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2011/01/21

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第167回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第167回杠が男の後を追って行くと何もなかったように家に戻って行った。さて、どうする。このまま見張っているか男が寄った家のどれかを見張るか。逡巡は一瞬で終った。男が寄った家の様子は享沙と柳技に任せよう。十二軒もの家に寄っていたのだ、その内の一軒が増えたとて変わるものではないだろう。男はもう家を出ないだろう。だが来る者はあるかもしれない。キレイなお姉さんと別れてまたもや三人で歩きだした。「お姉さん、紫揺のことが気に入ったみたいだったね」「私もお姉さんのおムネ気に入った」「は?」二人が声...辰刻の雫~蒼い月~第167回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第166回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第166回マツリの部屋に紫揺を寝かせると己の部屋に戻り策を講じる。「あと四日・・・」紫揺が床下に潜り込んだ家の主を何らかの手で捕らえて吐かすより・・・泳がす方を取るか・・・。だが武官所に行った時、応援の武官たちが早朝六都を出ると言っていた。簡単に武官の手を借りることはまず出来ない。・・・六都だけでも何とかしたい。いつ馬鹿者どもからの夜襲があるか分からない。隣りの部屋で眠る紫揺が心配だが、さっと地図を書くと腰を上げた。享沙が朝起きると戸の隙間から文が入れられていたのに気付いた。開いてみ...辰刻の雫~蒼い月~第166回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第165回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第165回右の眉の上を人差し指で押さえていた紫揺。「あ・・・」尻もちをついた紫揺に屈んできた官吏。地下の者たちに囚われていた官吏たちの家族が戻ってきた時、尾能の母を心配してマツリの後を追った。尾能の母に傷は増えていなかった。安堵して・・・すぐに杠に会いたいと思った。一人で走り戻った時、あの時ぶつかった官吏に・・・文官に黒子があった。あの場所は初めて行った場所だった。あれはどこだったのだろうか。門を二つ潜った記憶しかない。「地下に囚われてた家族の人たちが戻ってきたでしょ?馬車で」「ああ...辰刻の雫~蒼い月~第165回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第164回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第164回男の家を教え、宿に戻って来てからも似面絵を描き続けたが、宿の紙だけでは十分ではなかった。紙がなくなった時点でコクリと舟をこぎ出した紫揺をマツリの部屋に寝かせると、杠の部屋でマツリと杠がゴロ寝をした。「べつに宜しいでしょうに。初心男みたいに・・・」紫揺と同じ部屋で寝ても。「・・・殴られない自信が無い」横に転がるマツリを眼球だけ動かしてチロリと見る。別にいいんじゃありませんか?と言いたいが相手は紫揺だ、他の女人のように簡単にはいかないだろう。それに紫揺を寝させてやりたい。これ以...辰刻の雫~蒼い月~第164回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第163回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第163回床下で聞いていた話を思い起こしながら話し始め、そして話し終えると丁度、膳が運ばれてきた。紫揺がもくもくと食べ始めた一方で、マツリと杠が眉を寄せている。「決起とはそういうことだったのか・・・それらしい動きを剛度の女房が見たということか」絨礼と芯直から聞いていた決起、それは六都内でのことだと思っていたが宮を襲うということだったのか。六日後には動く、ということはあと五日。今日はもう終わっている。「あ、それでね、最後に入ってきた、しばさきって人の声をどっかで聞いたことがあるなぁ、っ...辰刻の雫~蒼い月~第163回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第162回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第162回朱色の革鎧を着た武官が、手を震わせながらマツリの前に似面絵を差し出す。差し出された似面絵受け取りもう一度まじまじと見てから武官をジロリと睨め付け、ガマガエルの額を指さした。「これはなんだ」問われた武官が黄翼軍六都武官長をちらりと見ると頷いている。話しても良いということである。「はっ!護衛をしていた者が言うには、飾り石をお着けになっておられたそうです」話は本当らしい。だがどうしてガマガエルの額に額の煌輪を描かなくてはならないのか。「詳しい話を聞こう」詳しくと言われても長々と話...辰刻の雫~蒼い月~第162回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第161回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第161回今もまだ床下に潜ったままの紫揺。男たちの会話からもう一人来るかもしれないという男を待っている。柴咲という男を。男達は為すべき話は終わったというように、裏の木戸を開け放ち風を通している。二人が濡れ縁に座っているようで、むさ苦しい男の足が四本見える。(声の感じからすると四人はいたかな)くぐもっていたということもあって似た声音だと区別がつかなかったし、喋っていない者もいたかもしれない。簡単に断定はできない。(うー・・・そう言えばお腹空いたな。お昼ご飯食べてない)食べたのはもぎ取っ...辰刻の雫~蒼い月~第161回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第160回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第160回杠だって何もかもを一人では賄いきれないだろう。使い走りが居てもおかしくない。それに子供なら扱いやすいはず。この飴ちゃん上げるから、あの男の人のあとを追ってもらえるかなぁ~。誰かとお話ししているところを見たら教えてくれる?そしたら手のひらサイズのグルグル巻きの飴ちゃん進呈!・・・有り得る。いや、杠はそこまで軽くはないか。でもきっと似たような感じで。「この塀の向こうに行ったけど・・・君たちには追えないよ?」“追えない”と言われた。芯直が口を開こうとする前に絨礼が開いた。「なに言...辰刻の雫~蒼い月~第160回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第159回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第159回激しいほどの襲歩にはならなかったがかなりの速度で走り切った。あまりにも武官がトロく馬を走らせていた。紫揺からしてみればちんたら、ちんたら歩かせている程度でしかない。『あの?これで着くんですか?』『遅くはなりますが』『最初に言いました、武官さんの歩で進めてくださいと』『ですが・・・』『えっと、女人だと思って甘く見てません?』『は?』そうだった、女人でしたね。坊と見ていました。『これからどっちの方向ですか?』聞いてどうするのだろうかと、あちら方向ですとゆるゆると指で先を示す。『...辰刻の雫~蒼い月~第159回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第158回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第158回先程、景色の良い所を二人で見に行けば良いと言ったのに、紫揺はそれに是と言わなかった。ましてやそんな所があるのなら一人で見に行くと。紫揺の心が決まっているのかどうかは、まだ分からないのだから推しまくらなければ。(あら?それならどうしてマツリに逢いに来たのかしら?五色の力のことを訊きに来たのかしら?だから急いでいるのかしら?)そう思うとシキでもいいはずなのだが。それともシキから聞いた暮夜の話に繋がるのだろうか。「紫?とてもよく似合っているわね」額の煌輪のことだ。宮に入る前に外そ...辰刻の雫~蒼い月~第158回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第157回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第157回尾能の微笑みに、どういうことだ?と疑問を持ち紫揺が小首を傾げたが、続けられた尾能の言葉は紫揺の心を軽くするものだった。だがそれは一瞬だけのことだったが。「四方様には紫さまからお話がおありになりますとお伝えいたしました。思いのままをお話しされればよろしいかと」「はい」尾能は四方の側付き。その側付きがそういうのなら安心して言いたいことを言える。「マツリ様はマツリ様の想いのたけのみをお話しされております」“マツリの想いのたけのみ”?“マツリのだけ”?それはどういうことだ。何のこと...辰刻の雫~蒼い月~第157回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第156回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第156回岩山を降りてしまえば剛度が言っていたように前後左右を見張番で固める。前後はいつもと同じように百藻と瑞樹が固めている。そして左右には腕遊びで勝った二人。「ちょっと寄り過ぎだろう」寄りすぎどころか両横から紫揺に何か話しかけている。後方を固めている瑞樹が眉を寄せている。左右の見張番の言うことに紫揺が目を輝かせコクリと頷く。寄ってきていた左右の馬が離れると紫揺が少しだけ前を歩かせている百藻から横にずれた。「紫さ―――」瑞樹が紫揺を呼ぼうとした時、一斉に紫揺と左右を固めていた見張番二...辰刻の雫~蒼い月~第156回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第155回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第155回ガザンが紫揺を鼻先で押す。いつもの位置に座れということだろう。紫揺が立ち上がりいつもの位置に座るとすかさずガザンが紫揺の横に伏せをする。そのガザンの頭を紫揺が撫でる。「そのようなものは食しておりませんし飲んでもおりません」生真面目に答える此之葉を見て葉月が大きく息を吐いた。「此之葉ちゃん、そうじゃないでしょ?」「え?」「え?」此之葉と紫揺の声が重なる。此之葉は“どういうこと?何を言うの?”と言う目をして。一方紫揺は“此之葉はサプリ以外のなにか秘訣を持っているのか?”と言う目...辰刻の雫~蒼い月~第155回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第154回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第154回屋舎を出た杠。事が動いた以上は一日でも早く男達を動かしたい。マツリが京也に言いに行った翌日に京也が動かしてくれたのだから、それを無駄にするわけにはいかない。それに出来ればまだ武官たちが居る間に試運転を行ないたい。マツリの元に歩き出した杠に真後ろからドン!と何かがぶつかってきた。たたらを踏んだ、ように見せかける。足音が迫ってきていたのは分かっていた。毎度毎度、同じ手を使うのはどうだろうか。そう思いながら振り返ると芯直が居た。完全にすっ転んでいる。本気でぶつかって来たようだ。「...辰刻の雫~蒼い月~第154回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第153回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第153回杠が歩を出した。その杠の後ろから巴央がついてくる。屋舎に入ると十二人の男達に目を這わせ穏やかな声を舌に乗せる。「早朝より杉山からお疲れで御座いました。杉の木材の売れ行きも良く、皆さんの作られた物も手にとってはお買い上げいただいております。ああ、薪も。薪は見事に均等にされていると大変喜ばれております」薪などとどうでもいいこと。材木材料になりそうにないものを割っただけなのだから。だが・・・どうでもいいと思っていた薪を喜んでいると?均等にしているのが?「お持ち帰りになられる時に均...辰刻の雫~蒼い月~第153回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第152回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第152回翌日、杉山に、よく言えば無償労働、普通に言えば労役、見たままを言えば連行されていく者たちの横を歩きながら武官に話しかけた。話しかけたマツリも話しかけられた武官も互いの顔は見ていない。目は咎人を見ている。「少しは働けるようになったか」六都でろくでもない生活を送っていたのだ、最初は杉山に来ただけで力を使い果たし、斧さえふるうことが出来なかった。そしてすぐに戻る、そんな状態だったが少しは体力がついただろう。「はい、二辰刻(四時間)は働けております」「ふむ、己らの昼飯代くらいは稼げ...辰刻の雫~蒼い月~第152回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第151回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第150回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第151回「我と紫の子だ、女子(にょご)さえ生まれれば必ず次代紫が生まれるはず。次代紫が紫として自覚すれば本領に来てほしい」「え?だって、この間はそんなこと言ってなかった」「紫は民を守る紫として東の領土に居たいのだろう、その役は次代紫が引き継ぐ。言い換えればその邪魔をしてはならん」「邪魔なんてしない」「紫は・・・今代紫はあの事情の中、東の領土が待ちに待った紫。単になかなか生まれてこなかった紫ではない。民はずっとお前を慕うだろう、次代紫がいてそちらを見る者もいるだろうが一人でもお前を見...辰刻の雫~蒼い月~第151回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第150回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第150回紫揺の家まで行くとガザンが玄関の外で伏せをしていた。出入りする者たちから「どいて」と何度言われても知らん顔をしていたが、マツリの顔を見ると立ち上がり、開け放たれていた玄関の戸を潜った。隅に置いてある濡れた手拭いで足の裏をシャッシャと拭くと紫揺の部屋に向かって歩きだした。そのあとをマツリが歩いていく。「あ、ガザン、やっとどいてくれたの?」青菜が台所から出てくると、見たこともない男がガザンの後ろに立っているではないか。祭のときにマツリが来ていたと言っても、民がマツリの顔を見るこ...辰刻の雫~蒼い月~第150回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第149回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第149回黒山羊を出たマツリと杠。とにかくいったん落ち着いたと杠が大きく息を吐く。「今、十六人おりましたか」「ああ」享沙は『人数が集まってきたのであと少し人数を集めてからにするということです。今のところ十四人』と言っていた。ということは享沙が調べた時より少なくとも二人増えている。今日にも夜襲があるかもしれないし、まだこの先かもしれない。ましてやその時には更に人数が増えているかもしれない。「当分どこか他の宿にお泊りになって下さい」この進言が無駄だと知りつつも言う。「断る」やっぱり。「宿...辰刻の雫~蒼い月~第149回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第148回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第148回「秋我、音夜はどんな具合だ」前回東の領土に来る前に、初めてシキの子である甥に会いに行ったが泣かれてどうにもならなかったと話していたあとに、そんな風に訊かれた。「連れて来ても宜しいでしょうか?」「ああ、是非とも」茶を出し後ろに控えていた耶緒が頷くと家に戻り音夜を連れてきた。耶緒に抱かれてやって来た音夜は耶緒によく似ている。「これはまた玉のように輝いておるな」マツリが手を出すと天祐と違ってすぐにその手の中に入ってくる。「ははは、良い子だ。うん、柔らかいな」天祐の肉はもう少し硬か...辰刻の雫~蒼い月~第148回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第147回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第147回酒を一口入れると、どういう形で亡くなったかを話した。「紫は父御と母御を殺したのは己だと言って己は誰かと幸せになってはいけない、そう言っておった」マツリが杠の表情を確かめる。「心に刃を持っていたならそうかもしれん。だが紫はそうではない。だから殺してなどいない、我はそう言った」硬い表情をした杠が視線を下げる。「杠もそう思わんか?」静かな時が流れる。杠から返事が返って来ない。―――訊こう。「六都のことが終わったらと言っておったが・・・。杠も紫と同じように思っておるのか?」一旦口を...辰刻の雫~蒼い月~第147回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第146回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第146回閉められた襖を見ていた紫揺が睨みつけるようにマツリに視線を転じる。「なんなのよ」来てほしくなかったのに、どうして来たのか。挑戦的に紫揺が言う。その言葉を受けながら座卓を挟んで紫揺の前に座り、その上に四つの包みを置いた。「母上の従者、元姉上の従者、彩楓たち、姉上の従者。またみんな菓子だろう。夕餉前だ、明日にでも食べればよい。先刻の菓子の味はどうだったかと訊かれたが?」「う・・・うん、みんな美味しかった。そっか、お遣いに来たんだ」挑戦的な態度はどこへやら、いそいそと袋を開けだし...辰刻の雫~蒼い月~第146回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第145回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第145回「百足は後身した後はどうするのですか?」四方によると、百足は後身すると次代の育成に当たるというが、全員が全員ではないという。百足たちの暮らす集落でゆっくりとする者もいるという。「後身した者を・・・見た目も気も優しげな者を三人ほど借りられませんか?」四方が眉根を寄せる。どういうことだと言っているのだろう。当たり前だ、そんなことを唐突に言われて疑問に思わない者などいないだろう。「六都で童や童女に道義を教えて欲しいのです。六都から給金が出ます。集落でゆっくりしているだけでは金は入...辰刻の雫~蒼い月~第145回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第144回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第144回最初に比べ随分と馬に慣れた様子の世洲。心身ともに疲れたのか、馬の首にもたれかかっている。そう思えばいつの間に馬の首が上がってきていたのだろうか。「このまま家まで帰るよう」出来ることらこれからのことを考えて、官所の厩に戻してから家まで歩かせたいが、今日のところは疲れているだろう。「はい?」声がひっくり返った。馬の首から姿勢を立て直すと続ける。「家並みの中を歩かせるのですか?」練習した学び舎の周りには何もない。広い原っぱにぽつんと建っているのだから。「馬を動かすよう」言い終える...辰刻の雫~蒼い月~第144回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第143回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第143回「帳簿はあまり得意でない。簡潔に頼む」「承知いたしました」長卓に置いていかれた一冊を手に取ると、自分の置いた十三冊の中からも裏と表の帳簿を一冊ずつ手に取った。それぞれの頁を繰る。「ああ、ここが分かりやすいかと」そう言って二冊それぞれに、左右の人指し指を這わせる。「ここから・・・ここ。数字が違ってきていますでしょう?」そう言って次は“内訳”と書かれたところを指でなぞった。んん?マツリが先程までと違った意味で眉を寄せる。「この頁だけでおおよそ・・・金貨二十枚分はあるかと」マツリ...辰刻の雫~蒼い月~第143回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第142回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第142回「名は知らねーな。知ってるのは気前が良くてベッピンだってことくらいだ」「そうなんだ。じゃ、はい。ごちそうさま」絨礼が穴銀貨を一枚渡す。「おっ、穴銀貨できたか」芯直も絨礼のよこから穴銀貨を渡しながら言う。「釣り、間違えないでくれよ。オレらの小遣いになるんだから」「おお、景気がいいねぇー。ほらよ、釣りだ」ジャラジャラといわせて釣りの銅貨を渡す。「ね、朧、弦月にお土産買って帰ろうよ」「うん、上手い饅頭を買ってやろう。おじさん、ごっそさん!」店主に言うと二人で走って出て行った。「ま...辰刻の雫~蒼い月~第142回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第141回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第140回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第141回「有難うございました。あの、オレ帰ります」「まだ動かない方がいい」「そうですよ?私が代わりに家にお知らせに行きますから、ね?」「弟二人だけだから。こんな刻限に弟二人だけに出来ないから」身を起こすと上半身や額にあった手巾が落ちた。帆坂とその弟が目を合わせる。「兄さん、送って行ってやってくれる?」己の足では送り届けるに時がかかってしまう。帆坂が眉尻を下げる。弟が居ると言われれば仕方がないが、こんな体の状態で動かしてもいいものなのだろうか。帆坂の弟の助けで座ったままの柳技が衣に袖...辰刻の雫~蒼い月~第141回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第140回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第140回「あそこの壁にもたれかかっている者たちです」壁にもたれかかり腕を組んで学び舎を見ている男が四人。決起すると聞いたのは十七人、そして今目の前にいる四人の前に六人を教えられた。現段階で十人の顔を覚えた。杠が闇討ちをした五人は未だに動けないらしい。その五人はおいておこう。あとは二人。「動きはどうだ?」「頭になっている者を己がやりましたから今はまだ動きはありませんが、あの様な者たちはいつ火が点くかは分かりません」マツリが頷くとあとの二人の所へ行くのを促した。言ってみればこの時に武官...辰刻の雫~蒼い月~第140回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第139回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第139回お付きたちは夜な夜な部屋を出る塔弥を監視していた。塔弥と言うか、塔弥と葉月をである。あの時、マツリが来ていた時は・・・塔弥が葉月の涙を拭いた時はもう夜も遅かった。起きていられず野夜だけは寝ていたが、他の者たちはその様子を見ていた。そして戸をそっと閉めた。塔弥が葉月に・・・お付き曰くのクッサイ言葉を言ったあとに、お付きたちが塔弥を囲んで尋問まがいなことをしなかったのは己たちの矜持があったからである。一番年下の塔弥に先を越されたなどと認めたくもない。それなのに二度目は葉月の涙を...辰刻の雫~蒼い月~第139回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第138回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第138回「お帰りなさいませ」もうとっぷりと夜が更けているというのに、マツリの宿の部屋の前に杠が座していた。「こんな刻限になっているというのに」一度六都を出て戻って来てからは杠もマツリと同じ宿で隣の部屋に泊まっている。杠の出現に例の文官は諦めたようである。マツリと杠は同じように行動していたが、たまに杠がどこかに行くことがあった。そんな時には殆ど杠の戻ってくる方が遅かったのだが、稀にマツリの方が遅くなった時にはいつもこうして待っている。「夕餉は摂られましたか?」「ああ、宮で食べた」「で...辰刻の雫~蒼い月~第138回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第137回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第137回「紫がどんなに我を嫌っていようとも、想っておらなくともな」「だっ、だれも想ってないなんて言ってないっ」「では?想っているということか?」「そっ、そんなこと言ってないっ」「そうか、ではなんと、などとはもう訊かん。我は決めたのでな。紫に嫌われていようがどうであろうがな」「嫌いだなんて言ってない」マツリの様子が、話す声音(こわね)が違ってきた。「そうか。茶を一杯貰おう、それから本領に戻る。葉月、悪いが茶を淹れてくれるか。紫も喉が渇いたであろう」一瞬飛び上がりかけた二人。襖に耳をく...辰刻の雫~蒼い月~第137回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第136回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第136回風呂から上がって此之葉と話していた時だった。そろそろ布団を敷こうと此之葉が腰を上げた時、襖の向こうから声がかかった。「此之葉、いいか」と。声の主は阿秀であった。諦めきれず塔弥が空を見上げているとキョウゲンの影が月夜に映った。すぐに紫揺の家に走り、お付きたちのいる部屋で寛いでいた阿秀を呼んだ。阿秀には事前に、マツリが来たら此之葉をどこかに引き留めていてほしいということを塔弥は伝えていた。マツリの姿が目にとまらない所に。そして此之葉の代わりに葉月を紫揺の部屋の外に座らせておくか...辰刻の雫~蒼い月~第136回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第135回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第135回四方が口に入れたものを咀嚼する音が聞こえる。マツリの頭の中を一周し終えたであろう四方の声がやっと落ち着いて納まる場所を見つけた。「え“え”―――!!」すごいタイムラグである。顔をしかめた四方が、わざとらしく箸を持っていない方の手で耳を押さえる。給仕をしていた女官も驚いた顔をしている。こんなに間の抜けたマツリの大声を聞くことなど今までに無かったのだから。「そんなに驚くことはなかろう。ああそうだった、リツソだったか」「え?あ、いや、その。シ、シグロが?ハクロの仔を?」「他の狼で...辰刻の雫~蒼い月~第135回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第134回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第134回「いったい何を話してんだ?」塔弥と紫揺の馬が並んで歩く前に紫揺から言われていた。『塔弥さんと話があるから・・・ちょっと離れててもらえます?』と。「野夜、塔弥に関わるなよ」阿秀が冷たい視線を野夜に送る。「いや、阿秀。葉月が今度はどんな技をかけるか見られるチャンスかもしれませんよ?」「ホンット見事だったな」「あの時の野夜は笑えた」「うるさいわ!」「葉月は彼の地で、男相手にプロレスの技をかけて練習していたそうだからな。それも相手は漁師だ。野夜なんぞ簡単にやられる」そう、葉月が練習...辰刻の雫~蒼い月~第134回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第133回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第133回まずは三人の証人が問われた。何を耳にしたかと問われると、三人の証人が互いに目を合わせると意を決したように一人の男が口を開いた。「は、はい。官所で働いていた・・・その、死んだ三人から都司から金を貰ったと聞きました」「金など!誰にも金など渡しておらん!」都司が前に座る刑部官吏に叫ぶと次に視線を証人に向けて叫ぶ。「何を言うか!」都司の怒声に証人たちが肩をすぼめ目をつぶる。「己(おの」らが問われることではない。知っておることを話せ」四方が言うのを聞いて証人たちがそっと目を開けていく...辰刻の雫~蒼い月~第133回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第132回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第132回満月を迎え東の領土の祭が行われた。祭が行われる前にマツリが東の領土に入り、あちこちを飛び回ったようだ。お疲れさんはキョウゲンである。出された椅子に腰かけ祭の様子を見ているマツリ。耶緒がマツリに茶を出すと音夜が生まれた事への言祝ぎを言った。「有難うございます」「見ておらなくてもよいのか?」音夜はまだ外には出していないらしく、見ることは叶わなかった。「女が見てくれておりますので」そうか、と言うと、マツリが見てきた耶緒のいた辺境の話を聞かせた。「飛んでおっただけなのでな、父御や母...辰刻の雫~蒼い月~第132回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第131回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第130回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第131回「はぁ~」座卓に顎を乗せて何度目かの溜息を吐いた。「また溜息ですか。そんなに辺境に行く理由がなくなったのが寂しいんですか」殆ど呆れたように塔弥が言う。紫揺の紫としての力で木々と話が出来た。そのお蔭で辺境に行く必要が無くなったというわけである。ちなみに此之葉はここのところ自分の部屋に籠っていることが多い。今代“紫さまの書”に次々と書き足したいのだが、何をどう書いていいのかが分からなくなってきていた。此之葉には理解できない紫としての力のこともある上に、紫揺から歴代紫が行っていな...辰刻の雫~蒼い月~第131回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第130回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第130回「申し訳御座いません」マツリを前にして杠が手をついて頭を下げている。マツリの眉がピクリと動く。「なにも杠から謝られるようなことはないはずだが?あれか?あの女人は杠が点々と置いているという女人の一人か?」「はい」「・・・杠があれ程の女人を置いているとは思わなかったな」紫揺とは比べ物にならない程の超絶正反対だ。懐かしく言うところの杢木誠也のボン・キュ・ボン。あくまでもスレンダーな中に。そして色香漂う容貌。「己のことをよく分かってくれております」「出過ぎず、訊かずか」「はい」「で...辰刻の雫~蒼い月~第130回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第129回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第129回巴央がピシリと戸を閉めて後姿を見せている杠に声をかけた。巴央であるところの金河が杠である俤の居場所に姿を見せたのである。「何か分かりましたか?」振り返ることもなく訊く。その姿を見ずとも巴央と分かっている。秀亜群の片隅の空き家に杠は居を置いていた。「郡司は解毒の薬草を持って出たようだ」「解毒・・・」視線を下に向ける。「ああ、やっぱり俤の言う通りかもしれん」“お前”ではない“俤”と巴央が呼んでいる。「・・・そうでは無く、単に下三十都で解毒の薬草を欲しがったのかもしれません」己の...辰刻の雫~蒼い月~第129回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第128回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第128回走って走って山をかけ登る。此之葉に負けない程に肩で息をしていながらも駆け上る。「だ、れ?」ようやっと着いた。導かれるままに。それを信じたままに。上がった息を整えようとした時、映像が視えた。進化した彰祥草の香りを嗅ぐ香山猫の姿。香山猫が鼻を歪めた。物足りないと。(・・・進化した彰祥草では香りが足りない?)それはあの辺境に居た香山猫ではない。進化した彰祥草につられてやって来たのは他の香山猫というのがどうしてか何気に分かる。目の前から鼻を歪めた香山猫が、進化した彰祥草が、歪んでぼ...辰刻の雫~蒼い月~第128回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第127回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第127回「人足は集まりそうか」せっせと“人足募集”の紙を貼っていた文官が朝陽を眩しそうに振り返る。「興味を示して見ているようではありますが、実際どうでしょうか」六都の者は働くことを好まない。そこを見越してほんの少しだが、相場より高い賃金を出すと書いている。いや、描いている。字の読めないものが多いのだから、文字より描いているほうが分かりやすいであろうということである。「明日には宮都から工部が資材を持って来るが・・・。ふむ、人足が無いようなら武官を出すしかないか」六都所有の土地に学び舎...辰刻の雫~蒼い月~第127回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第126回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第126回「昼餉の前に帰ろうと思います」「え?もう少しゆっくり出来ないの?」「カジャに教えてもらったこともありますし、何かあった後では遅いので」東の領土の災いの話をされては引き留めることは出来ない。「残念だわ」早々にカジャに会わせるのではなかったと、今更後悔しても遅い。「シユラ、カエル?」「うん。帰るまで肩に居てね」カルネラを肩に乗せて澪引の部屋に向かっていた。シキと澪引が妊婦の運動という名の散歩を終え、シキが休憩をとってから、紫揺と二人で澪引の部屋を訪ねに来ていた。回廊には従者がず...辰刻の雫~蒼い月~第126回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第125回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第125回『カジャ、紫という者が来る。訊きたいことがあるそうなのだが』『お話は聞いておりました。わたしから話すことは御座いませんので』ですよねー、とは四方は言わなかったが、心の中ではそう言っていたであろう。『脅して帰らせても宜しいでしょうか?』わざわざ脅す必要はないだろうとは思うが、カジャはそういう性格だ、分かっている。『・・・好きにしてくれ』『初めまして、紫です』カジャが身体を大きくしているのにもかかわらず、紫揺がカジャの前にペタンと座り込んだ。紫揺にしてみればガザンもそうだが、ハ...辰刻の雫~蒼い月~第125回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第124回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第124回紫揺の顔を見て思い出したのだろうと思い、シキが続ける。「同じ感覚を持っているのね。ぶつかるところもあるでしょうけど、それ以上に分かり合えるんじゃないかしら?」え?マツリと同じ感覚を?暫く紫揺はマツリのことを考えるだろう。紫揺の顔を見ていた澪引がシキに目を移した。「マツリがね、四方様に紫を奥に迎えたいと言ったの」「え?」「四方様は本気にしていらっしゃらないというか・・・反対のご様子だったわ」「まぁ、父上ったら・・・」せっかくマツリが言ったというのに。「そしてね、どうしてだかは...辰刻の雫~蒼い月~第124回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第123回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第123回「四方様が来て下さらなければ、紫が言ったようにわたくしも止まったままだったかもしれないわ」茶器に手を伸ばし喉を潤す。話しているからと、気づかわなくていいわ。いくらでもお食べなさいな、と言って続ける。言われなくともバンバン食べていたが「はい」と返事をしておくし、これで遠慮なく食べられる。バンバン食べていても一応遠慮はしていたのだから。「妬心を持っていただけるほどに愛されている。兄は四方様に妬心など感じていなかったわ。いつも見守ってくれていただけ。それに不服があったのではないで...辰刻の雫~蒼い月~第123回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第122回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第122回湯浴みと夕餉を終わらせ、前回寝泊まりした部屋に通された。湯浴みも夕餉も“最高か”と“庭の世話か”がピッタリと付いていた。四人とも秋我とよく気が合ったようで、夕餉の時には話は弾んでいたが、どうして東の領土での紫揺の失態話をエサに話が盛り上がるのかと、何度突っ込みを入れた事か。歩いている時に器用に足を滑らせたとか、水桶を向う脛で蹴ってしまって悶絶していたとか、とくにお付きからの又聞きなのだろうが、お転婆での襲歩の話しではキャーキャーと手を叩いて喜んでいた。寝台に上がりやっと一人...辰刻の雫~蒼い月~第122回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第121回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第120回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第121回二日後、六都で全ての者を捕らえ、証拠も挙がったという知らせを持って、一足早く黄色の皮の胴当てを身にまとった一人の武官が戻ってきた。顔を腫らせ、多分、鼻の骨を折って。治療を必要とするだろうこの武官をわざわざマツリが走らせたのだが、少々裏目に出たようだった。黄翼軍(おうよくぐん)武官長が目の前にいる部下に驚きの視線を送った。この男は我が黄翼軍でも賊を片手一本で撒き散らせることが出来るほどの剛腕の持ち主であり、その体躯は必要以上過ぎるくらいに立派なものである。恰幅の良い身体になり...辰刻の雫~蒼い月~第121回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第120回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第120回「マツリ様に御座います」遅い夕餉のあと四方の部屋を訪ねた。従者はもう引いていて、尾能だけが残り回廊に座していた。尾能は四方が床に入るまで引くことは無い。「入れ」尾能が襖を開く。部屋に入ると澪引もいた。「難しいお話しかしら?」椅子に座していた澪引が立ち上がろうとしかけたのを四方が止める。「退屈であろうが外さんでよい」歴代の本領領主の奥は僅かな例外を除き、殆どが宮都若しくは他の都の出身である。故に本領領主というもの、またその奥というものの立ち位置を分かっている。だが澪引は辺境で...辰刻の雫~蒼い月~第120回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第119回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第119回青菜、声がよくひっくり返る三十五歳。あの時は自分の名を覚えてもらうために何を言うにも『青菜』と、自分の名をくっ付けてきていた。青菜のその努力が報われ、たしかに紫揺は青菜の名を覚えたのだったが、彰祥草のことはすっかり忘れていた。あの時青菜は“彰祥草”と言っていたではないか。『彰祥草と言いまして、この季節の祝いの膳に添えるもので御座います。香りは良いですが食べるものではありませんので。青菜がお教えいたしました』と。「そう言えば、青菜さんから聞いていました。でもどういうことです?...辰刻の雫~蒼い月~第119回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第118回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第118回夜の静寂(しじま)を四人の男が歩きながら話している。「ああ、いまだに独り身で仕事が出来て物腰が柔らかい奴、としか入ってこない。どうして急に大店をやめたのか不思議だったが、ちょっとしてから都司になったと聞いて納得したってことだ」「六都だけは豪族が都司になるわけじゃありませんからね」「たしか・・・、学があればと聞きましたが?」「ええ、その昔、六都の民に豪族が嫌気をさして宮都に言ってきたそうです。宮都もしぶしぶ承諾したようですね、読み書きが出来れば良いとするかと。難しいことは文官...辰刻の雫~蒼い月~第118回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第117回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第117回「らっしゃい!」店の椅子は少ししか空いていない状態だ。客入りがいい店のようである。「あれ?餓鬼んちょが来たな」「兄ちゃんがここで待ってろって」「じゃ、そっちの端に使ってない椅子があるからそこに座っときな」『弦月を待っている振りをして黒山羊に居るように。官所の者が四人そこに行く。話をよく聞いておくよう』それが享沙からの指示だった。隅に行き椅子に腰を下ろすと辺りを見回す。「らっしゃい!」声に導かれるように入って来た者を見ると女一人だった。「あのお姉さんじゃないね」「うん、官吏に...辰刻の雫~蒼い月~第117回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第116回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第116回「今日、芥(あくた)を漁っていてちょっと気になる物を見つけました」雑用係に徹している享沙が懐から紙片を取り出すと、小さな光石でそれを照らす。紙片には『明後日、黒山羊』と書かれていた。「他に二枚、同じことが書かれていました」「誰の芥入れに?」誰から出たゴミか分かるように、ごみ箱を置いたのは杠である。それまでは部屋の隅に大きなごみ箱があっただけである。よって、誰もが机の端にゴミを溜め、まとめて大きなごみ箱に捨てていた。『芥入れの始末くらい私がしますので、どうぞお気になさらずお使...辰刻の雫~蒼い月~第116回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第115回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第115回「さっき、私の外見のことを言ったよね、ズタボロに」外見のことに対して女としての怒りはあるが、致し方ないと鏡に映る姿に頷けなくはないが、問いたださせてもらおう。「あ?」ずたぼろ?意味は分からないが、何を言いたいかの話の流れは分かる。「ああ、言った」何をアッサリと認めてくれるのか。二の句が継げないでいると、マツリに取られてしまった。「それにさっきは、穏やかに話せた」「だからなに?いっつもマツリが怒ってばっかりいるだけじゃない」「まあ、そうか。杠にも声を荒立てず話せと言われた」「...辰刻の雫~蒼い月~第115回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第114回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第114回先ぶれに走るため、塔弥がすっとその場から居なくなる。紫揺の家に入ろうとすると、相変わらずガザンがそこに伏せている。「ガザン、マツリ様が来られる。そこをどいてくれ」言うが、全く以って無視を決め込まれた。耳さえ動かさない。なんだよ、と言いながらガザンの尻尾を踏まないように家の中に入った。待ち構えていたお付きたちが戸から手を伸ばそうとしかけた時、そうそう引っかかるものかと塔弥が口を開いた。「マツリ様が来られる。邪魔をするな」戸からチラリと見えていた手がそっと引かれ、ゆっくりと戸が...辰刻の雫~蒼い月~第114回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第113回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第113回夕刻を過ぎた頃からガザンが紫揺の家の前でお座りをしている。尻尾を踏んでしまわないかと、出入りする者たちは注意を払わなければいけない状態である。やっと辺境から紫揺が戻ってきたのだから、出入りする人間の数は多い。女たちが腕を振るって料理を作っているのだから。辺境では民の家に泊まらせてもらっている。辺境の民ももてなしてはいるだろうが、あくまでも辺境。海近くに行けば魚や貝ばかり、山に入れば肉があるときもあるだろうが、木の実や山菜が主になってくる。食材が片寄っているのは明らかである。...辰刻の雫~蒼い月~第113回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第112回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第112回あの時、すれ違う者達には何とか見られず誤魔化して過ごせたが、とは言っても奇異な目では見られていた。いつも上げている前髪を左の頬にかかるように垂らしていたのだから。それでもすれ違う程度の相手である。立ち止まって話し込む相手ではない。話し込む相手、四方と澪引などは見てはいけないものを見てしまったように、見ていないという風を装って目も合わせてこなかった。リツソにおいては口を開きかけた時点で拳骨を落としておいた。「そのように。して、これから忙しくなりますが、まだすぐというわけでは御...辰刻の雫~蒼い月~第112回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第111回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第110回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第111回「なんだか・・・辛気臭いなぁ。若いもんが頭で考えてんじゃないよ」胡坐をかき後頭部を掻きながら巴央が言う。「若いも何もまだ餓鬼だ。怖けりゃ迷うだろうよ」こちらも胡坐をかき、手を後ろについてふんぞり返っている京也である。「怖くなんかない!」「へぇー、意気がいいじゃないか。若いもん・・・餓鬼はそれくらいでないと辛気臭くてたまらん」「ああ、それにこの三人、なんだ?その身体。オレが鍛えてやろうか?」自慢の腕を見せる。見せられなくてもずっと見えていたが、敢えて力を入れられると、その隆起...辰刻の雫~蒼い月~第111回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第110回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第110回「杠兄様とマツリ様は違うんですか?」「え?マツリ?」「だって私が本領で知っているのは、紫さまからお聞きする杠兄様とマツリ様だけですから」今は喜作の名を伏せよう、道を外れてもらっては困る。「そっか。うーん・・・。全然違う」「どこがですか?」「杠は・・・いっつも笑ってくれてる。手を差し伸べてくれる。私の思うようにって言ってくれる。・・・大きく包んでくれる」「紫さまの何もかもを許されるってことですか?」お付きたちからは嘆かわしい話を聞いている。それを杠は許しているのだろうか、それ...辰刻の雫~蒼い月~第110回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第109回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第109回「ふーん・・・」いつの間にか葉月が紫揺の後ろに来ていた。振り返ると昨日書いていた紙を葉月がながめている。いつも昼餉の後に来るから、あとで破棄すればいいと思っていたのに、しっかりと見られてしまっている。「わっ!わゎゎ」〇薬膳じゃなかった〇米が潰れると言った食べ物を粗末にしてないいいことだ〇キョウゲンを大事に思ってる〇キョウゲンってけっこう良いフクロウ最初と印象が違ってきた〇力の事を教えてくれた〇本を読ませてくれたチョイスして持ってきてくれた〇支えてくれた〇見守ってくれた〇一人...辰刻の雫~蒼い月~第109回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第108回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第108回領主との話を終えた阿秀がお付きの部屋に戻ってきた。「何をしている」戸を開けた阿秀の第一声。野夜の4の字固めに塔弥が悶絶している。「ちょっと吐かそうかと」「言っただろう、塔弥をからかう事は以後するんじゃないと」都会の恐ろしさというお題目で、野夜が塔弥をからかった。その時にしっかりと阿秀が野夜に言った。忘れてはいないだろう。「からかってるんじゃないですよ」軽くかけただけだ。野夜が足を解くと、その横で塔弥がビービー言いながら足をさすっている。「ではプロレスを知らない塔弥相手にプロ...辰刻の雫~蒼い月~第108回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第107回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第107回あの夜、塔弥が言った。明日から葉月を毎日、紫揺の元に行かせると。その時には此之葉には座を外して欲しいと。『どういうことだ』阿秀が厳しく言った。『阿秀、俺が間違っているかもしれません。でも・・・俺にかけてはもらえませんか?』『その訳は』疑問符など付けない。あくまでも厳しい。紫揺に付くのは此之葉なのだから。『・・・今は言えません』此之葉には悪いが、塔弥が誰よりも紫揺のことを理解していることは分かっている。だがそれでおさめてしまっては、此之葉の居る意味がなくなってしまう。阿秀と塔...辰刻の雫~蒼い月~第107回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第106回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第106回「塔弥、紫さまに言い切ったんだってね」「ああ」次にマツリが来るまでお転婆を禁止とした。どうしてマツリが関係あるのかと言われたが、身体のことがある、と言って言い切った。特に病んでいる気配はないが、あのままでは憑かれたように石を探すだろう。月明かりの元、厩の横の木箱の上に塔弥と葉月が並んで座っている。もう寝ているはずの長い春の象徴である“春告げ声”の鳥の声が短く聞こえた。「いいの?」「・・・」「塔弥?」「分からない。五色様のお力など、俺に分かるわけがない」でも・・・何か必要であ...辰刻の雫~蒼い月~第106回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第105回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第105回マツリの肩に止まるキョウゲンを見た。「キョウゲン」キョウゲンが百八十度首を回す。「ごめんね。今日これで二回目なんだ。それも明るい内に飛んでもらって」キョウゲンがマツリの肩の上で、のそのそと方向を変える。「なんということは御座いません。お気になさらず」「それに長距離飛んでくれたんだよね。二往復も」フクロウが長距離を飛ぶに向いていないことは知っている。サギであるロセイの方が長距離に向いているのは明らかだ。「ありがとう。キョウゲンが石を遠ざけてくれたり、取ってきてくれたから石と話...辰刻の雫~蒼い月~第105回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第104回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第104回杠の部屋は知っている。紫揺が先を歩き、その後を“最高か”と“庭の世話か”が葬送の列のように歩いて杠の部屋を訪ねた。「そうか、もう戻るのか」「うん。長く居すぎた。東が心配。って言うか、心配されてると思うから」「我が妹は皆に心配をかけるからな」「そんなことないし」夕餉のあと毎日杠と話している中で、杠が公にマツリ付になったと聞いていた。だが今は四方の仕事の手伝いをしているとも。「お仕事、無理しないでね」「それは是非とも四方様に言ってもらいたい」笑いながら杠が言う。「杠・・・」紫揺...辰刻の雫~蒼い月~第104回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第103回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第103回澪引の部屋での話は長かった。リツソの部屋に足を運ぶとリツソが猛勉強していると師から聞かされた。最後に澪引からは四方への挨拶はいいと言われた。澪引が止めたということにすると。その時を惜しんで書を読めばいいと言われた。有難い申し出だった。四方は苦手・・・と言うか、未だに領主への怒りがおさまっていない。杠と一緒に四方と話したことで数本の棘は抜かれてはいたが。そして翌日から毎日客間に菓子が届けられた。夜な夜な菓子をつまみながら光石に照らされる書を読んだ。「朱禅殿、ここに居られました...辰刻の雫~蒼い月~第103回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第102回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第102回マツリは四人のその働きに気づいている。思い通りにとはいかなかったが、リツソに知られなかったからこそ邪魔が入らず、紫揺をなんとか石に向き合わせることが出来た。そう、もう紫揺は石と向き合った。初代紫からの声を聞いたのだ。もう邪魔者のリツソが居ても何の支障もない。だが・・・どうしてもすぐに諾とは言えない。(・・・狭量な)天井を仰ぎ見ると目を瞑った。五つほど数えて目を開けると顔を戻す。「先に姉上にご挨拶に行くよう」「それくらい分かってる」「世和歌、丹和歌、リツソの房に行ってリツソが...辰刻の雫~蒼い月~第102回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第101回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第100回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第101回「まだお目覚めになられそうにない?」「ええ」「お茶をお飲みになられたのかしら」襖に耳を寄せていた世和歌が丹和歌に答える。「でも、それにしても・・・」今日も紫揺が起きるまで起こさないようにとマツリに言われていたが、昨日に引き続き昼時を十分に過ぎている。そこに“最高か”が戻ってきた。「どうでした?」「ええ、まだご存じないご様子だったわ。今も師から逃げられていただけだったわ」「シキ様がご協力して下さっているのが大きいのかしら」「そうね。でなければ紫さまの匂いがするとか何とか仰られ...辰刻の雫~蒼い月~第101回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第100回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第100回紫水晶の力を身体の芯で感じる。この虚脱感はその力についていけていないのだろう。紫水晶の力を感じるということは、やはりマツリの言うようにこの石は自分の為にあった石なのだろう。認めるしかない。―――民に厄災など及ぼしたくない。もし自分が嘆き悲しんだら、怒ったら、怖がったら、妬んだら、この紫水晶の力があれば山の一つも崩すかもしれない。「いま紫の身体は力が入らんだけか」「・・・うん。多分」「石に何かを感じるか」「漠然とだけ・・・すごい力。その力に、押されて・・・かな。力が入らない、感...辰刻の雫~蒼い月~第100回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第99回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第99回「まず何よりも腹の底から怒るな、怖れるな、悲しむな、妬むな。そして己の力で出来ぬことを思うな、願うな。紫水晶を上手く扱えない内はそれをしかと心しておくよう」シキとの歓談が終わると・・・いや、終わらされた。マツリが戻ってきたのだ。『姉上、申し訳御座いませんが』マツリがそう言うとシキが後ろ髪を引かれるようにマツリの部屋から出て行った。シキにしてはあっさりと引いていった。事前にマツリが何かを言っていたのかもしれない。そしてマツリが紫揺の前に座って話し出したのがコレだ。紫揺の祖母である...辰刻の雫~蒼い月~第99回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第98回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第98回シキ様は?澪引様は?と訊いたのだから、今の自分が何をしなければならないか分かったはずなのに、どうして、何故、などともがいてしまう。涙が止まらない。ポトポトポトと衣を濡らしていく。「拭け」僅かに顔を上げると手巾が差し出されている。マツリの手の上に乗った手巾。紫揺が百八十度向きを変える。ゴシゴシゴシと手の甲や腕で涙を拭くが、どちらも涙を吸い取ってはくれない。涙が顔じゅうに広がるだけ。女人が手で涙を拭くなどと・・・。だがリツソのように鼻を垂らして泣き喚かないだけマシか、と思いながらマ...辰刻の雫~蒼い月~第98回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第97回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第97回「あの紫水晶は初代紫の息吹が宿っておる。よって並みの紫水晶とは違う。あの石には初代紫がその力を吹き込んでおる」それはいつ現れるかは分からない後の紫の為に。今の紫揺の為に。だがいくら初代紫といえど、紫揺に与えられた境遇など知る由もなかった。東の領土で生まれ東の領土で育ち、五色の力を自然と身に付けているはずだった。ただ、その五色が、紫と名付けられた後の紫が己ほどの強力な力を持った者ならば、苦しむところがあるはず。力はあればあるほど良いということではない。「あの石は紫の力に影響を及ぼ...辰刻の雫~蒼い月~第97回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第96回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第96回光石に照らされた闇の中、羽音が聞こえた。襖が自動ドアのように開くと、キョウゲンが部屋に入ってきた。すかさず回廊に座っていた丹和歌と世和歌が襖を閉める。紫揺の状態から、そしてマツリの状態から、彩楓と紅香二人では乗り切れないと思った。それに二人で紫揺を見ているのは抜けがけをしているようで、後ろ髪を引かれる思いだったからである。呼ばれた丹和歌と世和歌も、これからが勝負、これを逃しては!と言わんばかりの笑みを携えてマツリの部屋に来てくれた。もちろん、彩楓と紅香、丹和歌と世和歌の上司には...辰刻の雫~蒼い月~第96回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第95回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第95回「阿秀、御者台でマツリ様からお聞きしたことを話します」そして阿秀から領主に話す。いつものパターンだ。「いや、いい。又聞きより塔弥から領主や他の者に話す方がいいだろう。このまま全員で領主の家に行く。その時に話してくれ」「分かりました」此之葉が顔を上げた。同時に違う場所で独唱と唱和が目を合わせた。独唱と唱和が感じる大きなものがなくなった。そして此之葉がふるふると感じていたものがなくなった。「どうして・・・」紫揺が運ばれる馬車に同乗したかった。だがマツリから言われたことがあった。この...辰刻の雫~蒼い月~第95回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第94回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第94回「すぐに馬車が参ります」「手を煩わせるな」「秋我をご一緒させます。紫さまのお身体は秋我が―――」「いや、よい」領主に最後まで言わせずマツリが言う。「え?」「我が抱えて行く。キョウゲンに乗せられれば良いのだろうが、それがまかりならんからな」『供は主にだけ仕え、その背は主以外に触れさせてはならぬ』供に決められたものがある。そして主の方にも『主は供を慈しみ、その背を誰からも触れさせてはならぬ』それが供と主に決められている禁。「ですが山の中お一人で紫さまを抱えられてはご無理が御座いまし...辰刻の雫~蒼い月~第94回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第93回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第93回昼餉時には民に呼ばれ、まるでピクニックのように皆で屋外で食べた。「紫ちゃま、ガザンは?」母の膝に居た幼子が訊いた。「え?ガザンを知ってるの?」幼子が頷き、母親が説明をする。「時々とも言えない程ですけどこの辺りまで何度か。最初はみんな恐がっていたんですけど、ガザンの噂は耳にしていましたので。それで男がガザンの前に出ましたら、ガザンに臭いを嗅がれただけで終って。それからはこの辺りの全員がガザンの前に出ました。噂のガザンの合格の印を押してもらわなくてはと。するとどうしてか子供たちがガ...辰刻の雫~蒼い月~第93回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第92回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第92回「厩でよく働いたんですってね」盆を卓に置くといつも通りに紫揺に湯呑を渡す。「紫さまに厩の掃除をさせるなんてね」此之葉は見ていないが、葉月はどこかで見ていた民に聞いたのだろうか、放っておけない事である。五色である紫に厩の掃除などさせていたなどと、民が怒ってしまうかもしれないという懸念をいだく。「誰から聞いたの?」「ああ。民じゃないから。塔弥から聞いたから安心して」塔弥と聞いて此之葉がホッと息をつく。「此之葉ちゃんって、心配性なんだから」此之葉に向かって言うと、何のことかという顔を...辰刻の雫~蒼い月~第92回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第91回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第90回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第91回「父さん、紫さまを信じて下さい。紫さまはお付きに止められる以外は、民の元に足を運ばれていました。民は落ち着いて紫さまを迎えます」「・・・秋我」「私を、お付きを信じて欲しいとは言いません。ですが紫さまを信じて下さい」切羽詰まった空気が流れている。そんな時に「いや・・・秋我さん、それはないです。領主さん、秋我さんもお付きの皆さんも私以上に、この領土の皆さんから信用があります。秋我さんとお付きの皆さんを信用してください。万が一・・・そんなものは無いけど。億が一?兆が一?その上は京だっ...辰刻の雫~蒼い月~第91回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第90回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第90回両手でサークレットを持つ。目の前に近づけ、ぐるりと金細工を見る。「すごい・・」金細工師が顔を輝かせた。暫く金細工を見ていたが正面から紫水晶を見る。「これが、あの紫水晶?」「はい。やはりあのままでは少々。ですので曲線には削らせていただきましたが、必要以上には削っておりません」にわかに信じられない。周りに有るか無いか分からない程の金細工に囲まれている紫水晶は、綺麗に曲線を描きカットはされているが、それだけでこれほどに輝きが出るものなのだろうか。「きれい」「はい。紫さまがこの石を選ば...辰刻の雫~蒼い月~第90回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第89回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第89回口を尖らせ、そのまま振り返り葉月を見る。「ここは、この領土とか本領は、女の人のどこかにチューをしたら・・・結婚しなくちゃいけないの?」マツリからチューのことをここでどう言うのか聞いていた、忘れたわけではないが、ちょっと重い気がして口にするのを憚った。塔弥が全く何が何だか分からない顔をしている。葉月は笑いを噛み殺しているのだろう、肩を揺らせている。「葉月ちゃんっ!」意を決したというのに、葉月が笑っているのは明らかだ。塔弥が葉月を見る。「葉月?」塔弥に問われた葉月が肩を揺らしながら...辰刻の雫~蒼い月~第89回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第88回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第88回「それで?それで、葉月ちゃんは何て言ったの?」ふふ、っと笑って紫揺から目を離して前を見た。「塔弥ったら、此之葉ちゃんと私の幸せが紫さまの幸せに繋がるって言うの。紫さまのお幸せの中に私の幸せがあるって。これってプロポーズじゃなくて脅しに近いでしょ?ルール違反もいいところ恐喝よ」「まさか・・・まさかそんな返事をしたんじゃ・・・」顔から血の気が引いていく。もしそんな返事をされていれば、塔弥はどれほど傷ついただろうか。塔弥を煽ったのは紫揺自身だ。謝って済むものではないほどに傷ついている...辰刻の雫~蒼い月~第88回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第87回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第87回職人の手に木箱が返された。職人に伝えた塔弥。言葉足らずではいけない、葉月が横にいる。「え?ではこの大きな紫水晶はこのままで?」塔弥が葉月を見る。「はい。紫さまが紫水晶のそのままの姿を愛でていたいと」「他のものは今の説明の物で?」塔弥がなんとか説明しようと頑張ったが、葉月からすれば残念な説明だ。「うーん、ちょっと違うかなぁ」チラリと塔弥を見ると、情けない顔で俯いた。日本のアレコレを知らない塔弥。紫揺が作って欲しいと言ったのは日本で見た物だった。それはお付きが提案したものである。少...辰刻の雫~蒼い月~第87回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第86回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第86回「紫さま?」「え?」「どうされました?」目の前に此之葉がいる。いつの間に・・・。「もう赤みは引いておられますが、まだお首が痛いのでしょうか?」言われ気付いた。無意識に首に手をやっていたようだ。「あ、うううん。もう大丈夫。確認しただけ」此之葉が頷く。「では塔弥の一任で宜しいでしょうか?」なんのことだろう。「なにがですか?」此之葉が小首をかしげながら言う。「飾り石のことです」もしかして憎々しいマツリのことを考えている間に、そこそこ時が過ぎていたのかもしれない。その間に何があったのか...辰刻の雫~蒼い月~第86回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第85回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第85回紫揺がお転婆に乗った。「紫さま、お願いですから辺境は・・・」塔弥が言う。「分かってます。辺境にはいかないです。ちょっと離れた所に行くだけ。ゆっくりお転婆で歩いて行きます。お転婆は不服でしょうが」お転婆の気持ちを代弁しただけなのか、お転婆のせいにした紫揺の思いなのかは疑問なところである。そのお転婆の横に今日ガザンは付いていない。ガザンは大きく伸びをして、定位置の紫揺の家の外に伏せている。紫揺がお転婆の首を宥めるように叩いてやる。お転婆の後ろについている馬に乗ったお付きが、辺境には...辰刻の雫~蒼い月~第85回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第84回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第84回「塔弥さん、教えて欲しいことがある」やっと泣き止んだ紫揺。「はい、なんでも」「私が熱のあった時、誰かいたよね?」「それは・・・領主も秋我も此之葉も己もおりました」「それだけ?」「え?・・・どうしてで御座いますか?」「他にいなかった?」マツリからはマツリが来ていたことを、紫揺に言わないようにと言われている。マツリから紫揺の熱の一番の原因はマツリ自身だと聞いている。そのマツリが来ていたと言えば、ましてや紫揺の熱を下げたのがマツリだと知れば、紫揺がどう思うか分からない。それに此之葉か...辰刻の雫~蒼い月~第84回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第83回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第83回翌日、翌々日とまた刑部の立ち合いが続き、まだ終わりそうにない。合間を縫って放ってはおけない、帯門標の再発行をした者を刑部に呼びつけた。「乃之螺に言われ簡単に再発行したのか」問うているのは椅子に座っている四方だ。マツリは四方の後ろに立って窓の外を見ている。「簡単になどと・・・ですか大声で喚かれまして、上役も嫌気がさしたようで御座いましたので」四方が溜息を吐いた。上役も知っていたのか。その上で四方に報告がなかったのかと。「帯門標を簡単に発行してはならんことは知っておろう。どうして発...辰刻の雫~蒼い月~第83回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第82回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第82回その日の夕餉にシキと波葉の姿はなかった。シキが澪引と昼餉を済ませて邸に帰ったようで、澪引がしきりに寂しいと言っているのを四方がなだめすかしていた。リツソは何を思っているのか、ボォーっと食べていたが、その肩にカルネラが乗っていた。そのカルネラがしきりにリツソに話しかけていた。「リツソ、オナカイッパイ、オベンキョ。オネガイネ。オシッコモラス。イイコ。ヤレバデキルコ。シロキ、オトウト。イッショにオボエテネ。シロキ、イモウト、サネ」等々と。色んな言葉が混在しているようだ。ここに紫揺が居...辰刻の雫~蒼い月~第82回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第81回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第80回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第81回杠の肩に腕をまわして歩く共時の姿が地下の空という、天井の孔から射す朝陽に照らされている。だが地下の住人はまだ眠りの時間だ。「おめーが宮の狗(いぬ)だったとはな」地下の洞の入り口までは宮の馬車で運ばれてきた。その馬車に二人で乗っていたが、その時には共時は一言も話してこなかった。そして杠も武官が地下に入ったことも、城家主が捕らえられたことも何も話しはしなかった。「そんないいもんじゃねーよ」「狗にいいも悪いもあるかよ」チッと舌打ちをして、かったるそうにすると真横にある杠の顔を見る。「...辰刻の雫~蒼い月~第81回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第80回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第80回「どうしたの?」後ろから声が掛かった。「いいえ、なにも。此之葉が薬膳を持ってきました」此之葉を部屋の中に入れると思いっきり顔を歪める紫揺。「薬膳・・・」「しっかりと食べて下さい」紫揺を見て言うと次に此之葉を見た。「葉月は?」どんな様子かと訊きたかったが、声に出したのはここまでだった。紫揺の前に薬膳を置くとそのまま紫揺の前に座り、今も戸の前に立っている塔弥に振り向く。「油は渡しました。これで揃ったから、塔弥にはもういいと言っておいてということです」そうか、と言った塔弥。隅に置いて...辰刻の雫~蒼い月~第80回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第79回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第79回此之葉が紫揺の部屋に入って驚いた。用意していた手拭いが全て使われていた。ましてや山と積まれた手拭いを触ってみると、殆どが絞れば吸った汗が落ちてきそうなほどだ。「・・・これほど薬湯に違いが」マツリが持ってきていた薬湯の入った筒に目を流した。暫し考えたようにしていたが今は紫揺の着替えが一番だ。あれ程の汗をかいたのだ、服もかなり濡れていよう。そっと布団をめくり紫揺の服に触れる。湿った感じはあるが濡れているようではない。此之葉が首を傾げながらも紫揺を起こさない様に着替えさせる。手が止ま...辰刻の雫~蒼い月~第79回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第78回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第78回塔弥に言われ迷ったが、此之葉がマツリの向かい側に座り、ゆっくりと腹の辺りまで布団をめくった。少々ガザンが邪魔だがガザンが動こうとしない。紫揺の身体と共にガザンの身体も露わになってきた。ガザンの手が紫揺の胸の上に置かれている。マツリが紫揺の頭に手をかざしゆっくりと下げていく。首の下まで来ると手前の腕に添わせ、またゆっくりと首の下まで戻し反対の腕に添わせる。再びゆっくりと手を添えて戻してくると、胸の上に置かれていたガザンの腕を反対の手で浮かせ、胸の辺りを通過しガザンの腕を元に戻さず...辰刻の雫~蒼い月~第78回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第77回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第77回採石場では白木の送った三人以外に五人が暴れ出し、マツリが視た四人が地下に手を貸す者だった。何も知らなかった他の者たちが呆気にとられたまま、十二名の仲間が咎人として馬車に乗せられるところを見た。「騒がせた」残された者にマツリが言う。「人数が減り負担が大きくなっただろうが、すぐに元の人数に戻すよう手配をする。それまで我慢してくれ。進みの無理をする必要はない。この人数でやっていけるだけでよい」男たちに言うと場長に振り向く。「光石は流されておった。こちらに来る前に現場を押さえた。明日か...辰刻の雫~蒼い月~第77回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第76回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第76回お付きが走り寄ってくるがその前に秋我が紫揺を抱き上げると、体中の熱を腕に感じる。「かなりの高熱だ」「シキ様がいらっしゃった時にはそのようなことは無かったのに」「急に出たということか。とにかくお運びする」此之葉が布団を敷きに行こうとすると塔弥がそれを制した。「此之葉はすぐに薬湯を作ってくれ」そうして自らが紫揺の家に走る。「塔弥!」葉月が塔弥を呼ぶ。「お熱を出された。あのことは延期にしてくれ」「分かった」片手に泡だて器まがいを持っている。料理は作れるが薬草のこととなると分からない。...辰刻の雫~蒼い月~第76回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第75回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第75回少し前、他出着に着替えたシキが、従者が見えなくなったところで回廊を下りるとロセイに言った。「ロセイお願い」「ですが今は」「ロセイ、ロセイはわたくしの考えていることを分かってくれているわね?」「・・・はい」「お願い」一度頭を下げたロセイが意を決したように、大きくなり翼を広げシキの前に出した。「ありがとう」その翼に座すとロセイが翼を納める。シキがロセイの背に座す。シキを乗せたロセイが翼を広げ空を舞った。「久しいわ。気持ちがいい」「それはよう御座いました。ですが今頃、昌耶は腰を抜かし...辰刻の雫~蒼い月~第75回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第74回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第74回帰ってきた紫揺とお付き。お転婆に水を飲ませ、汗を流してやりブラシをかけるとガザンと共に家に戻った。すぐに此之葉がやってきて紫揺に茶を用意する。ガザンには水を。ガブガブと水を飲んでいるガザンを見ながら茶をすする。「阿秀さん、ちゃんと言いました?」唐突な質問。「え?」「此之葉さん、阿秀さんに応えました?」「あ・・・」「此之葉さんには幸せになってもらいたいと思っています。OKですよね?」僅かの時だが此之葉は紫揺に代わって日本で働いていた。その中でOKの言葉を聞いている。意味は分かる。...辰刻の雫~蒼い月~第74回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第73回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第73回マツリが一人づつの聴取まがいをしている間に、文官と所長は金貨が流されていなかったかの確認をしている。地下の者のやることだ、本職が見ればどこか抜けている所はすぐに分かるだろう。昼餉時を過ぎた頃にはマツリの方は終わっていたが、文官の方はそうはいかなかったようだ。「金貨十枚や二十枚くらいではなさそうです。改めて数人で調べなおします」「手落ちもよいところだな・・・」所長が小さくなっている。「残っている者は信用に値する。今の段階ではということだがな。昼餉をとらせ仕事を始めよ」所長が頭を下...辰刻の雫~蒼い月~第73回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第72回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第72回お付きといっても塔弥はまともに日本に足を踏み入れていない。「そっか。塔弥さんは知らないんだ。他のお付きの人たちは知ってると思う。チョコレート。甘くて美味しいの。お母さんがお誕生日の時に作ってくれてたパフェもケーキも食べたい」もしかして日本を恋しくなってきているのか?いや、本領で何かあったのは確実だろう。本領で何かあって、食べ慣れたものを食べたくなった?ナンダソレ。自分の考えが無茶苦茶だ。「それも甘いものですか?」「うん。しっかり太れる」「紫さまは甘いものがお好みですか?」「うん...辰刻の雫~蒼い月~第72回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第71回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第70回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第71回此之葉と二人、領主の家を出ると紫揺の家に戻った。朝餉を食べながら考える。紫の目に視えるのはあくまでもイメージだろう。これは経験の中で理解していくしかないのか。シキから聞いた話ではマツリは手を添わせると、対象者の体調が分かると言っていた。どこを害しているか、そこから体調不良の原因が分かると言っていた。こんなことになる前にどんな風に視えるのか、若しくは感じるのか、それともそれ以外に何かあるのか、詳しく教えてもらっておけばよかった。今更後悔しても遅い。―――あんなこと。急に紫揺が頭を...辰刻の雫~蒼い月~第71回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第70回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第60回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第70回大声こそ出さなかった杠もかなりショックを受けている。だがそれは波葉とは違った意味である。「泣かせたとは、どういうことで御座いましょうか」杠の目が厳しい。それほど気になるのなら杠の女房にすればいいのに、とさえ考えてしまう。「どういうことだと思う?」「紫揺を泣かせるなどと・・・」「泣かせてはいかんか?それでは杠が紫を大切に己の元に置いておけばいいのではないか?」「その様なお話では御座いません。なぜ紫揺が泣いたのですか」先ほどまでの浮かれた空気はどこへやら。波葉は二人をオロオロとしな...辰刻の雫~蒼い月~第70回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第69回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第60回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第69回「これ全部、此之葉さんが作ったんですか?」目を丸くして此之葉を見る。「お口に合いますとよろしいのですけれど」「先に頂いて申しわけなかったのですが、美味かったですよ。冷や奴しか作れなかったのが信じられないくらいです」冷や奴を作るというのもなんだが。「本当に。阿秀の言う通りです。さ、紫さま召し上がって下さい」「へぇ~」横目で阿秀を見ると次に此之葉を見た。此之葉が真っ赤になっている。「じゃ、いただきます」まず喉が渇いている。汁物を手にするとゴクリと飲んだ。「美味しい」此之葉を見て言う...辰刻の雫~蒼い月~第69回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第68回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第60回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第68回紫揺が耶緒の下腹から手を離し自分の膝の上に置いた。かなり疲れた。目を瞑り一つ大きな深呼吸をする。布団をめくって耶緒の手を取る。ぽかぽかと温かくなっている。(良かった。血流が良くなった)真っ白だった耶緒の顔色もほんのりと赤みがさしているように見える。秋我が紫揺を覗き込んできたのが見えた。今は話してはいけないと思っているのだろう。何か言いたそうな目をしている。「なにか?」紫揺から声を掛けると、ほっとしたような顔を見せ口を開いた。「耶緒の手が暖かくなってきました。顔色も随分と変わりま...辰刻の雫~蒼い月~第68回

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