「全てを失った経験はあるかい?」 ジョンは大きく息を吐くと、かすかに笑みを浮かべながら、静かにそう呟いた。霞んだ夕暮れのライン川沿いは、仕事終わりにピクニックやスポーツを楽しむ人々が思い思いの時間を過ごしている。雨が降り出しそうな気配はあるが、まだ降り始めてはいない。「『全てを失った経験』かあ……。それってどんな経験?」「自分が思いを注いできたものが、自分の思った形にならなかったり、自分の信じてきたこと全てが否定されるような、胸が押しつぶされるような、じわじわと自分の身体がむしり取られていくような、そんな経験さ」ジョンは淡々とそう言った。「大げさだなあ、ちょっとしたことならあるけど……」「でも…