massirona さん プロフィール

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massironaさん: 255字で巡らす愛おしい本たち
ハンドル名massirona さん
ブログタイトル255字で巡らす愛おしい本たち
ブログURLhttp://massirona4.blog.fc2.com/
サイト紹介文読んだばかりの、或いは過去に読んだ本の255字レビュー
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供133回 / 294日(平均3.2回/週) - 参加 2018/01/25 11:10

massirona さんのブログ記事

  • 『エンリコ』
  • マルセル・ムルージ著『エンリコ』 安岡章太郎・品田一良訳 (中央公論社)* 日常のすべてが生きるためにあった。生きるためには、そこに身を置かねばならなかった。パリの貧民街に生きる少年の日常は、狂気と憎悪に満ち、どこか艶めかしいような色濃いものだった。先の見えない暮らしぶりは、今日さえ危うくある中で、何が起きているのか、少年が何を感じているのか、淡々と描かれれば描かれるほどに、物語る事柄に引き込まれ [続きを読む]
  • 『傍らにいた人』 
  • 堀江敏幸著『傍らにいた人』 (日本経済新聞出版社)* 書物の中で出会った人や言葉を巡る、豊かな一冊だ。読みながら意識は別のところへ誘われ、立ち止まらせ、人物や言葉は記憶を疼かせ、思いを巡らせる。そうして書物は別の書物を連れ、繋がり、出会わせてくれる。読むことが、その傍らに立つことであり、登場人物たちが傍らにいた人であるという、そのこと自体にはっと気づきを覚えながら、何度も細部に惹かれて立ち止まった [続きを読む]
  • 『フラッシュ 或る伝記』 
  • ヴァージニア・ウルフ著『フラッシュ 或る伝記』 出淵敬子訳 (みすず書房)* 愛されたコッカー・スパニエルのフラッシュの生涯を描きながら、その飼い主となり愛した詩人エリザベス・バレットの人生が浮かび上がる。見つめ、見つめられ、寄り添い、共に分かち合う。絆を深めてゆく過程で起こる様々な出来事は、とてもドラマチックだ。恋をしている時も、事件に巻き込まれた時も、新たな暮らしの中でも、子供を授かった時も、 [続きを読む]
  • 『涙』
  • マルセル・ムルージ著『涙』 品田一良訳 (春陽堂書店)* 感情の重なりと広がり、その複雑が、始終ひたひたと胸に迫る。大人の世界に巣立つ入口で、自分のために生きることを考え始めた姿がここにはあった。一人ぼっちになったような孤独、遅かれ早かれ訪れる思春期の苦悩が、痛烈に物語を巡る。十九歳になるにもかかわらず、母親に幼さの仮面を強いられ、従い続けること、子役としての限界を、身にも心にも感じ始めたアンドレ [続きを読む]
  • 『プリーシヴィンの日記1914─1917』
  • ミハイル・ミハーイロヴィチ・プリーシヴィン著『プリーシヴィンの日記1914─1917』 太田正一編訳 (成文社)* 戦時下の日記は、従軍記者として戦地に赴いた様子も、引き揚げた後の、人さまざま、という言葉に尽きる、革命の時代のロシアの民衆の混乱も、編集室での逮捕の様子もつぶさに描かれていて、心が苦しくも、語りに魅せられる。日記でしか知ることのできない思索、動乱を見つめる視線が確かにここにあるのを感じる。生 [続きを読む]
  • 『灯台へ』
  • ヴァージニア・ウルフ著『灯台へ』 御輿哲也訳 (岩波文庫)* 眩暈を覚えるほどゆらめく意識の奥底を漂う流れが心地良く、一気に物語に魅せられていた。第一部でメインの登場人物であるラムジー夫人の存在感、そして不在の存在感に圧倒される。あっけないほどに描かれる不在は、物語の中でとても多くを占めている。彼女のいた時間、彼女のいない時間。いない人を思えば思うほどに、その存在感は増してゆく。幾重にも折り重なる [続きを読む]
  • 『病むことについて』
  • ヴァージニア・ウルフ著『病むことについて』 川本静子訳 大人の本棚 (みすず書房)* 気持ちのおもむくままに、流れるように語るウルフの言葉たち。ときに鋭く、ときに豊かな比喩を用いて、ひとつひとつのテーマと向き合う語り口は、読み手の想像をこえる行き先で結ばれてゆく。ウルフの視線の向かう先、その思考を直に感じるエッセイを読んでいると、語るべき言葉を心に持っていることの強み、それを文学へと昇華させる筆致 [続きを読む]
  • 『インゲボルク・バッハマン全詩集』
  • インゲボルク・バッハマン著『インゲボルク・バッハマン全詩集』 中村朝子訳 (青土社)* 死の側で、生を知る過程。それをつぶさに感じさせる言葉がここにはある。神聖な狂気を待つがごとく、端々に見え隠れする狂気、よぎる死の魅惑。自分の前から去ってゆくものや、語られることなく過ぎゆく言葉、すべてに苦悩する。言葉は孤独の中。そうして、自分の言葉が自分自身を救うことを望んでいる。それがもしかしたら唯一の救いだ [続きを読む]
  • 『不可触民バクハの一日』
  • M・R・アナンド著『不可触民バクハの一日』 (三一書房)* 生まれ故に虐げられ、人間的誇りを奪われ、蔑視の中で生きる者の一日の心の内の苦しみが、つぶさに描き出されていた。カーストヒンズーが遠くあろうとも、近代化が為されようとも、決して単一ではない、観念的な図式では到達できない、インドの真実を知る必要を迫られた気がした。人に受け入れられるということ、寛容、親しみの深さ、優しさ、共感を分かち合う言い知れ [続きを読む]
  • 『マルセル・プルーストの誕生 新編プルースト論考』
  • 鈴木道彦著『マルセル・プルーストの誕生 新編プルースト論考』 (藤原書店)* プルースト作品を読むことの楽しみ、その奥深き魅力に感じ入る。自分の限られた生、その独自の経験から、万人に通ずる普遍的な他人の生を捉えてゆく心掴む物語を読むことは、プルーストを通して自分自身を読むことでもある。自分の中に潜ませる内部の他者、他者の目、他者の意志を通して自己を見つめている。老成と表裏一体の幼さへの執着について [続きを読む]
  • 『自分だけの部屋』
  • ヴァージニア・ウルフ著『自分だけの部屋』 川本静子訳 (みすず書房)* 日常において性差にとらわれる私たちを救い出すような「女性が小説なり詩なりを書こうとするなら、年500ポンドの収入とドアに鍵のかかる部屋を持つ必要がある」というウルフの言葉に象徴される、経済的自立と精神的独立、女性の受難史は、少々趣の違う今の時代にも問われることのように思う。関係性が先にあり、男性と女性があること。性差にかかわらず、 [続きを読む]
  • 『言葉』
  • ジャン=ポール・サルトル著『言葉』 澤田直訳 (人文書院)* 嘘でも真実でもない。すべてはサルトルの企みに満ちた魅惑的な虚構に映る。自己形成の過程を描きながら、形成を揺さぶる言葉が連なる。容赦なく自己を分析し、一人の人間を描きながら、それは個人ではなく、独自でありながら、あらゆる人間であり、普遍である存在を巡る物語になる。言葉を覚え、本当に読み耽るまでに至る過程を描きながら、自分が読んでいる姿に陶 [続きを読む]
  • 『ある作家の日記』
  • ヴァージニア・ウルフ著『ある作家の日記』 神谷美恵子訳 (みすず書房)* 日の間隔をあけて、途切れながらも続く日記に連なる文章から見えてくるヴァージニア・ウルフという心は、社交的な反面、憂鬱と浮き沈む激しさを抱え、けれどその芯の奥に、書くことを生きることになぞらえる強い信念を持ち続けていたと感じられる。何かを成し遂げようとする思いの中に度々訪れる耐え難い無力感。苦悩。疲れ果て、休み、また読み始め、 [続きを読む]
  • 『ケス 鷹と少年』
  • バリー・ハインズ著『ケス 鷹と少年』 高橋鍾訳 (彩流社)* 文章は視覚で捉えたものを淡々と映し出し、感情や主張を見せない分、ビリーの日常の理不尽をいっそう際立たせ、心に響かせる。周囲の人々はビリーの置かれている状況をわかっていない。ビリーの唯一の夢中になれることである鷹に興味を示した教師すら、本当のところはわかっていないように感じる。そしてビリー自身も自分のことを語る言葉を持っていない。心の混沌 [続きを読む]
  • 『波』
  • ヴァージニア・ウルフ著『波』 川本静子訳 ヴァージニア・ウルフコレクション (みすず書房)* 陽が昇り、沈んでゆく。その一日の生の息遣いを感じる、はっと息を呑む美しい描写を挟みながら、六人の男女のそれぞれの人生が伺える独白が展開されてゆく。始終どっと押し寄せる思考の波。孤独。見分けのつかぬ愛と憎しみ。喜びと悲しみ。生と死。友人たちの姿を通して多面的になる個は、ふいにその境を曖昧にする。そして独白に [続きを読む]
  • 『マラルメ詩集』
  • ステファヌ・マラルメ著『マラルメ詩集』 鈴木信太郎訳 (岩波文庫)* 言葉は選び抜かれてここに在った。溜息も不在も死も鳥も、日常とは違う。詩の言葉として配置されて在る。詩でも散文でも、心を描くのなら思索を重ね、感情のままに連ねるのでも、思いを確かに綴るための言葉が、選ばれて在るのだと感じ入る。安易な解釈を寄せ付けない詩情、並ぶ文字の佇まいからも滲み出る気品に、心を奪われてゆく。気品をそのまま映し出 [続きを読む]
  • 『迷子たちの街』
  • パトリック・モディアノ著『迷子たちの街』 平中悠一訳 (作品社)* 記憶の中におりてゆく。その出発点からめぐらされる静かな語りが始終心地良い。かつて過ごした場所、出会った人々の行方。遺されたファイルをもとにして少しずつ紐解かれてゆく過去は、その淡い輪郭を少しずつ確かにする。手さぐりにおりてゆく記憶の証人たちの多くが消えた今、過去が再び人生の始まりに立ち戻らせてゆく。物語を漂う時の循環に包まれながら [続きを読む]
  • 『シラノ・ド・ベルジュラック』
  • エドモン・ロスタン著『シラノ・ド・ベルジュラック』 辰野隆・鈴木信太郎訳 (岩波文庫)* 貫かれた一つの生き方に美学を思う。人を酔わせるほどの言葉を心に持つ詩人であり、優れた才気と情の深い立派な魂を持ち、一人の女性を愛し抜いた物語のシラノ。美男ではない。ただそのことにより、嘲りを恐れ、真の恋を譲り、手を貸し、心からの言葉まで譲ってしまう。誰かの幸福を奪ってはいけない。そう恋敵の心さえ揺さぶる言葉の [続きを読む]
  • 『異郷の季節』
  • 鈴木道彦著『異郷の季節』 (みすず書房)* 至る所に人々への敬意を感じる。人を称える言葉は、同じ時代を生き、その息吹を知るからこそ、深くある。すべてを知らなくとも思いを掬い取り、理解しようとする配慮がある。そうした一筋の誠実さと一貫した考えを持つ人の文章に、自然と魅力を抱いていた。一見、人が変化しているように見えたとしても、時代を経ても揺るがない、一貫したものを持ち続けている人を見抜き、称える言葉は [続きを読む]
  • 『失われた時を求めて』
  • マルセル・プルースト著『失われた時を求めて1 スワン家の方へⅠ 第一部コンブレー』 鈴木道彦訳 (集英社文庫)* 眠りに引き込まれて夢と現をさまよう書き出しから、物語に始終魅せられていた。目覚めて思い出すコンブレーでの幼年時代の記憶は断片的ながら、母のおやすみのキスを求める気持ちに心揺さぶられ、愛おしさでいっぱいになる。やがてある冬の日に紅茶に浸したマドレーヌによって記憶は生き生きと蘇り、過去のコン [続きを読む]
  • 『越境の時 一九六〇年代と在日』
  • 鈴木道彦著『越境の時 一九六〇年代と在日』 (集英社新書、集英社)* 経験の本質はプルーストに繋がっていた。日本によって作り出された在日の問題を、日本人が語り、踏み込む不遜を巡らせつつ、境界を越えて理解の手掛かりを得ようとする。事柄に関心を持つために必要な共感は、相手の実存に踏み込み、抑圧関係に隔てられても、境界を越えるべくある。言葉を発する責任、言葉に含まれる歴史的なニュアンス、ときに相手を傷つ [続きを読む]
  • 『地図になかった世界』
  • エドワード・P・ジョーンズ著『地図になかった世界』 小澤英実訳 (エクス・リブリス、白水社)* かつてあった世界。よく知られたアメリカの歴史の姿を描きながら、ここには私たちの知らなかった物語がある。自由の身であろうと、なかろうと、そこに生き、通り過ぎてゆくどの人々にも名前があり、個性があり、抱えている現実がある。過酷な時代を語りながらも、どこかあたたかさを覚える静かなまなざしは、人々の息遣いにとても [続きを読む]
  • 『優しい鬼』
  • レアード・ハント著『優しい鬼』 柴田元幸訳 (朝日新聞出版)* 語られてゆく日々の中の“楽園”という言葉の意味する、皮肉な哀しさを思ってしまう。時代の残酷さと、日常に溢れる暴力とその連鎖、そこにある心情、語られてゆくひとつひとつの出来事に苦しさを覚えながらも惹き込まれるのは、詩的で濃密な語りの為せる魅惑だ。行きつ戻りつしながら、真実も嘘も、自分の身を守るための犠牲も、それゆえの祈りも、ここにいるこ [続きを読む]
  • 『インディアナ、インディアナ』
  • レアード・ハント著『インディアナ、インディアナ』 柴田元幸訳 (朝日新聞社)* 此処にも其処にも彼処にも満ちる喪失感の中、途切れ途切れに静かに語られてゆく人生は、哀しくて、美しくて、残酷だ。オーパルの手紙や、どこか寓話のようにも感じられるノアの身に起こる様々な出来事は、その切実な心を揺さぶり続ける。なかなか全貌が見えぬ物語の点と点が結ばれ、あの時のノアとこの時のノア、そして今のノアの思いと行動がつ [続きを読む]