syu331 さん プロフィール

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syu331さん: 狂騒的一家 〜ある自殺が次々と精神障害を生む〜
ハンドル名syu331 さん
ブログタイトル狂騒的一家 〜ある自殺が次々と精神障害を生む〜
ブログURLhttp://syu331.muragon.com/
サイト紹介文東京の飛降り自殺事件が、周囲に与えた影響を、ドライに、そして変に軽いタッチで書いてみる。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供69回 / 138日(平均3.5回/週) - 参加 2018/04/03 17:42

syu331 さんのブログ記事

  • 狂騒的一家 19−1
  •   19  翌日、周作は通常通り出勤して、デスクでできる仕事をしながら、とにかくポケットの中の携帯に、細心の注意を傾けていた。  昼の休憩を済ませて、パソコンと向き合った丁度その頃、携帯が振動した。画面を見ると、はたして広子からであった。立ち上がって、おもむろに資料置き場の方に歩いていった。ここは死角になるのと、一応仕事をしているようにもみえるため、こういう場合に逃げ込むのには最適の場所なのである [続きを読む]
  • 狂騒的一家 18−4
  •  とにかく、今いる井上家の中で、唯一まともなのは名古屋にいる周作だけなのである。健作入院後は、周作は昼と夜に、広子に毎日電話をしては状況を確認していた。日に日に広子の疲弊していく様子が手に取るようにわかった。  健作は、入院してからというもの、娘、美菜と会うのを心待ちするようになり、それは医療スタッフたちも、治療上の意味もあってなるべく実現させてほしいとの要望すらもあったらしいが、それを実現させる [続きを読む]
  • 狂騒的一家18−3
  • 「こんなブタ箱に入れやがって」 そんな風に健作は悲鳴のように悪態をついたらしい。  主治医の一旦の診断は、肉親を失ったことをきっかけにしたうつ病。入院させた上で、投薬治療を厳重に行いながら、安静にさせるというものでたったようだ。そしてやはり自殺のリスクを避けることの措置として保護室にしばらく入れて様子を見るとの方針であった。  本人は眠れないことも強く訴えており、抗うつ薬であり、かつ副作用として眠 [続きを読む]
  • 狂騒的一家 18−2
  •  健作は、入院の可能性を指摘されて以来、徹底的に厚生会板橋病院の受診を嫌がり、広子が電話で予約をしようとすると、電話線を引っこ抜いて抵抗を試みたらしい。 結局子供のような押し問答的やりとりに、疲れ果てた広子が周作に電話してきたので、セコンド周作は、さっさと久保田職員に電話して状況を話すと、久保田職員が訪問して説得、ようやく病院を受診するに至った。  そこでも、担当の医師に対しては徹底的に入院を嫌が [続きを読む]
  • 狂騒的一家 (一部で完結バージョン)2
  • プが存在してて、私はやっぱりどこにも入れなかったの」 そんな風に言って、保育園の送り迎えすらも負担に感じ、行きたくないような様子であったようだ。  確かにそれは、うつ病の診断書を医師から出された、美紀のその時の精神状態からしたら、止むを得ないと、周作も回想できるのである。  おそらく、美紀以外の母親たちは、子供を保育園に送った時には、いかにも有能なオーエル然として、女性版のスーツをチャキっと身にま [続きを読む]
  • 狂騒的一家 (一部で完結バージョン)
  • 狂騒的一家 1 周作が仕事を終えて1DKのアパートに帰宅すると、聞き慣れない電子音が鳴っていた。それが、めったに鳴らない固定電話の呼び出し音であることに少し後に気づき、玄関脇の床に無造作に放置された埃のたまったそれに腕を伸ばした。前にこの音を聞いたのはいつだったろうか。  この電話が鳴るのはセールスの電話か、そうでなければめったに連絡を取ることのない、身内くらいだ。  受話器を取ると、聞こえてきた [続きを読む]
  • 狂騒的一家 18−1
  • 18    健作が厚生会板橋病院に入院したのは、夏も盛りの8月2日のことだった。入院形態は精神科に特有の強制入院の一種、医療保護入院であった。  周作は行政職技師として市役所で働く中で、この仕組みを少しは知っていたので、まさか自分の家族に対してこの制度を使うことになるとは、と妙に感慨深い思いを持った。  まだ周作が某土木事務所に勤務していた頃、橋の補修工事の監督員をしていた折、橋の下に暮らすホーム [続きを読む]
  • 狂騒的一家 17
  • 17  次の土曜日は7月下旬の、やはり朝から暑い日であった。約束の午前10時半に久保田職員が保健師と共に健作の家に訪問。  訪問を知らされていた広子が対応。その顔は痩せて、ひと目で疲労が蓄積した様子。保健師の声掛けに対しても反応はやや鈍重。健作は自室にこもっているとのことで、広子が職員二人を連れて、部屋へ導く。  健作はベッドで横になってぼんやりとしているが、突然に二人の保健所職員の訪問にはかなり [続きを読む]
  • 狂騒的一家 16−7
  • とにかく、自分の好きな言い方でいいから、病院を受診するように説得するよう言って、周作は電話を切った。これだけは、広子がやるしかないことであり、名古屋の周作ではどうしようもない。  その日、健作も仕事から帰って、落ち着いた頃であろうと、夜の10時頃広子に電話を入れた。 「説得できたか?」 単刀直入に開口一番聞いた。 「仕事が休めない。病院には行きたくない。そんな風に言われた」 それで、どうなった。 [続きを読む]
  • 狂騒的一家 16−6
  •  とにかく、健作に関しても広子と同様の病気である可能性は高く、それは結局死んだ美紀の病気とも一緒である。今回だけは絶対に不幸の連鎖を止めなければならない。健作は速やかに医療機関に繋がねばならない。  午後になって、2件目の調査場所に着く頃、久保田職員からの着信があった。周作は車内で電話を取った。面談を終えて、役所において保健師や上司とこのケースの検討会議をした上での電話であった。  相棒は、気をき [続きを読む]
  • 狂騒的一家 16−5
  •  久保田職員からの第一報であった。  保健師に面談を一旦任せて、自分だけ周作への電話連絡のため、席を外して電話してくれているようであり、そんな配慮は本当にありがたかった。 「お母さま自体が相当疲弊されてまして、それだけでも十分にまずいですね。それでも私たちも伝聞で、なんとかお母さまから健作さんの様子を伺ったんですが、間違いなく先ずは健作さんから、大至急なんらかの対応を取る必要があると思います」 「 [続きを読む]
  • 狂騒的一家 16−4
  • 広子に電話を入れることにした。この時間なら、美菜を保育園に届けて板橋の家に戻っているはずだ。  数コールで広子は出た。 「あ、あんた、シューなの?」 相変わらず、例の平板な声である。周作は単刀直入にいうことにした。 「さっき、板橋区の保健所の職員さんと話した。健作の件を話したら一度家庭訪問をしたいと言っていた。ただ、健作のいる時間に行くと、本人への刺激が強すぎるから、いない時間に行きたいとのことだ [続きを読む]
  • 狂騒的一家 16−3
  • しばらくすると東京03の市外局番から電話が入った。周作はワンコールで取った。 「赤塚の保険福祉センターです。井上さんの携帯電話で間違えないでしょうか。この件、担当いたします久保田と申しますけど」 これから担当者となる久保田職員は、歳のころ、周作と同じくらいのだろうか、はきはきとして応答性の高そうな男性職員であり、周作はなんとも頼りになりそうだと安堵した。 「実はですね。井上さんの件は、亡くなられた [続きを読む]
  • 狂騒的一家 16−2
  •  一つ目の調査場所に着くまでに、板橋区の行政のページをスマホで調べた。  政令指定都市においては、区ごとに一つ保健所があることは周作も知っていたから、調べてみると、首都東京はやはり仕組みが少し違うのだが、東京特別区である板橋区には板橋保健所が設置されていた。保健所には、必ず保健師が在籍しており、地域住民の健康相談に応じる体制がある。ここでいう、健康の中には当然、精神保健も含まれており、各保健所が、 [続きを読む]
  • 狂騒的一家 16−1
  • 16  東京板橋に電話をして、不穏な状況を察知した周作は、翌日名古屋から遠隔でいかなる手を打つかを考えていた。  その日は午前中に、土地家屋調査士との打ち合わせが一件入っていた周作は、例の仮病電話をするわけにもいかず、普段通り出勤すると、朝のいの一番で打ち合わせを済ませた。  その後、2年目の相棒に 「おっしゃ、ちょっと現地調査に行こうぜよ」 そうウィンクすると、親指を立てて合図してくる。  こう [続きを読む]
  • 狂騒的一家 15−4
  •  こうして、非常事態であることを現に確認した周作は、さすがにきちんと父親と対峙して、ここは息子としての最大限の責任を果たそうと覚悟したのであった。  隆司の個室に改めて入り、ベッドに寝ている父親を改めてきちんと見た。こちらは健康過ぎてピンピンしている身、無論立って父親のベットを見下ろすことが出来る。  周作は、医療従事者でもなんでも無いからよく知らぬが、医学生や、看護学生やらがベッドサイド研修をす [続きを読む]
  • 狂騒的一家 15−3
  • ようやく周作もここで冷静になり、とにかく事実の解明を問題の解決を目指さねばと思った」 「この人の今の状態は、明らかにおかしいし、どうみても一度医者に行くべきだし、休養をとるべきだと思うが」 周作は隆司に対して、なるべく冷静に話を向けた。これほどきちんと父親に対してものを喋るのは一体いつ以来であろうか。 「そんなことを分かっとるし、俺は毎日来るなと言っとるんだ」 「え、そうなのか」 広子の方を見ると [続きを読む]
  • 狂騒的一家 15−2
  •  面会時間ギリギリの21時前に到着、ナースステーションの前をそっと通り過ぎ、東病棟5階の個室が並ぶ前を、名札に注意しながら進むとあった。井上隆司の個室である。  ノックもせずに突入すると、ベッドに横たわる隆司、ベッドサイドの横のパイプ椅子に腰掛ける広子が一斉に誰かとこちらを見て、それが周作だと分かると何事かという顔をするが、その時の広子の顔を周作は未だに忘れることはない。  げっそりと肉の落ちた頰 [続きを読む]
  • 狂騒的一家 15−1
  • 15    広子にはある既往症があった。  その時から遡ること何年になるのだろうか、隆司が井上胃腸科を閉院し、ひっそりとその町の市民病院の循環器内科に、最後の入院をしてしばらくたった頃、当時でいうところのケータイ、今でいうところのガラケーに見知らぬ番号から着信があるのを、ポケットの震動で周作は感じていた。  その時、周作は当時の職場である、某区の土木事務所の職員であり、現場の土木行政の最前線、と言 [続きを読む]
  • 狂騒的一家 14−5
  •  周作は時計を見ると既に18時を回っている。色々な対応の仕方を考えるが、自分が板橋まで緊急で向かう対応はまず除外する。健作本人への対応は周作には無理である。  医療機関はどうか?さすがに救急車を呼ぶのに適切な状況ではない。無論、それなりに緊急状態であるとは言えるのだが。  基本的に病院は治療の意思を持っているものが、自らの意思で受診しない限り診療は受けられない。精神科の特例的な強制的受診、及び入院 [続きを読む]
  • 狂騒的一家 14−4
  • 「とにかく、そのおかしいと思うところを全部言ってみてくれ。しばらくずっと聞いているから」 周作は自由に話させる事にした。 「ケンはね、最近あれだけ可愛がってた美菜ちゃんを、全く相手にしなくなった。それで、毎日、あの子は大して強くもないのに、帰ってくると、私が作った夕飯も大して食べないまま、一人で缶ビールを飲んで、顔を真っ赤にしてすぐに箸も置いてしまう」 「ふん」 「それで、ずっと無言でボケーとして [続きを読む]
  • 狂騒的一家 14−3
  •  その時周作は、暑さから簡単に冷めない身体を、シャワーで冷やそうとユニットの浴室に入っていたから取れなかったのだが、短パンTシャツに着替えると、スマホの画面から広子からの着信が確認できた。  すぐに、周作は折り返しかけると4コール目くらいで通じた。その時の広子の電話の第一声のぬぼーとした声を、周作はなかなか忘れられことができない。 「あ、あ、あんた。シューなの・・・・」 その力、とういか全エネルギ [続きを読む]
  • 狂騒的一家 14−2
  •  次の月曜日も、朝から真夏日は確実、各地で今年1番の暑さになるでしょうと、テレビの気象予報士がもはや、自慢気とも言えるような口調で解説しているのを見た後、周作はやれやれという気持ちで家を出た。  その時周作が配属されていたのは、千種区にある官民境界を査定する専門部署の事務所であった。要は、市の所有物である市道と、民地との境界を、住民の申請を受理した後に、昔の資料を元に再現して、再び明示するのである [続きを読む]
  • 狂騒的一家 14−1
  • 第三部 14 「しゅーちゃん、東京の方は大丈夫。様子くらいは電話して聞いた方がいいんじゃないかな。お兄さんは仕事に出てて、お母さんは慣れない東京で、一人孫の面倒を見るなんて、かなり大変なんじゃないかな」  例のごとく、スタバで二人で思い思い本を読んでいて疲れて、最近はやっている映画のことなどを話していた時、ふと、紗季はそんなことを言って、大通りの、新緑というのには少し遅い、午後の美しい街路樹を眩し [続きを読む]
  • 狂騒的一家 13−15
  •  周作の影響で、紗季もすっかり井上靖のいろんな作品を読むようになった。周作は氏の歴史的作品については、敦煌などの代表作の存在は知っていたものの、高校から理系クラスで社会はお決まりの地理選択で、歴史になんとなく苦手意識を持っていたため、読んでこなかったのだが、氏の自伝的長編作、とか中間小説とか呼ばれるらしい、いわゆる現代小説が好みだった。  氏の旧制高等学校時代の自伝的小説で、「北の海」という作品が [続きを読む]