日高千湖 さん プロフィール

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日高千湖さん: 夢見月夜曲
ハンドル名日高千湖 さん
ブログタイトル夢見月夜曲
ブログURLhttp://yumemizukiyakyoku.blog.fc2.com/
サイト紹介文ようこそ日高千湖のオリジナルBL小説ブログです♪現在、『薄き袂に宿る月影』から作品を移転中です。
自由文旧ブログ『薄き袂に宿る月影』から引越して参りました!
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供301回 / 365日(平均5.8回/週) - 参加 2014/02/17 00:03

日高千湖 さんのブログ記事

  • T・109
  •  目の前の河野がいつもより若く感じられた。「若頭」という重責を一時下ろした彼の瞳は、柔らかで穏やかな色をしている。額に掛かった前髪が彼の雰囲気を変えていた。「あっちで飯坂に何を教わったんだよ」「色々」向かい合わせになった2人は、互いの頭を腕に抱くようにして身体を擦り寄せ合った。敬治は堪えきれずに自分の昂ぶりを、河野の足に擦り付ける。河野はそれに気付いて、クスッと笑った。そして少しだけ自分の腿を動か [続きを読む]
  • T・108
  •  敬治が「おやすみなさい」を言う前に襖は閉まってしまった。敬治の「おやすみなさい」は宙に浮かんで消えた。「後片付けは明日やるそうだから、敬治が手伝え」「はい。あの、槌屋補佐はお帰りになったんですか?」「槌屋は厨房の前で寝る」「ええっ!?」「気にするな。いつもの事だ。俺が他所に泊まるといつもこうなんだ。心配性だからな」「でも」「頑丈だから大丈夫だ」話しながら河野は敷布団を2枚取り出し畳の上に置いた。 [続きを読む]
  • T・107
  •  炬燵の真ん中では豆腐と鶏肉の鍋が美味そうな香りの湯気を立てている。鶏の出汁と選りすぐった野菜の旨味が豆腐の味を引き立てている鍋を、敬治は初めて口にした。《SWAN》では鍋を食べる習慣はなかったからだ。「テレビのコマーシャルでは家族で鍋を囲んでますよね。凄く美味しそうに観えていたんですけど、本当に美味しい」「そうか。そういえば、鍋の季節には日本にいなかったからな」「ええ」敬治にとって、鍋を囲むのは [続きを読む]
  • T・106
  •  「飯を食おう」と河野が言い出し、車は《伯楽》という店の裏口に停まった。到着する前に電話を入れておいたので、車が停車したタイミングを見計らって中から木戸が開く。路地には車や人が入れないように両端を護衛たちを乗せた車で塞ぎ、河野たちが店内に入るまでそこから動かない。槌屋が周囲を見回して河野と敬治を木戸から入れ、素早く木戸を閉めた。 河野は店の内部に詳しいようだ。敷かれている飛び石をトントンと調子良く [続きを読む]
  • T・105
  • 「敬治」「はい」緩やかなカーブを曲がり切ると、フロントガラスいっぱいにオレンジ色の光が差す。暗い色の雲を割って差し込む光は眩しくて、目を開けていられない。「墨を入れれば、もう戻れないぞ。わかっているのか?」「わかっています。唐門派にお願いしたいです」「唐門派」の名を聞き、河野は眉を寄せた。「・・・眩しいな」「そうですね」確かに敬治の方を向いていた河野だったが、いつの間にか視線は前を向いていた。 す [続きを読む]
  • T・104
  •  「今度はいつ会えるの?」と何度も尋ねる武村に、敬治は適当な返事をしたくはなかった。「いつ」と聞かれても敬治にはわからないし、決められない。河野組長から盃を受けて本物のヤクザになると決めた敬治には、今後の事をどう答えていいのか分からなかったのだ。河野と滝山信吾という人物は「親友」だという。だが河野は、滝山が経営する店に出入りする事はなく、こうして人目を避けてホテルの部屋で会う事が多いのだという。そ [続きを読む]
  • T・103
  • 「緊張してきた」敬治は河野、槌屋、大川と共にホテルの廊下を歩きながらネクタイの結び目に手をやった。首元が窮屈なわけではなかったが、スーツを着る機会は多くはない敬治は、ネクタイが緊張の根源のような気がしている。その様子に気付いた河野が振り返って聞いた。「武村に会うのに緊張するのか?」「2年ぶりですから」今朝から心躍っている敬治は、ここまで来ても全く落ち着きがない。一番前を歩いていた大川が部屋の番号を [続きを読む]
  • T・102
  •  深々と冷え込む夜。組事務所と本宅を繋ぐ渡り廊下に屋根はあるが、庭を見ながら移動出来るように壁はない。ハアッと息を吐けば白くなる程の気温に、河野は肩を竦めた。 久々の再会に話しが弾み、河野が腰を上げたのはすでに日付が変わっていた。河野の後ろから、敬治が付いてくる。小さな足音が河野の歩調に合わせようと小走りになっているのがわかり、河野は僅かに歩を緩めた。「若」「ああ、悪いな。早かったか」「いいえ」敬 [続きを読む]
  • T・101
  •  河野の姿を見つけた2人が、ゆっくりとこちらに向かって来る。ゲートから出て来た人々の流れに乗って河野の前に立った2人の表情は自信に満ちていた。颯爽と歩く2人と、それを待つ河野が放つギラリとした空気がその場の空気を張り詰めさせた。飯坂と敬治は、河野の前で止まると軽く頭を下げた。「ただいま戻りました、若」「ご苦労だったな、飯坂」河野はまず、遠い異国で未成熟な敬治を預かって育て、守る、という重要な任を担 [続きを読む]
  • T・100
  •  加々見唯治の丸まった背中が震えた。河野の怒りの籠もった低い声が腹に響く。「敏治の失敗で傾いた加々見家の経営をあんたが回復させるんだろう?あんたは自信満々だったじゃねえか?」「私は守りたいんだよ!家族を!会社を!社員たちを!」「知るかよ。エゴの塊だな、お前」「頼む!投資も兄が独断でやった事なんだ!私じゃないんだ!」「だから敬治が背負えと言うのか!?」唯治は床を叩きながら訴えた。「お願いします!敬治 [続きを読む]
  • T・99
  •  クリスマスが終わり慌しい年の瀬を迎えた。街はクリスマスツリーやサンタクロースで溢れていたが、一転して鏡餅や松竹梅といったおめでたい飾り物が街並みを彩っている。河野の事務所前にも門松が飾られ、新年を迎える準備が整った。 加々見智満子のスキャンダル記事は沈静化するかに思われたが、半月、1ヶ月と間を置いては、新たな記事が掲載されるようになった。まるで、世間に『忘れるな』とでも言うかのように。 別邸の前 [続きを読む]
  • T・98
  •  翌週発売予定の週刊誌のゲラ刷りを叩きながら、唯治は頭を抱えていた。先週号ではホストクラブで豪遊する智満子の写真が世間を賑わせたが、今週も「続報!」という賑々しい赤い文字が人々の目を奪うだろう事は間違いない。「これは何だ!」「先週の写真と同じ日に撮られたもののようです」先週号も智満子は同じ赤いドレスを着ていた。今週号も同じ赤いドレスだ。豪華なネックレスとイヤリング。指には大きなダイヤモンドとルビー [続きを読む]
  • T・97
  •  河野が乗った車が事務所の前に横付けされた。前後を走っていた護衛たちの車から2人ずつ降りてきて、河野の車を取り囲む。周辺は物々しい空気に包まれ、通行人は黒ずくめの軍団から出来るだけ距離をとって道の隅を歩いている。普段ならば、河野は素人に配慮してこのような厳重な警備態勢は取らせないが、丹田の襲撃事件以来、周囲の反対もあって大勢の護衛を引き連れて出歩いている。まずは槌屋が降り、周辺を見回した。更に出迎 [続きを読む]
  • T・96
  •  田山が寝ている医療用ベッドが、ズッと鈍い音を立てて動いた。その振動に、田山は河野の怒りの強さを感じて慌てる。「ま、待て」「俺が気が短いわけじゃねえんだぜ?あんたの動きが遅いんだよ」「わ、私はまだ入院しているんだぞ?売却の手続きにしろ、家族への説明にしろ」「電話一本じゃねえのか?」河野は言い訳に必死な田山にピシャリと言ってのけた。「・・・」「今まで、あんたは電話一本で何でもやってきたよな?違うか? [続きを読む]
  • T・95
  •  加々見唯治は机の上に広げた週刊誌を見て途方に暮れていた。週刊誌は飽きもせずに「加々見智満子」のスキャンダル記事を掲載し続けている。兄を経営陣から退け意気揚々と加々見家の長の座に納まった唯治だったが、智満子違法カジノ店に出入りしている写真がスクープされたその日から、彼は台風の中に放り出されたかのような日々を送っている。いや、彼だけではない。彼の家族も、「加々見」の名を名乗る一族の者たちも、だ。経営 [続きを読む]
  • T・94
  •  羽田発クアラルンプール行きの飛行機は深夜に飛び立つ。皆が食事をしている間に車に荷物を運び入れ、飯坂と敬治は政重に連れられて河野組を出た。 空港まで送ってくれた政重が、車から降りる事はなかった。警察の監視の目がある今は、飯坂と敬治は黒塗りのセダンが走り去るのをその場で見送る事も出来なかった。逃げるように日本を離れる事に一抹の寂しさを覚えたが、元々自分は孤独な『T』だったのだと思うと多少は気も楽にな [続きを読む]
  • T・93
  •  雑魚部屋の朝は早い。ピッとアラームが鳴った瞬間にスマホを握って音を消した敬治は、周囲の者が目を覚まさないようにそっと布団を出た。出発の日だった。 兄貴たちを起こさぬように、音を立てぬように布団を畳み敬治は部屋を出た。漸く、朝飯の準備は一人で出来るようになった。とは言え、前日から秋元に味噌汁の具を相談して出汁の取り方や具の切り方、下ごしらえを確認する。それでも、毎日少しずつ「出来る」が増えていく。 [続きを読む]
  • クリームシチューは幸せ色【後編】〜『T』番外編
  •  滝山の車が玄関前の車寄せに到着すると、すぐに玄関が開いた。カラカラと軽快な音を立てて飛び出てきた女性は、頭髪のかなりの部分が白くなっていたが品の良い整った顔立ちをしている。文樹は彼女が滝山の母親だろうかと想像しながら、キャリーバッグを抱えて車を降りた。「信吾坊っちゃん!お帰りなさいませ」「ただいま、洋子さん。それから、坊ちゃんは止めろ」「お荷物は?」「無視かよ、もう。彼の荷物は重いから俺が持つよ [続きを読む]
  • クリームシチューは幸せ色【中編】〜『T』番外編
  • 「滝山さん。若から話しは聞いておられましょうが、こちらが武村です。よろしくお願い致します」座っていた大川が立ち上がって文樹を紹介してくれる。文樹も立ち上がって、頭を下げた。「武村文樹です。よろしくお願いします」「滝山」と呼ばれた男性は、「こちらこそ」と言いながらポケットから名刺を取り出した。しなやかな指先と共に、白い名刺が文樹の前に差し出された。「滝山信吾です。よろしくお願いします」塚原に教わった [続きを読む]
  • クリームシチューは幸せ色【前編】〜『T』番外編
  •  目立たぬように河野組の裏口から出て行く事になった武村文樹は、河野親子に挨拶をした後、キャリーバッグを引き摺って勝手口から裏門に出た。そこには大川が車のエンジンを掛けて待っていた。最後にもう一度話しをしたいと思っていたが、何度確認しても敬治の姿は見えなかった。「武村!そろそろ行くぞ」「はい」大川はシュンとしょげた顔をした文樹からキャリーバッグを受け取ると、後部座席に積み込んだ。「お前は後ろに乗って [続きを読む]
  • T・92
  • ★このお話はフィクションです!! 雑魚部屋の住人たちは皆、それぞれの持ち場に散らばっていた。誰もいない雑魚部屋はガランとしている。部屋の壁に沿って個人が使っている棚があり、そこにそれぞれが服を畳んで入れているわけだが、武村の荷物があった場所だけがポッカリと空いている。それを見れば涙を堪えていた敬治の心も揺れる。最後まで見送れば、互いに手を取り合って大泣きしたに違いない。運転してくれる大川にも迷惑が [続きを読む]
  • T・91
  •  大川に連れられて来た敬治は、ジャージにTシャツ姿だ。掃除の途中だったのか、彼の手にはモップが握られていた。そのモップを壁に立て掛けると、敬治は泣いている武村に近付いてきた。少し大人びた表情で武村の前に座った敬治は、首に掛けていたタオルで武村の涙を拭った。「泣かないでよ、文ちゃん」「敬ちゃん、一人で、行っちゃう、の?ひっ、く・・・ひ、ひどいよ」「うん。ごめんね」敬治はニコッと笑った。武村には、その [続きを読む]
  • T・90
  • 「僕もマレーシアに行きたいです。頑張りますから、お願いします!」立ち上がった武村は固い決意を口にし、河野に向って深く頭を下げた。「敬治はお前に甘える。そしてお前は敬治を甘やかす」「甘やかしたりしません!」加々見家での「主従」の関係を解消し、敬治とは対等の立場であると武村は考えていた。だが敬治が、河野組での生活の多くの部分で武村の助けを必要としているのは事実だ。それは一般的には日常的な事ではあったが [続きを読む]
  • T・89
  •  助手席からグズグズと鼻を啜る音がする。加々見敏治の病室まで同行した槌屋はさすがに「煩い」とは言わないが、明らかに機嫌が悪い。「若が同乗しているのだから泣くな」と注意したい所だったが、あまりにも重い別れだったのが響き、敬治を注意するのは止めた。重苦しい空気が漂う中、車は走り続け、河野組本部に到着したのだった。 河野たちを出迎えた武村は、車から降りてきた敬治の泣き腫らした目を見て驚いた。河野たちが奥 [続きを読む]
  • T・88
  •  敬治は助手席からの景色が物珍しくて、ずっとキョロキョロしている。運転席にはいつものように大川が座りハンドルを握っているが、後部座席には槌屋と河野大成。護衛が乗った車も含めて3台が連ねて出て行くさまを、飯坂は笑みを湛えながら見送った。 敬治は武村も一緒に行くものと思い込んでいたが、それは秋元が「武村には仕事がある」と言って許さなかった。現在、敬治の仕事は掃除や炊事、洗濯が主だ。本来なら、一番下っ端 [続きを読む]