住所
-
出身
-
ハンドル名
いちたすにはさん
ブログタイトル
米米米 こどもべやのうさぎ 米米米
ブログURL
https://blog.goo.ne.jp/usagiusagiusagiusagi/
ブログ紹介文
ストーカーに苦しみながらも明るく前向きな女の子のお話です。一緒に考え悩み笑っていただければ幸いです。
自由文
褒めると気を好くして図に乗るタイプなので お叱りのレスはご遠慮願います。 社交辞令・お世辞・甘言は大好物です。 甘やかして太らせてからお召し上がり下さい。
更新頻度(1年)

51回 / 3571日(平均0.1回/週)

ブログ村参加:2009/04/15

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いちたすにはさんのブログ記事

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  • ■鉄の匂い073■

    そして『僕』は、すぐ転校した。本当に、すぐ転校した。春に転校してきたばかりなのに、1年経たない12月だった。『僕』の転校は、終業式の日の最後に、先生の口からみんなに告げられた。通信簿を受け取った小学生は、他人の転校などにはもう興味がない。勿論引っ越しは例によって親の都合というか我儘なのだが、級友はみな、『僕』が敗走するのだと笑った。紛れ込んだ凶漢がクラスの和を乱そうと目論んだが、厭戦の徒に阻まれ撤退。性善に基づき育まれた秩序が悪意ある価値観を駆逐し、首謀者を排斥。教室には平和と静寂が戻った。『僕』が侵入する前よりも。敵に仕立て上げられた転校生は、お別れ会もなく連絡先の交換もなく冬休みに突入。当然だが同窓会にも呼ばれない。機械的に作成させた名簿でもし呼ばれたとしても、『僕』は勿論行かないし皆も当然来て欲しくないだ...■鉄の匂い073■

  • ■鉄の匂い072■

    隠しておきたい事実ほど千里を走り抜けるもの。『僕』が職員室に呼ばれたことは、始業式の翌々日にはクラスメイト全員が知る処となっていた。しかし興味はシャープペンシルの所持許可に先生が越権介入したことよりも、シャープペンシル所持派のボスがなんで『僕』なのか、に集中した。この時点でもう皆シャープペンシルに執着はなく、筆箱に入れている子すら既に稀だった。転校生が妙な価値観を吹き込んで、仲の良かったクラスを分断した。真(まこと)しやかに囁かれたその噂に、『僕』は一気に孤立した。とはいえ、もともとあった二大勢力が元の対立に戻り、もともと孤立していた『僕』も元の孤立に戻っただけでもあった。むしろ共通の敵を得たことで二大勢力は歩み寄った感すら感じられた。社交性があってコミュニケーション能力も高い人気者とその取り巻き。人気者グルー...■鉄の匂い072■

  • ■鉄の匂い071■

    体育館での全校生徒集会の後は、それぞれのクラスに戻り大掃除をして帰るのが常。それが異例の大学級会に取って代わった。議題は勿論、シャープペンシルの否か応。先生は困っていた。学校は特に禁止もしていなく、高学年は普通に筆箱に入れていたから。いつの間にかなんとなくで定まった自然発生なルールでしかなく、所持に許可は要らない文具。議論は白熱化した。学校は禁止してはいないが、生徒間の慣行だから所持は認めないとがなる反対派。慣行は移ろうもので、便利な物を使わせまいと踏ん張るのは逆行だと叫ぶ反対派。使っているのを見るのは不快だと反対派が言えば、賛成派は使うのを禁止されるのが不快だと言う。論争は単にお互い相手が気に入らないというだけの泥試合に。結局、シャープペンシルの所持使用は容認された。但し胸には差さないという条件付で。胸に尖っ...■鉄の匂い071■

  • ■鉄の匂い070■

    春に小学校生活二度目の転校をしてから半年が過ぎた頃。夏休み明けての始業式にそれは顕在した。夏休み前もそうだったが、夏休み中も、分布した2大勢力が顔を合わす機会はなかった。2つのチームが相容れることはなかったが、あからさまな敵対もせず、それなりに穏便に共存した。従来派はそれまで通り学校や自宅に近い便の良い空き地で遊び、新興派は衝突を避けて遠い公園を開拓した。同じ遊び場で遊ぶにしても、新興派は従来派が居ない時間帯を選んだ。コンビニもだからそれぞれに御用達があったし、図書館や文房具店ですら互いの贔屓店を利用することを避けた。しかし。小学生の夏休みには、どうしても同じ場所同じ時間に集わなければならない行事がある。朝のラジオ体操だ。新興派はだからわざわざ違う町まで遠出した。ご存じの通り、夏休み朝のラジオ体操に参加するとス...■鉄の匂い070■

  • ■鉄の匂い069■

    しかし愉しい学校生活は突然の終わりを告げられた。また転校が決まったのだ。1年の春に転入したばかりの『僕』は、翌年の春にもう転出となった。だが『僕』はまだ楽観していた。小学校一度目の転校が、結果大したことはなかったから。転出校はもう二度と会う機会がないから危惧不要だったし、転入校では幼稚園から上がって間もない同士なので大きな差異なく解けこめていたので。なんと言っても、在校生には初体験だが『僕』には二度目の経験だったし。経験値で勝る『僕』は、転出校にも転入校にも煩わしさしか感じなかった。不安や畏怖に煩わされることもなくのほほんと紛れ込けたと言うのが感想だ。だから今度の転校も辛いのは別れだけで、慣れるまでにそれほどの苦労は伴わないと高をくくっていた。だがこれが間違いだった。なんとかの法則ではないが、そうだと思い込んで...■鉄の匂い069■

  • ■鉄の匂い068■

    小学校一年生での最初の転校。転出した後の小学校では、同じ日に入学した仲間から『僕』が1人抜けただけ。学級日誌にも残らない些末な事件だった。転入した先の小学校でも、ちょっと遅れて入学した『僕』が1人加わってだけ。これも気にするのは『僕』だけの茶飯事だった。しかし。この体験が『僕』に齎した影響は驚くほどに大きかった。『僕』は、初めての転校では転校生としての洗礼を受けなかったのだ。転校生であることを意識しているのは『僕』だけで、他の生徒が特に気に留めることはなかったからだ。退校した学校の同級生からは1枚、絵ハガキが届いたが、これから毎月送りますねと書かれた翌月には途絶えてそれきりになった。もしこの転校先で6年生までを過ごせていたら。『僕』は違った道を歩んでいて、今ここに監禁されては居なかったかもしれない。既に動物虐待...■鉄の匂い068■

  • ■鉄の匂い067■

    放火事件から数日が経過。幼稚園ではお別れ会が開かれた。しかしその意味を体感しているのは『僕』1人であり、他の園児には単なるお遊戯会だった。お別れを理解してるのは自分だけ。寂しさを通り越してシラケてしまった。同じ干支の園児が子供に見えてしかたなかった。その温度差のあるお別れ会で、みんなに挨拶をするのはとても空しいことだった。じゃあねまた明日的なノリでの握手を交わす。帰りも同じ園バスで帰るのだから実感しろという方が無理な話か。これが小学一年生の転校となると、話はガラッと変わってくる。僅か2年の差なのにこうも反応が違うものかと驚かされもする。まず皆、『僕』が転校していくことを認知している。明日から『僕』がこの学校に通わなくなり会えなくなることを事解している。悲しいとか寂しいとかは別にして、物理的な距離が広がることを把...■鉄の匂い067■

  • ■鉄の匂い066■

    幼稚園の年少と、小学校中学校の一年生は楽しかった。逆にこのみっつからの転校はとても辛かった。一度目の幼稚園の転園は初めてだったので、まだ我慢ができた。人間として完成されていない葛餅みたいな餓鬼どもに転園生を認識する能力はなく、二日もすれば入園時から居た友達として紛れ込めたから。『僕』を侵入者として排除するることなく、有耶無耶のうちに仲間に入れてしまう甘いセキュリティの幼児たち。まさか二度目があるとは思っていなかったから、全力で対応したのも功を奏した。しかしこれが小学生になると景色も変わる。まず転校生は好奇の対象に晒される。子供はとても残酷で、他人と違うことをして目立ちたがる癖に、自分が違うことをして目立つ他人を嫌った。みんなが知っていることを知らない奴は異端者で、みんなが知らないことを知ってる奴はエイリアンだ。...■鉄の匂い066■

  • ■鉄の匂い065■

    燃えた家は一日で撤去され、その住人を見ることは二度となかった。住人は『僕』の容姿を警察に言わなかったのか。もともと不法占拠して建てられた小屋だから、放火の犯人捜しまではしないのか。いやいや放火ではなく倒壊による電気的事故だ。そもそも電気が盗電だから処理は単なる失火か。この話の情報はこれ以降ない。数日後には『僕』はもう転園してしまったし、その後その土手の向こうに行ったことは一度も無いので。今振り返ると、警察にとっては器物損壊事件ともいえる浮浪者宅襲撃の罪なんかどうでもよく、不法占拠者の人権を侵すことなく退去させることができた安堵に満足したのかも。その犯人も信じがたいことに園児だし、証言するのは盗電の犯罪者だし。とにかくこの話がこれ以上大きくなることはなかった。世間的にも『僕』の中でも。ただ。これが『僕』の世の理不...■鉄の匂い065■

  • ■鉄の匂い064■

    その晩、消防車のサイレンが夜遅くまで鳴り響いていた。燻った程度の小火ですぐ鎮火しただろうから、真夜中のサイレンは違う現場に駆け付ける消防車なのだろう。しかしすべてのサイレンはあの現場に向かっている様な妄想に囚われて、『僕』はなかなかに寝付くことができなかった。人が住んでいる家を燃やしてしまった。現住建造物等放火だ。譬え違法建築であっても、それが不法占拠であっても、捕まれば『僕』は、死刑又は無期懲役だ。いや。少年法では18歳未満の場合は死刑を科せないことが規定されているから、死刑はないか。でも。未成年でも死刑事犯を犯せば被疑者に死刑判決を言い渡すことは不可能ではない。未成年って、なんだろう。成年に達していない者ってことか。でも、満20歳に達していない者は全部ひっくるめて未成年ってアバウト過ぎないか。赤子も高校生も...■鉄の匂い064■

  • ■鉄の匂い063■

    ■積み上げられた金属屑の中から、錆びた鉄パイプを抜き出す。鉄パイプで草を薙ぎ払いながら家に突進してゆき、そのままの勢いで家に体当たり。お互いの柱が支え合ってやっとバランスを取っていた家はいとも簡単に傾いた。さっきまではノロノロとしか動けなった住人が、足の多い虫みたいに素早く這い出ていく。その住人を無視して、鉄パイプを当たるを幸いに振り回した。ほんの数秒の出来事だった。更地とまではいかないが、家はさっきまで人が生活していたとは思えない、なだらかな廃材の小山になった。そんなことをしても無駄なのに、子供に崩された巣を掘り返す蟻の様に、住人はヨロヨロと廃材を脇に避け始める。園児が簡単に倒した家を大人が必死になって起こそうと頑張る。シュールで滑稽で悲しい画だ。しかし住人の努力は実らず、廃材の中で散った火花が引火して、倒壊...■鉄の匂い063■

  • ■鉄の匂い062■

    耳元がざわつくので振り返ると、軒下に吊るされた魚か何かの肉に、蠅がわんわん集(たか)っていた。悍(おぞ)ましさに後退りすると何かを踏んだ。足元を見ると踏まれても鳴くことさえできないくらい弱った犬が転がっていた。人間の住む世界じゃない。人が生きる環境じゃない。こんな家の並びに橋元くんの家はあったのだ。あんなに優しい橋元くんのお母さんが、こんな家の並びに住んでいるなんて。あんなに優しい橋元くんのお母さんが、こんな家の並びにしか住めないなんて。仕事に追われ忙しい中、時間を割いて『僕』を持て成してくれたお母さんが。更にその気遣いを『僕』が負担に思わない様にと配慮してくれたお母さんが。胸の中で擦れあう真逆の考えが摩擦で悲鳴をあげた。雑草を掻き分け土手に戻る。振り返るともう家々は見えなかった。行く宛もなくなり帰るのも難(が...■鉄の匂い062■

  • ■鉄の匂い061■

    牧ちゃんとお姉ちゃんには会わないでその場を去った。会ったら、ふたりが穢れてしまうな気がしたので。その足で橋元くんの家に行った。橋元くん家は、内職の納品期日が迫っているらしく、お母さんとふたりで油塗れで鉄の部品を磨いていた。土手の上の『僕』を見つけた橋元くんは、忙しい手を止めて土手を駆け上がってきた。そのまま油塗れの手で『僕』の手を引き家に招いた。お母さんは仕事の道具を脇に寄せて『僕』の座る場所をつくってくれた。これからご飯にするから食べていきなさいと促され、小さなちゃぶ台を囲んだ。おかずは味の濃いバッタの佃煮と、これまた味の濃い野草のお浸しだった。満遍なく欠けていて揃っていないお茶碗。洗っては乾かして使いまわしている割り箸。それでも精いっぱいのお持て成しだった。食べ終わって、帰ろうとすると、橋元くんのお母さんが...■鉄の匂い061■

  • ■鉄の匂い060■

    牧ちゃんに会ったからと言ってどうなるものでもない。どうなるものではないのだが、会わなければどうにかなってしまいそうだったのだ。自分ではもう受け止めきれないこの運命を、一部でも良いから誰かに支えて欲しかった。信号を待つ間(ま)に焦(じ)れ、人ごみに気圧され苛立った。果たして行っていいものなのか。行って何をするつもりなのか。行くと却って失望が増すんじゃないか。足早になったり立ち止まったり、遠回りしたり抜け道に入ったり、なかなか牧ちゃんの家には辿り着けなかった。あの角を曲がれば牧ちゃん家という処まで来て、ようやく決心がつき、『僕』は全速で駆けだした。牧ちゃんに会いたい。牧ちゃんに会いたい。もう『僕』は呟いていた。角を曲がると牧ちゃん家の門扉が見え、牧ちゃんと牧ちゃんのお姉ちゃんがゴム跳びをして遊んでいた。ほっとした様...■鉄の匂い060■

  • ■鉄の匂い059■

    自分を俯瞰で見れたのには、もうひとつ理由があった。『僕』を置き去りにして勝手に自分らの感情を楽しむ園児にシラけたのとは別に、だ。この前日。つまり転園を父から告げられたその日。幼稚園から戻ると、いつもは居ない父が家に居た。『僕』は父が大嫌いだった。その日の気分で怒ったり褒めたりする父を嫌悪していた。だから家の玄関に入り、脱ぎっぱなしで片方が引っ繰り返った父の靴を見た時。『僕』の意識は背中から離れ高く空に昇り『僕』を見下ろした。すななち。今ここに居る自分はこれから父と対面して憂鬱な時を過ごさねばならないが、空に浮かぶ自分は対面する自分の背中を見ているだけで憂鬱な時を共有しない。そう思い込むことで父と対峙する憂鬱を昇華したのだ。この現実逃避という対処法が当時の『僕』を救ったのだが、同時に闇も色濃く澱ませてもしまった。...■鉄の匂い059■

  • ■鉄の匂い058■

    そのストレスからなのだろうか。『僕』は攻撃的で好戦的だった。万引きしたオバサンの買い物袋を、鷲掴みにして商品を潰してやった。横断歩道を塞いて駐車している車のボディに、硬貨で疵を付けてやった。ペットの糞を片付けずに公園から去る飼い主宅の玄関に、集めた糞を盛ってやった。お門違いの義憤を正体を明かさない匿名の攻撃で晴らす。認識の誤った鉄槌を天からの制裁と称して下す。偏見であり犯罪なのは解っているのに気付かぬ振りで自己弁護。最初は、目糞鼻糞だと自嘲しながらだった。正義を妄信して自分の悪事を正当化してるのは承知の上。法に触れない犯罪に泣き寝入りしている被害者の敵討ちをしてやってるのだ。しかしそれもすぐに慣れ、厭き、更なる刺激を求める様になった。規範を示さないのに偉そうな大人に対する不満。面と向かって諫める勇気のない自分へ...■鉄の匂い058■

  • ■鉄の匂い057■

    言葉には出来なかったが、発信はしたかった。表現は出来なかったが、記録は残したかった。このジレンマは解決できずにずっと『僕』の中で燻った。人は何故、人を抱きしめるのだろう。抱きしめるという行為にどういう効果を期待するのだろう。抱きしめる側と抱きしめられる側の双方に訊きたい。抱きしめる側が抱きしめられる側のことを想って抱きしめるのであれば、それは尊い利他的行為だ。でも現実にそんな美談などは有り得なくて、抱きしめる側は他人の福利を願う余裕を満喫して悦に入っているだけなのでは。高潔で慈悲深い自分を演出し満足してるだけ。それか、抱きしめることで得られる利益を期待しているかもしれない利己的なエゴ。だから『僕』は抱きしめられるのが好きではなかった。抱きしめられると還って不安になり焦燥に駆られむしろ苛立った。杜松くんのお母さん...■鉄の匂い057■

  • ■鉄の匂い056■

    幼稚園を転園してからは、牧ちゃんに会うことはなかった。牧ちゃんに会わないんだから当然お姉ちゃんにも会わなくなった。お姉ちゃんは、転居届で転送される限り便りをくれたが、それも度重なる引っ越しにより3年程で途絶えてしまった。しかしお姉ちゃんとは、16年後に偶然に出会うことになる。『僕』22歳、お姉ちゃん28歳の時に。もうお姉ちゃんなどとは気安く呼べない色香立つオンナになっての再会だった。それはまた別の機会に話すとして。杜松くんと橋元くんのお母さんと牧ちゃんのお姉ちゃん。この3人の共通点は、理由と目的はともかく『僕』を抱きしめた、ということだ。母親にさえ抱きしめられたことがない『僕』を、だ。三者は実に三様だった。でも3人とも、抱きしめることによる効果は知っていた。抱きしめるとは、ある程度の覚悟が必要な行動だ。身体の接...■鉄の匂い056■

  • ■鉄の匂い055■

    今だったら小6の女の子はロリータだが、小1の『僕』には倍も年上の甘美な女性だ。お姉ちゃんはカーディガン越しにも身体の起伏がはっきり判る程に強く『僕』を抱きしめた。その感触と、杜松くんの小母さんのトラウマと、橋元くんのお母さんの温もりのみっつが『僕』の頭の中で高速回転した。「お姉ちゃんには分かるよ。今の君の苦しみが。そして、君の苦しみを君に近しい人が誰も気づいてくれていないことも」お姉ちゃんは『僕』の背中をさすり、髪を撫で、頬をよせながら耳もとで囁いた。「お姉ちゃんはね。見ていたよ。君のことを、ね。君を見れば分かる。君が今までどういう待遇を受けてきたのかが。どんな辛い目に遭ってきたのかが」お姉ちゃんは囁きながら泣いていた。「君を救ってあげたい。でもお姉ちゃんにはまだその力は無いの。ごめんなさいね」お姉ちゃんが睨ん...■鉄の匂い055■

  • ■鉄の匂い054■

    子供は抱きしめないと悪い大人に育つのに、抱きしめた大人は影で子供の悪口を言っていた。明らかに違う人間を同じ母だと紹介する大人と、解っているのに受け入れて母と呼ぶ子供。このふたつが『僕』の幼少期の主な思い出だ。そういえば。幼稚園の友達のみっつの共通点と言いながら、杜松くんと橋元くんしか語っていなかった。もうひとりの忘れなかった友人。牧ちゃんについても少し話しておこう。牧ちゃんは誰とでも仲良くなれる子で、いつもにこにこ笑っていて、他人を否定したり悪く言ったりはしない子だった。『僕』はよく牧ちゃんの家に遊びに行った。牧ちゃんが誘ったことは一度もなかったけど、『僕』が行って嫌な顏をされたことも一度もなかった。だから牧ちゃんの家は杜松くんの家とは違ったメンバーでいつもいっぱいだった。牧ちゃんの家はクリスチャンだった。牧ち...■鉄の匂い054■

  • ■鉄の匂い053■

    『僕』は、みんなの目が橋元くんのお弁当に行っている隙に、水と油が染み出るドーナッツを殆ど噛まずに飲み下した。おかずを先に食べてしまってご飯だけ残った体を装う為に。気持ちの悪い食感のドーナッツを先に胃に収めて白いご飯だけを掻き込むと、のどの奥がしょっぱく焼けて辛かった。情けなくて、恥ずかしくて、悔しくて、どうしようもなかった。貧しくておかずが無いのはどうしようもない。無いモノは無いのだから我慢すればいいしするしかない。でも。あるのに入れて貰えないこの寂しさは一体どう紛らわせればいいのだろう。ウチは当時、貧乏ではなかった。『僕』の父は、腕の良い印刷職人で、手先が器用で工夫に長け、特殊な技を必要とする印刷を得意としていた。他所が尻込みする仕事でも結果を出せる父はだから皆に重宝がられた。他に熟せる職人が居ない事から、受...■鉄の匂い053■

  • ■鉄の匂い052■

    人は抱きしめられると悪い人には育たないらしい。『僕』は、母親に抱きしめられた経験がない。だからもう良い人間には育たないというのが結論だ。杜松くんの小母ちゃんはそう断言した。過去に遊びに来た継母の子供がなんか悪さをしたのだろうか。1人の子供のその一事を以て、『僕』の将来を断定したのだから酷い話だ。もし1人でなかったとしても、それはその子供らが悪いのであって『僕』に罪はない。世界じゅうの継母の子すべてが悪い子であったとしても、だ。勿論当たり前だが世界じゅうすべての継母の子が悪い子である筈はない。でもきっと世界じゅうの継母の子に関係なく、杜松くんの小母ちゃんは『僕』を見てそう思ったのだろう。実際、振り返ってみると小母ちゃんの言った通りで、『僕』は大人になるまでいろんな人に抱きしめられたがそれで修正は成らなかった。これ...■鉄の匂い052■

  • ■鉄の匂い051■

    まずは杜松くんだ。杜松くんの家はとても裕福で、出されるおやつには見たこともない外国語が書かれていた。どのお菓子もみな珍しく素晴らしく美味しかったので、よく皆で連れだって遊びにいった。『僕』もそのお茶菓子を目当てに、誰かに誘われては杜松くんの家に遊びにいっていた。杜松くんの家は付き合いが広いらしく、お中元やお歳暮、季節の挨拶に、賞味期限内には食べきれない程のお菓子が送られてくる家だった。だから玄関にはいつもデパートの包装紙に包まれた高そうな贈り物が積み上げられていた。テレビでコマーシャルしているおもちゃは大概持っていたし、気前よく貸してくれもした。その杜松くんの小母さんは、他に子供が居ない時に限って、『僕』だけを別室に呼び、『僕』を抱きしめた。耳元で「○○ちゃんは可哀そうね。こんな風に抱きしめられたことってないん...■鉄の匂い051■

  • ■鉄の匂い050■

    『僕』の行く先々で不審な事故や妙な事件が多発した。しかし転校生の消息に興味を示す者などはなく、今みたいに情報が拡散・集約しない時代の話なので、犯人を『僕』に結びつける者もまた居なかった。ツイッターやSNSなどのコミュニケーションツールにより情報を共有・蓄積・拡散できる現代ならば、当事者だけでなく広く部外者も犯人捜しに参戦するし、その時だけでなく後々まで残される記録を分析もできる。似た様な事故や同様の事件を類別大系する者も現れるだろう。複数個所での同時進行ではなく、秩序をもって順番に起きていることに気付くだろう。点は線で結ばれ、『僕』はもっと早い時期に逮捕されて、ここまで被害者も増えずに済んだだろう。間もなく殺されようという今でさえ、まだ『僕』はどこか自分の行為の残虐性に反省がなく、謝罪の気持ちにも実感がなかった...■鉄の匂い050■

  • ■鉄の匂い049■

    幼稚園で飼っていた金魚が全滅したことがあった。しかしその事件を知っているのは先生と『僕』だけだった。月曜の朝に水槽に浮いている金魚を発見した先生が、全部掬って園庭の隅に埋めてしまったからだ。園児が登園してきて水槽が空な理由を先生に尋ねたが、先生は動じることなく具合が悪いので病院に行っていると答えた。翌日火曜日には、死んだ金魚とよく似た金魚が水槽に入れられていた。おかしとおもちゃとお母さんにしか興味がない年頃の幼稚園児だ。その少しの違いに気付く者は少なく、気付いても治療を受けたから変わったのだという先生の嘘に簡単に騙された。では何故『僕』だけが園児の中で事実を知っているのか。それは『僕』が犯人だからだ。土曜日の帰りの時間の少し前に、水槽に食器用洗剤を垂らしたからだ。金魚はいつもと違う機敏な泳ぎに変わったがすぐには...■鉄の匂い049■

  • ■鉄の匂い048■

    殴られるというのは辛いことだ。自分が悪くないのに殴られるのは尚辛い。殴られると自分がとても惨めになる。殴られたくはないが、なにをしてもしなくても相手の気分で殴らるのだから仕方ない。考えることが無駄な生活は『僕』の思考能力をだんだんと鈍らせていった。抵抗しても迎合しても結果は一緒。父の意に沿わなければ怒鳴られ、従っても結果が思い通りでなければまた怒鳴られる。叱られていれば父は機嫌が良く、殴られていれば父は朗らかだった。小さい頃は、それでも親が子を憎いと思う筈がないと信じ、殴られるのは自分が悪い子だからだと内観した。むしろ父が望む良い子像を模索したりさえした。その結果、『僕』は他人に逆らえない人間になっていった。気分で変わる父の躾けに、判断の基軸がまだ曖昧だった子供の『僕』は、怒る人が正解という間違った答えを叩きこ...■鉄の匂い048■

  • ■鉄の匂い047■

    楠木くんは『僕』と『僕』以外の友達を分けて付き合っていたので、『僕』には楠木くんの死後に楠木くんのことを話す友達が居なかった。だから自宅に線香をあげに行ったこともないし、墓参りどころか霊園の場所すらも知らなかった。でも『僕』は悲しくなかった。楠木くんに会えないのは悲しいが、会えないのは皆同じだし、偲んで話す仲間が居ないのは『僕』だけが特別だからだから。骨や写真に手を合わせるよりも、深い処で繋がっているから。唐突だが楠木くんの話は、これで終わりだ。ここからは、何故『僕』が殺人を犯すまでの人になったのかを紐解こう。楠木くんの鎮魂にもなるこの日報のテーマだから。『僕』は幼稚園を2回、小学校を5回転校した。中学校も1回転校してるし高校は定時と通信も経験した。全日制高校中退後に編入された定時制には結局一度も通わず、通信制...■鉄の匂い047■

  • ■鉄の匂い046■

    -----悦楽の提供者がアレされてしまうのを見過ごすこの矛盾はぼくを異常に興奮させたよアレを見過ごすことで悦楽が失われることへの葛藤に苛まれてぼくは何度も射精したよきみがアレをしている光景を目に焼き付けることでぼくは永遠の悦楽を手に入れたんだもうお腹いっぱいだこれ以上の悦楽はないだろうだから今この到達した感覚を鋭利に感じながらぼくは死にたい最高の高低差に消耗していく理性に焼かれながらぼくは死にたいもうこれ以上の高みはなく後は下っていくだけだからぼくはぼくの最も大切なぼくの命をぼくが絶つという空前の不両立に満たされるんだ今からもうわくわくが止まらないよこのわくわくを得るチャンスをくれたのはきみだありがとう最後に最初に書いたきみへのプレゼントに関して再確認をしておこうアレはぼくがひとりでやったことにしろきみはどの現...■鉄の匂い046■

  • ■鉄の匂い045■

    楠木くんの手紙は続く。------びっくりしたろぼくもびっくりだよびっくりでがっかりだよアレに罪を重ねてしまったぼくにびっくりだしそれをきみに告白しなかったぼくにがっかりだよ罪を重ねる前にぼくはきみの迷惑を思うべきだった重ねてしまった後であってもきみの困窮を想像すべきだったでもぼくは重ねてしまったぼくはぼくを止められなかった自制心が無いと思うかもしれないしかしぼくはぼくに忠実であったとも言えるぼくは胸を張って言える一連の行動でぼくはぼくの本質を貫いたぼくの本質それは苛めが苦ではないという性癖ぼくは苛めに遭ってはいたが傍目ほど不幸ではなかったぼくは苛められると硬くなり硬くなったことを咎められると射精しただからぼくは苛められることが嫌いではなかった嫌うどころか好んでいたじゃあなぜぼくはアレをするきみを見過ごしたのか...■鉄の匂い045■

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    楠木くんは『僕』の中に居る。楠木くんは自殺してしまったけど『僕』の中では生きている。『僕』が生き続ける限り、だから楠木くんもまた永遠だ。------もう一度書く大事なことだからぼくはきみの犠牲になったのではないきみの所為で死んだのでもなければ君の為に死んだのでもないだから最後まで冷静に読んでくれたまえまもなくきみにはこれとは別にぼくからの遺書が届くそれは警察や教師に見せても大丈夫な文面にしてある遺書の文面を読む前のきみに伝えておきたい誰にも知られずきみにだけ伝えておきたいだからきみはこれを読んでいない振りをして遺書を読んで欲しい口裏を合わせておかないとぼくのプレゼントがきみに届かなくなってしまうからまずお詫びを言いたいきみはぼくにすべてを話してくれたのにぼくはきみに隠していることがある深呼吸をした方がいいかもな...■鉄の匂い044■