔のケロイドをまじまじと見た。「どうしても治さないといけないかね?」と先生は聞いた。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88".. [続きを読む]
  • 大阪にて
  • しばらくして彼女は出てきて、「部屋の中に入ってください」と言う。中に入ると部屋の隅に大きなな机があり、背の高い先生が白い服を着て立っていた。「先日、手紙を差し上げ診察してもらうために来たのです」正一郎が顔のケロイドを見せると、「いろんな手術の方法がありますが、ちょつと待ってください」と言うと後ろのカーテンの中に入って行った。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" wid [続きを読む]
  • 大阪二転三転
  • 病院はビルの3階にあった。受付でベルを押すと看護婦が出てきた。「何か......」と看護婦が聞いた。「実は、先日お手紙を差し上げ、診察してもらうために来たのです」看護婦はいぶかしげな様子なので、正一郎は左の顔のケロイドを見せると看護婦はああ、と言って部屋の中に慌てて引っ込んだ。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" height="31" bord.. [続きを読む]
  • 大阪にて
  • 正一郎は左の顔を隠すために首を左に傾け、火傷でくちャクチャになった左手をポケツトに突込んで猫背で歩いていく姿勢は何か異様で陰湿で人から好かれるものではなかった。最悪の姿勢なんだが、顔のケロイドを隠すために自然に身についたスタイルであった。顔のケロイドはいびつな姿勢を正一郎に強要したのである。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" height="3.. [続きを読む]
  • 大阪
  • 大阪には午前7時に着いた。会社へ急ぐ人たちと一緒に歩く。群集の中を歩くのが正一郎は一番嫌いである。周囲の者が後ろ指をささないか心配である。自分を見世物小屋の珍動物として見るのではないか。悲鳴を上げる者は出てこないか。正一郎は不安になる。嫌悪の視線を送られるのは敵わない。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width="88" height="31" border=".. [続きを読む]
  • 大阪に
  • 熊本に戻ると大阪の形成外科の病院から手紙が来ていた。「診察に応じます」と言う内容の手紙だった。翌日、熊本から寝台車で大阪に正一郎は向かった。「顔のケロイドがなくなればどんなによかろうか」と正一郎は思うのである。手術が出来れば未来が見えてくるのだが。心は暗く湿りがちなのだが、希望は持たなければと自分を励ますように強く思う。>src="//novel.blogmura.com/novel_literary/img/novel_literary88_31.gif" width.. [続きを読む]