地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...
寺で女の子が雑巾掛けをしながら僕に言う。「おならが出そうなの」 「出せば?」と僕は答える。そして僕も屁をこく。 ...
電話の声が、僕に盗みをするように促す。「盗めって、何を?」僕はペットボトルの水を盗んだ。 すると「段ボールごと盗みなさい」 僕はトラックを借りて、荷台に段ボールを積み込む。在庫を全部。誰が通報した。パトカーが何台もやってきた。そのうちの1台に、君が乗っていた。 君と、3人の偽警官。その車に乗って、僕は走り出した。 ...
濁った水の中を歩いているようだ。いつの間にか地下鉄の하駅に来ている(実在しません)。スターバックスに行きたい。見つけた。僕らは従業員専用の入り口の前に立つ。出入り口はそれしかない。 駅の構内は冬の植物園のようでむっとする。霧が出ている。日本車が展示してあった。車内には草木が生い茂っていた。霧はさらに濃くなった。何も見えなくなった。 ...
僕は君に本を読んだ。朗読しながら、町中を歩き回った。カフェのテラス席で、ランチの間も読んだ。 ショーウインドーの中の、ショールを見ている。肌寒くなってきた。背中から君を抱きしめた。雨が降り出した。君は下着をつけていなかった。 海岸に出た。海水は砂浜と同じ色だった。彼方まで砂浜がつづいているように見える。足元に海水が来ているようにも見える。木の椅子に老人が腰掛けている。その隣に僕た...
暗殺者が僕を撃った。頭を狙った弾は外れて肩に当たった。スマホのカメラを構えた通行人が一斉に倒れた僕の写真を撮る、動画を撮る‥‥ 血の海の中で僕は気の利いた最期のセリフを考えている‥‥ 救急車は僕が気を失う直前に到着した。 アニメの登場人物のような青い髪をした男が病院から君に電話した。君はやってきた。お見舞いにたくさんの本を持って。 青い髪の男は、まだ電話中。...
子供が僕に笑いかけてきた。その子は本来は、とてもシャイなのだろう、自分がなぜ知らない大人に笑いかけているのか、説明を始めた。 彼女の説明は長く、飛躍が多く、そしてわかりづらかった。(というかワケがわからなかった。) 全部話し終えると、彼女はもう笑顔ではなかった。その真剣な目は、少し怒っているように見えた。「友達になってあげようか」とその子は僕に言った。 ...
自動ドアの前に足を置いた。僕の体重は軽すぎて扉は開いてくれなかった。店の従業員が出てきて、僕にリモコンを手渡す。次からはこれで開けてくださいと言う。 僕はリモコンを手に町の通りを見て回った。いちばん大きな店に入ろうと思って。だが店は全部同じ大きさだ。(リモコンをあっちこちに向けて、開くのボタンを押した。) ...
食事をするために僕はそのデパートへ向った。だがどうしても辿り着けなかった。最初は徒歩で向った。次は路面電車で。「デパート前」という停留所で降りればいいはずだった。 海外からの観光客がいた。彼らもそのデパートへ向うようだ。僕は後をついて行った。それでも辿り着けなかった。 ...
舞台は2〜30年前のフランス、パリではない地方都市。エピスリーと呼ばれる小さな食料品店。コンサートに行く、君が演奏する。(食料品店の中で行われる演奏会)紙のチケットを持った人たちが並んでいる。予約はしたが僕はまだ発券してもらってない。「チケットは持ってる?」「持ってない」君との会話は英語。君は茶色いツーピース(セットアップ)のスーツを着ている。肩にかけた大きな、重そうなバッグ...
レストランの案内された席についたとき、何の脈絡もなく僕はヒゲを抜きたくなった(しかし鏡がない)。 すると1人のおばさんが目の前に立った。おばさんのTシャツにはヒゲが生えていた。僕はそれを抜くことで自分の欲求を満足させたのである。 ...
小雨の中、動物園まで駆けた。 結局使う機会はなかったレインコートがポケットの中にあった。走っている内に雨は上がった。そもそも小雨だった。 動物園の中からたくさんの人が出てきて駐車場へ向う。今から入ろうとするのは僕だけのようだ。動物たちの匂いがする。動物たちの鳴き声が聞こえる。僕を呼んでいるみたいだ。 ...
彼はイクときに「レーニン」と叫ぶ癖があった。隣の部屋にいてもその声は聞こえた。「誰?」と後で僕が質問すると、彼は恥ずかしそうに顔を伏せた。そして「知らないのか?」と逆に訊いた。 ...
彼はテレビを見るのが好きだ。いつも頷きながら見ている。彼は本を読むのが好きだ。いつも頷きながら読んでる。 彼は僕の話を聞くのが好きだろうか。僕の話を聞くときには絶対に頷かない。 彼の手足は細い。昆虫の手足のように細い。僕は話をしながらその手足に生えた毛を見る。 ...
何でも溶かしてしまう硫酸のプールにその人が両足を浸したとき悪魔がやってきたので僕は逃げた。 その人は悪魔につかまってしまうだろう。両足はもう溶けているだろう。逃げられないだろう。 だけど悪魔は言うのだ、「あのコの足は溶けないよ」 「お前の足はどうだい? 逃げられるのかい?」 僕は逃げた。「綺麗な足だね」。ここは地獄だ。エレベーターで地上に帰ろうと思いボタンを押した。 ...
子供を連れた若い母親が後ろ向きに歩いていた。 「あなた、後ろ向きに歩いてますよ」と教えてあげた。「子供もです」 「こっちが前ですよ」僕は母親と子供の向きを直してあげた。 すると母親はものすごい勢いで前に進み出した。子供は置き去りになってしまった。 ...
ウェストが細い人形が好きだと、その人は僕に宣言した。突然のことだった。 手に「ウェストが細い人形」を持っている。 「ウェストが細い人間には興味はないんだ」 「ウェストが太い人間は?」 その質問には答えず「ウェストが太い人形は嫌いさ」 ...
使者がやってきた。僕は「それ」を手に使者につづいた。「それ」は僕の手の中で形を変える。「それ」が元々何であったかはわからない。 今僕が手にしているのは銃だ。僕はスーパーにいた。真っ昼間なのに店は閉まっている。日曜日なのかも知れない。使者はもういない。僕も何でここにいるのかわからない。(銃を早く捨ててしまおう。) ...
みんなが体操服を着て体育館で体育座りをしている最中に、僕は2人の女子と抜け出して拳銃を手に、スーパーに盗みに入った。 僕たちは拳銃で店の人たちを脅したくさんのお菓子を盗るつもりでいたが店内には誰もいなくて拍子抜け‥‥ もう拳銃は使わない。僕はそれを分解してポケットの中に入れた。結局何も盗らずに外に出た。女子2人はいなくなっていた。僕は自分が靴を履いていないことに気づいた‥‥ ...
僕らが乗り込んだ車は、ドアもシートも、すべて透明だった。 後席に、君と腰掛けた。すると僕らの着ていた服も、透明になった。 しかし君はまるで表情を変えなかった。それで僕は、(僕の目にだけそう見えるのだろう)と思い込もうとした。 しばらくして目が慣れてくると、君の、ブラジャーなどの下着が見えてきた。見えたような、気がした。 ...
ステージに向う通路で、僕は僕とデェエットする歌手のキワドい衣装を初めて見た。 別に何も着なくてもいいのよ、と彼女は言った。誰も見てないから。 あなたも着なくていいのよ。観客はいない。 僕は言い返した。この服気に入ってるんだ。 あっそう。 僕たちは舞台に上がった。彼女の言うとおり誰もいなかった。バックバンドさえいなかったが、構わず僕は熱唱した。 彼女...
天使が落した爆弾は、爆発するときも音を立てなかった。光も熱も発しなかった。それはただ炸裂し、そして景色が変わった。天国に人がいなくなった。 ...
町は奇妙だった。何が奇妙なのか最初はわからなかった。今やっとわかった。影が長いのだ。日が傾いているわけでもないのに、ありえないほど、地平線の彼方まで伸びる影を引き摺って、人々は歩いている。 日は、永遠に高いまま。そしてなぜか、人々の歩くスピードは、全員同じ、秒速5センチメートル、みんなゆっくりだ。気づいたのだが、彼らは、ノロノロと、僕を追いかけているのだ。 ...
配給のパンをもらうために並んだ。その列の隣に並んでいるのは金を払って買いたい人たちだ。 「同じパンなんでしょ?」と疑問に思って僕は訊いた。 「同じじゃないわ」金持ちのおばさんたちは反論した。 「食べ比べてみようよ」僕が配給のパンを一欠片渡そうとすると、 「あなたからもらうわけにはいかない」おばさんたちは断った。 そしておばさんたちは配給の列に並んだ。財布を手に持っている...
「最近はこんな店で遊んでいるのね」、そこはどう見ても学校の教室だったが。 そのちょっと派手な女の人は、記憶を失った僕のところにやってきて、そう言った。 「その男、彼氏?」 女のもっと派手な友人たちが彼女をからかう。 「そうよ」と女は言った。 そしてピンク色の唇を僕に突き出し、クラスのみんなの前でキスしてと言った。その口紅の色に見覚えがあった。 ...
店内で手に取ったブーツの中には、たくさんのゴミが入っていた。紙屑の他に、生ゴミもあった。僕の手持ちのゴミをそこに加えると、それ以上何も入らなくなった。 僕はそのブーツを、陳列されている他の靴の奥に戻した。 そしてまた違う靴を手に取り、とてもいい靴だねと褒めてから、試着していいかと店員に訊いた。すると店員は、裏からゴミを持ってきて、これをお使いくださいと僕に手渡した。 ...
僕たちが2人で野球を始めると、見ていた人が「何をしているんですか?」と訊いた。 「野球です」と僕たちは答えた。 「一緒にやってもいいですか?」 「いえ、そのまま見ていて下さい」 その人はまだ僕たちを見ている。 通りかかった人に「何をしているんですか?」と訊かれると「野球です」と嘘を答え、 「あなたも一緒にやりませんか?」 ...
目覚めると僕は毛皮のある動物になっていた。本能に従い自分の体をあちこち舐める。そうするとなぜか眠くなった。寝て起きたばかりなのに。 となりには自分と同じような動物が寝ていた。もぞもぞと体を動かし始め、‥‥彼(彼女)は目を覚ましそうだ。僕はそいつの手足を軽く舐めた。そうするとそいつはまた深い眠りに落ちる。 ...
難病の子供を手術した。治ってすぐに退院した。毎日同じ手術をしている。まるで日本中の子供がこの病気に罹るようだ。手術しても治らない者もいる。手術の順番を待っている間に手遅れになる子もいる。 「僕は治るの?」と昨日の子は訊いていた。「治るよ」と僕は答えた。「治ったらどうなるの?」「退院して家に帰って遊ぶんだろ?」「そっか」 「治らなかったらどうなるの?」「それは難しい質問...
炊飯器で、ご飯が炊きあがった。炊きあがってすぐに食べなかったので、それは水になってしまった。気をつけていたのだが、また米を無駄にしてしまった。もうお腹はすいてなかった。僕はその水を一口飲んだ。 ...
床の青いタイルだけを踏んで移動していた。それは僕がルールを決めたゲームだった。宮殿のような家だった。1人で住んでいた。たくさんの部屋があったが、青いタイルがないせいで、僕には入れない部屋が多かった。 ...
その女性がお団子にまとめていた長い髪をほどくと、彼女に対して歌が歌われた。 完璧な俺の、俺の、俺の‥‥ という歌だ(歌詞はもう思い出せない)。 夏の海辺だった。男たちが順番にその歌を歌った。その女性の気を引くためだが、彼女は誰にもなびかなかった。 最後に僕の番になった。知らない歌だったが、何度か聞いているうちに歌詞とメロディは覚えた。 ほんとに歌わなければな...
そこ。そこには高いビルがあって、地下には地下鉄が走っている。僕は徒歩でそこへ向っている。そこは都市だ。 「時間がかかるんじゃない?」心の声が君の声色を真似して懸念を僕に伝える。 「かかるかもね」 途中、僕は川辺で桜を目にする。花は半分以上散ってしまっている‥‥ そこから僕は急ぐことにして、車に乗る。助手席に、桜の花びらが積んである。振り返ると後席も、ピンク色の花び...
ホテルにチェックインした。フロントの女性は僕の持っていた白い鞄に向って、「いつもありがとうございます」と言った。 鞄は「今回もお世話になります」と応えた。 僕に対しては威張り腐って「ルームのキーを受け取っておいてくれたまえ」 僕はフロント係からキーを受け取り、鞄を部屋まで運んだ。 排便中、なかなか尻を離れていかないウンコに向って、僕が「降りてね、降りてねぇ」と...
大木をくり抜いてつくった家に僕たちは住んでいて、外に出ることは滅多にない。出たところで、家の周りには何もなかったし。 そこは草の生えていない草原のようなところ。地面に穴が開いていて、木でできたマンホールのようなフタがしてある。 ときどき、僕たちは、フタを開ける。すると決まって、大雨が降ってくる。わけもわからず、僕は大笑いする。びしょ濡れになって、君は踊り出す。 ...
飛ぶ。だがある高さ以上に昇ることができない。空に透明な天井がある。それがおもしろくない。僕は地面を歩くことにした。動物のように四つん這いで。羽根はもうなくなっていた。 見えない雨が降っている。僕は透明な傘をさしている。傘をささないで歩いているように見える。それがすごく格好いい。 ...
台の上に置かれた小さな紙を、みんなが覗き込んでいる。何か文字が書いてあるが、誰も読めない。僕もそれを見てみた。 そこは空港だった。けれど飛行機に乗るために来たわけじゃない。たくさんの人がいた。誰もが小さな、白い紙を手に持っている。紙には文字が一文字書かれている。僕はそれをつづけて読んでいく。(意味の通らない文章になる。) ...
僕はネットのないゴールポストを見た。ゴールポストは1つしかなかった。その女子サッカーチームの本拠地は北海道にあった。グランドは冬の間雪に埋もれて使えなかった。チームは試合も練習も一切やらなかった。 この間やっと春になった。また試合をすると連絡があった。僕は飛行機に乗って北海道まで行った。応援に行った。しかし試合には選手も観客も来なかった。 ...
君の服は鏡のような素材でできている。ロングスカートに僕の全身が映る。僕のコートも鏡でできている。昼の12時にその2つが合わせ鏡になると、映り込みの奥から誰か出てくる。男とも女ともつかないそいつが、午後の始まりを告げる。 鉄が夜になると錆びて、昼になると輝く、ということを繰り返している。 ...
夢の中で僕は、カタカナとハングルの合いの子のような文字を読んで、発音しようとしているが、うまくできない。 その間も動きのない目の前の光景は、写真というよりも、一時停止状態のビデオ映像に似ていた。 君がその一時停止を解除するボタンを押す。すると僕の口から、日本語でも韓国語でもない、その聞いたことのない言葉が流れ出して、 僕は自分が何を話しているのかわからない。君はまた一時停止...
高校の校舎がホテルになっていた。僕は3年2組の教室に1人で泊まった。広すぎるシングル・ルーム、でも部屋にはトイレもなかったし、手を洗う場所もなかった。 緑色のシーツを持って、係の人がやってきた。とても大きなシーツ、そのシーツで彼は、教室の机と椅子と黒板と壁を全部覆った。僕は窓際の席に座って、その様子を見ていた。 ...
警戒怠りなく眠る僕の隣に、まったく無警戒に起きている君がいる。見て。君は完全にリラックスして、空中浮揚し始める。風船のように、天井まで行く。その後ゆっくり落ちてきて、僕の隣に。 ...
トンネルを抜けると終着の駅だった。料金は駅の改札を出るときに現金で払った。連れの女性が細かい小銭を出してくれた。日本円にすると1円にも満たないコインを。 その女性は野球選手だった。ポジションはセカンド。「また2軍に落ちた」「もう引退しようかな」そんな話をしながら駅構内を歩く。 「諦めるのは早い」 だって彼女はまだ10歳かそこらだ。僕の前を月面を歩く人のようにぴょんぴょん飛び跳...
僕たちが乗っている路面電車の床は透明だった。電車が走っている地面も透明で、地下の様子が見えた。 地下の人間は1人で行動していた。家族連れやカップルはいなかった。全員がお1人様だった。 僕もいつか地下に行くときは1人で行かねばならないだろう‥‥ あぁバスが停車している。バス停でもないところで。それは僕のためである。礼を言って乗り込んだ。 バス...
夜は自分こそが夜だと信じている人を一緒につれてきた。 その人は女だった。若い女だった。彼女は何も食べなかった。 トイレにも行かなかった。いつも寝ているか、寝ているふりをしているかどちらかだった。 僕は彼女とずっと一緒に過ごしたが1人きりでいるようなものだった。 この間の夜がまたきた。 夜は自分こそが夜だと信じている女をまた1人つれてきた。 彼女たち...
日本への留学は延期しろと父は言った。どうしてと私は訊いたが答えはなかった。日本人のボーイフレンドを父に紹介した直後だ。父は私たちの交際は認めてくれた。それどころかいずれ結婚するんだろうとまで言った。彼の実家のある和歌山のことを訊いていた。彼は片言の韓国語でみかんのことなどを話していた。 台風がよく来るんです。ソウルにも台風は来ますか? 来るよ。でもあんまり大きなのは来ないな。...
君に似た人を町で見かけるたび、僕の胸は高鳴る。君に似た人は、そこら中にいる。だから僕は、その中でも特に君にそっくりな顔を探した。 あまりにも似た人を見つけたので、本人じゃないかと思い声をかけてみる。君の名を呼んだのだ。そうすると、僕の周囲にいた女性全員が振り返ってこちらを見た。僕は愛に取り囲まれた。 ...
超能力のある連中が集団で僕を襲った。まず心が読めるやつが僕の心を秘密を覗いた。念力のあるやつや瞬間移動ができるやつにされたことよりも、それがいちばんキツくて、僕は動揺した。 ...
その部屋の中には歌を歌っている人たちがいたが、彼らはまるで労働する者のように疲れていた。僕は冗談で歌に加わった。歌詞はドイツ語か、オランダ語のように思えたけどよくわからない。歌詞を英語に訳したものをもらった。 ...
空き缶や、ペットボトル、ヤクルトの容器などのゴミが、レジ前の床に散乱していた。買い物客が会計を待っていたが、レジには誰もいない。僕は自分の買い物を諦め、代わりにレジに立った。 客がカゴを置く台の上も、ゴミでいっぱいだった。買い物カゴの中身も、ゴミが半分だった。僕は商品と区別せず、すべてをレジに通した。機械的に作業した。 最後に「これはサービスです」と言い、消毒液の入ったスプレー容...
僕は君の家で、君のお母さんと一緒に、君の帰りを待っている。木のテーブル、大きすぎる木の椅子、木の皿に、サラダが盛りつけてある。僕はそれを、手づかみでときどき食べる。 誰も見ていないテレビがつけっぱなし(消しましょう、とは言い出せない)。君は今、どこで何をしているんだろう? そんな僕の心の声に、テレビが返事をする。 ...
黄色いコートを着た。黄色い腕時計をした。あと僕に足りないのは黄色い花束だけだったが、それは君が買ってくれた。「あなたは金持ちになるのよ」と君は言った。「黄色は金持ちの色」 僕はその花束を持って、午後の教会に行った。「僕は金持ちになるんです」「黄色は金持ちの色なんです」。教会にはたくさんの人がいて、僕はその1人ひとりに花の名前を教わった。でも結局自分が手にしているこの花が、何という花なの...
部屋に入った。ベッドメイクはまだできてなかった。畳まれたシーツが置いてあって、それは太陽の匂いがした。乾燥機ではなく、屋外に干して乾かしたものだ。 自分でベッドメイクをした。部屋にはテレビがなかった。CDラジカセが置いてあった。アンテナを伸ばして、ラジオを聴いた。隣の部屋の人も、同じ番組を聴いていた。古い歌が流れた。部屋の壁は薄かった。 ...
貧乏な村人たちが集まり、お金を出し合った。じゃんけんをして勝った男が、その金で都会のソープに行った。しかしあまりにも身なりが悪いので、入店を断られた。「ダニやノミのいるような男は、お断りだよ」と店の支配人は言った。 ...
僕は買ってきたお土産をてるてる坊主のように窓際に吊るし、それが揺れるところを君に見せた。外はもう晴れていた。君は「あれは食べるものなんでしょう?」と訊いた。「てるてる坊主を食べる人はいないよ」と僕は答えた。「あれはてるてる坊主なの?」「違うよ、お土産の饅頭だよ」 ...
部屋の隅にいて動かない白い蛇を見つめていると、その背中に羽根が生えてきた。蛇はその羽根で羽ばたき、部屋の反対側の隅に移動して、また動かなくなった。 ...
君は宇宙旅行から帰ってくると、真っ先に僕の家の台所へ向い、何かつくり始めた。宇宙で覚えてきたレシピだろうか。2人でそれを食べた後、性交しているところに、宇宙人がやって来た。行為を中断し、僕は台所に立った。そこでさっき食べたものと同じものをつくっている間、君は宇宙人に何度かお礼を言った。 ...
朝起きて、まず最初にしたことは、「勉強」だった。歯も磨かず、トイレにも行かず、机に向った。文章にはならない文字を紙に書きつづけた。その紙を小さく畳み、封筒に入れた。自分には読めない文字で、ずいぶんと長い宛名を書いた。 ...
買い物袋を抱えて坂を上る老人が、10歩ごとに立ち止まって息を吐いていた。正確に10歩だった。クロールで泳ぐときの息継ぎみたいだ。 ...
台所で料理をしていると、クー・クラックス・クランのような白装束の小人が何人か入ってきた。 「大丈夫」と君は言うのだが、少し心配になった。何か、盗まれたりしないだろうか。「うちには盗むものなんか何もないよ」と僕は小人たちに話しかけた。 彼らは何も答えず、ただ僕の家をいろいろと見て回っていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。 「ゴミを捨ててもいい?」と彼らの1人...
エリイアンの女が、僕の前で地球の服を脱ぎ裸になった。その肌は、ピンク色と緑色をしていて、鱗のない魚のように見えた。彼女は植物のように、成長を始めた。巨大なロケットのような樹になった。 僕がその樹を見上げ、花が咲くのを待っていると言うと、君は笑った。あなたのそういうところが、好きなの。 ...
図書館で本を読んでいると、制服を着た警官がやってきて、僕に六法全書を差し出すので、僕は何か法律に違反したのかな、と思ってしまった。「私の本心を知りたいなら、これを読みなさい」と言うのだが‥‥ ...
君の部屋に行き、朝まで飲む。君は冷蔵庫から紙パック入りの飲み物を出してくれる。この間は野菜ジュースだった。今日も野菜ジュースだ。 飛行機に乗り遅れないようにしなくちゃな、と僕は思う。「タイムマシンのアラームをセットしておいていい?」と君に断った。 「タイムマシンって言った?」「大きな音が鳴るんだけど」 「野菜ジュースをありがとう。朝までに全部飲めるかな」 その言葉...
もう1つのパーティーが始まった。それはテーブルの下で行われた。僕は君とそこに潜り込み、ちょっとの間イチャイチャした後、別の服に着替えて、再度みんなの前にあらわれた。 「どこにいたの?」と誰かが訊いた。「あのコはどうしたの?」 「テーブルの下にいるよ」と僕は答えた。 そしてテーブルクロスをめくったが、誰もいなかった。そこには子供が履くような小さな靴が片方だけ転がっていた。 ...
僕の護衛は背の高いアフリカ人だった。テーブルで僕が飲み食いしている間、ずっと僕の後ろを護衛していてくれる。 僕の前には鏡がある。鏡に映った護衛のアフリカ人を見ながら僕は食事をする。安心感が違う。食事中に護衛がつくのは僕だけだ。 僕は重要人物だ。他の人たちはそうではない。護衛なしで食べている。彼らのテーブルには鏡すらない。 ...
検察側の証人として呼ばれた君。裁判官は君の胸を見てにやけている。 君は証言台の下に潜り込み、ドレスに着替えている。君は下着をつけていない。僕は下着をつけるように言ったが、君は笑うだけだった。その話をすると、僕の弁護士も僕を笑った。 ‥‥。死んだ人間を生き返らせた罪で僕は死刑になった。裸の女に服を着せたら強姦罪が適用されたみたいなものである。僕はヤケになっていた、女に服を着せつづ...
こんな結果になったのは、弁護士が無能だからだ。死んだ人間を生き返らせた罪で僕は死刑になった。裸の女に服を着せたら強姦罪が適用されたみたいなものだ。僕はヤケになって、女に服を着せつづけた。その女たちの中に君がいたのだ。 僕たちはバーにいた。テーブルは高く椅子はない。僕たちの身体が縮んだのか、それとも家具が大きくなったのか。 君はテーブルの下に潜り込み、ドレスに着替えている。君は下着...
「私が捕まったら妹も終わりよ」とその女性は言った。女性は檻の中にいた。捕まっているように見える。 僕は妹が「終った」のかどうか確かめに行ったが、大丈夫そうだったので安心した。 ...
電車に乗ろうとしてホームで並ぶ人たちが、制服を着た職員に指導を受けていた。「笑顔で並べ」と。何かの撮影なのだろうか。 ホームに電車が入ってきた。今度は「目を瞑れ」と指導があった。関係ない僕も目を瞑った。すると耳慣れない音がした。日常生活ではまず聞くことのない、奇妙な音だ。いったい何が起きたのだろう。知りたかった。けれど僕は目を開けなかった。 ...
君の指先が、軽く鍵盤に触れる。いつも思う、まるで自分の身体に触れているような触り方だと‥‥。 僕たちの楽器はピアノで、ピアノは1台しかなかった。君はずっと、何の練習もしていなかった。僕は僕たちのピアノに触れ、君は自分の身体に触れた。 僕たちはみんなで集まり、バラバラに楽器の練習をしていた。1人ずつ練習を終え、楽器を持ち、帰っていく。もう残っているのは、君と僕だけだった。 そ...
家を出ると、僕と入れ替わりに、僕にとてもよく似た人が、家に入った。家の中には、君によく似た人がいる。2人は、つき合っているのだろうか、と思った。結婚して、幸せになってほしい。僕たちは、同じ過去を共有しながら、そういう選択をすることも、できたはずなのだ。 ...
ホテルの部屋で、君が長い髪を洗っている隣で、僕も髪を洗っている。僕の短い髪、乾くまでに長い時間がかかるのは、なぜだか知らない。 君は、先に部屋を出た。後から行くよ、と僕は言った。 部屋に、別の人が入ってきた。そのときもまだ髪は乾いてなかったが、僕は荷物をまとめて、部屋を出た。靴だけが見当たらなかった。 ロビーで君と落ち合った。靴がないことを話す。 靴は金庫の中。靴べら...
電車に乗って、遠い県まで行った。終点で降りると、そこが目的地だと知った。駅が図書館になっていて、図書館の中にはレストランがあった。レストランの中には駅のホームがあり、乗ってきた電車はそこにまだ停車している。僕は今日中に戻るつもりだったので、終電の時刻を確認した。図書館の職員は、コーヒーの値段を答えた。それは僕の知りたい情報ではなかった。 ...
それは靴の宣伝で、僕はムーンウォークをした。綱渡りのような曲芸も披露した。僕はまたコマーシャルに出たのだ。撮影はうちの屋上であった。たくさんの人たちがその様子を見学に来た。近所のビルの窓から顔を突き出し、こちらに手を振る者もいた。遠すぎてよく見えなかったけど、全員が友達というわけではなさそうだった。 ...
飛行機の僕の隣の席に、小学校のときの同級生が座る。が僕たちはお互いに気づかない。半世紀近い年月が僕たちの顔かたちを変えてしまったからだ。記憶も薄れてしまった。 そんな悲劇を避けるために、僕たちは名札をつけて飛行機に乗るのだ。飛行機の中では出欠が取られる。スチュワーデスから順に名前を呼ばれ、僕たちは返事する。元気よく「はい」「はい」と。その声が客室の中に響く。彼女は初恋の人だった。 ...
飛行機が闇の中を飛んでいる。音もなく飛んでいる。飛行機はクルマのようなヘッドライトを点けて飛んでいるが、それが何かの役に立ってるとは思えない。 僕は飛行機の中で寝ている。夢の中では飛行機も僕と一緒に寝ている。ふっと僕だけが目を覚ました。隣で寝ている飛行機の寝顔を見る。なんかこう人間みたいな寝顔だ。 ...
夏だった。暑い夜、冷房もなかった。僕はタキシードを着ている。踊っている人たちがいる。彼らは元々は人間だったのだが、踊っている内に動物に変身していた。そしてそのことに気づいてないようだ。 そんなことがあるだろうか、とロシア人女性に日本語で話しかけられた。 僕は汗をかいている。彼女もそうだった。それは泡のような汗だった。石鹸の匂いがする、シャボン玉のような汗だ。 僕たちの汗はプ...
暗闇は黒くなかった。どちらかと言えば茶色かった。だんだん明るくなってきたが、そこに差す光も白くなかった。やはり茶色かった。セピア色というのだろうか。その汚れは僕に感傷的な記憶を思い出させた。 ...
君が僕の肩にもたれかかってくる。ふだんはそんなことをする人ではなかったので驚いた。 僕たちは草サッカーの試合を見ていた。グランド脇で見てる僕たちにはコートの反対側で何が起きているのかわからない。ほとんどの選手と観客はその反対側にいた。(つまり僕たちの応援しているチームが優勢だということだろうか。) そこで唐突な場面転換があり、僕たちは満員の電車の中にいた。君は僕にもたれた...
上空から見るとその島には蜘蛛の巣がかかっているように見えた。飛行機は左に旋回しながら降下した。やはりどう見ても蜘蛛の糸だ。 飛行機から降り空港の外に出ると空気がベトベトした。 そしていたるところで女たちが僕を待っていた。彼女たちは順番を待っているのだ。階段に腰掛けたり、橋の欄干に寄りかかったりしてこっちを見ていた。煙草を咥えて「火貸してくれない?」 僕が順々にライターで火を...
韓国と九州の間を、その鳥は何往復かした。僕が飼っていた鳥だ。旅行の間、ずっと一緒だった。蜘蛛の巣でつくった鳥籠に入れて、いつも持ち歩いていた。蜘蛛の巣でできているだけあって、鳥籠の重さは感じられないくらいだ。鳥がその中に入ると、鳥の重さもなくなった。僕は常に何かを持ち運んでいるという感覚がなかった。 ...
武器を持って列車に乗り込み、乗客から金品を脅し取った。車両の一方の端から僕が、もう一方の端から相棒が進んだ。僕は犬を連れていた。大きいけど、大人しそうな犬だ。僕が脅しても言うことを聞かなかった人も、その犬を見ると態度が変わった。笑顔になり、何でも欲しいものを盗っていいと言った。 ...
部屋には2台のテレビがあって、1つのテレビがもう1つのテレビと結婚したいと言い出した。「私たち、真剣なんです」。僕は軽く「いいよ」と言った。 テレビを2台横に並べて結婚式をした。僕が神父の役をやった。「誓いますか?」と訊くとテレビたちは「誓います」と答えた。タイミングよくテレビから拍手の音が聞こえてきた。音はデカすぎたので少しボリュームを下げた。 ...
眼下には「白い空間」があって一粒の丸いチョコレートが転がっていて、僕はそれを掴まえようと思って「白い空間」にダイブした。 白いガーゼのような布が柔らかく幾重にもチョコレートと僕を包んだ。「白い空間」ごと僕は落下していく。みんなが落ちていくのとは違う場所へ。 ...
スネ毛の代わりにパクチーのような野菜が生えてきたので風呂で収穫した。根から抜いてしまうともう生えてこなくなるかも知れないので気をつかった。見た目や匂いもパクチーにそっくりだが本物だろうか? もう一方の足には違う種類の草が生えていたがそれもサラダになるだろう。妹たちがどんだけ長風呂なんだと文句を言ってきたので黙らせるために先に収穫物を渡した。 僕が風呂から上がると部屋にマリファナ...
水を切って傘を畳んだ。聞き覚えのある声が後ろでした。ラジオでよく聴くあの人の声だ。僕は振り返って「ファンなんです」と言おうとした。「昨夜の放送も聴きました」 テーマパークの一画がライブ会場だった。開演までもう時間がない。僕は駆け出したが間に合わなかった。 「当日券ありますか?」と僕は訊いたが通じなかった。「今から入れますか?」がチケットなどいらなかったのだ。歌手は僕の目の前...
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地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ディーラーの握り拳の中に4つの数字がある。サイコロを転がして出した数字とは一致しない。友人たちはまた全部外した。 「いつかこれで大金を手にするんだ」いつも言っている、ギャンブル好きの彼ら。 もう帰ろう‥‥ 車に戻った。友人の1人が私と2人だけで話したいと言った。異議を唱えるもう1人の友人を、彼は殴って黙らせた。殴られた方はなぜか楽しそうに笑って‥‥ ‥‥ 「話っ...
バスを降りるときに3200万円を支払うのだ。僕じゃない。僕の友達が。彼はそんな金は持ってない。支払いは待ってやってくれ、と僕も運転手に頼む。 運転手は何も言わず、ずっとバスは停車したまま。 ...
地下のそのスペースにたくさんの人が集まっている。みんな友人だがもう誰が誰だか思い出せない。ある音楽が演奏されたのだった。その音楽は僕たちの記憶を洗い流していった。‥‥帰ろうかと思うが足が動かない。ここがどこなのかすらわからない。何か重大な目的があって僕たちはそこに集まったのだった‥‥ 会場の出口では記憶が売りに出されている。それは1点ずつ違うCDだったり紙の本だったりする。映像データで...
知らぬ間に宝くじが当たったようだ。きっとオンラインで買ったやつだ。大金が口座に振り込まれている。僕はその金を全部引き出し、宝くじ売り場へ向かい、そこで売られている宝くじを全部買う。そこで気づいたことがあるのだが、1億円分の宝くじの束は、1億円の札束より軽い。 ...
町の上空に浮かぶ雲のベッドで僕は目覚めた。寝ているうちにまた巨大化してしまったようだ。ベッドから足を下ろすとき住宅を一棟踏み潰してしまった。 いつまで寝ぼけているんだ、と町の住人から怒りの声が上がる。 ベッド下に落したティッシュの箱を取ろうとして暴れ回り、町の一区画を更地にしてしまったところで、完全に目を覚ました。 ...
東大生とは、東京大学の学生ではなくて、東京大学に連れていってくれる人のことだと、その人は主張し、5月のある日、東大を案内してくれたのだ。 東大は東京の大学というより寺院のようで、建物の中に入るとき、靴を脱がなければならなかった。 その日は休みなのか、構内に学生や教員の姿はなく、静かだった。 犬小屋があって、そこで白い犬が寝ていた。 ...
右側通行の道路、右ハンドルの日本車とすれ違った。赤いスポーツカー。運転していた女性が歩道の僕に手を振った。僕も振り返すと、それを合図に人が集まってきた。日本語が通じるか挑戦したい、という人たちだ。日本語を学んでいる学生たちだった。 ...
その家の玄関の前には大猫がいて、カメラを構えた僕が近寄ると後ずさった。そうか写真に撮られるのが嫌いなんだ。家に入るのに大猫が邪魔だった。どうすればどいてくれるだろうと思っていた。無事追い払うことができた。 ...
夕日を浴びて電車が走っている。電車には人は乗ってない。ジャガイモが積まれている。収穫したばかりのジャガイモだ。 線路はあるところで直角に曲がっている。電車はそこを上手く曲がれず、脱線してまっすぐに行ってしまう。まっすぐ行った先には車庫がある。まだ車庫に入りたくない、と電車は思う。 ...
陰茎は固く絞られた雑巾のようだった。僕だけじゃなくみんなのがそうなっている。ニュースでやっていた。みんなそうなってしまったなら仕方ない。 小便をするときはそれをさらにきつく絞る。残尿感があるならまだ絞れるってことだ。 ...
この写真家を僕はアラーキーという仮名で呼ぶことにする。つまり僕が拾ったのは普通のエロ本・エロ写真集ではなかったのである。後で見てわかったが、それはあるストーカーの日記だった。彼(おそらく男だろう)は複数の女性を追いかけていて、隠し撮りした写真の他に、標的の女性の利用するバスの時刻表や、訪れるカフェのメニューなども参考資料としてあり、その本を持っているのが僕は怖くなった。 ...
アイマスクの代わりに黒いタオルを巻いて寝ていた。電車の中だ。電車が駅に着いた。慌てて飛び起き、降車した。目的の駅の、1つ前だった‥‥ やってしまった‥‥降りたホームで、次の電車を待った。それはすぐ来た。先行する電車に追いつき、しばらく平行して走る。向こうの乗客たちが、僕に手を振っている。 ...
高速道路を僕は歩いている。険しい山を削ってつくられた道だ。時速300キロで走る透明な車が、僕の体を通り抜ける(逆なのかも知れないが、透明なのは僕の方で)。 路肩に男の子がいる。1人で遊んでいる。危険だ。僕は声をかけた。 親に電話してやるよ、迎えに来いって言ってあげる。 おうちの電話番号、覚えてる? 迷子の男の子が教えてくれた番号にかけると、それは僕の実家だ。死んだはず...
足元に酒瓶があった。隣のテーブルの方に蹴飛ばした。赤い酒が入っていた。僕は酒を飲まない。 隣りのテーブルで飲み食いしていたグループが僕に手を振って挨拶したのを見て席を立った。 店の外に出ると明るかった。朝だ。カネを払わずに出たことを思い出した。 僕はいろんなことを忘れていた。椅子の背には上着をかけたままだった。上着の内ポケットには財布が入っていた。 ...
僕は窓際に追いつめられた。窓から外に逃げようと思った。 しかし窓には鉄格子が嵌めてあった。 そいつは僕の体の中から「13歳の心臓」を抜き取ろうとした。 取っても死にはしないとそいつは言うが‥‥そもそも「13歳の心臓」って何だ? ...
愛する女に初めてキスしようとしたとき、私は自分が女になっていることに気がついた。 私がキスをすればこの女は男になるのだろうか、と考えながらキスした。目は閉じなかった。女の変化を観察していたが、何も起こらなかった。相思相愛の私たちの未来が、少し不安になった。 ...
女が「レストラン」と言っている。それを聞いた男が「レンタカー?」と返す。「レストラン」大声。「何借りるの?」さらに大声。「レンタルビデオ?」日本人の観光客だ、地下鉄の中。僕は用もない次の駅で降りる。 ...
怪獣の背中に生えているような刺が、道路に生えていた。車は走れなくなった。ある日突然のことだった。僕は茫然と見つめた。 刺は完全な等間隔で生えていた。人工物には見えなかったが、自然の物とも思えなかった。僕はスマホを覗き込み、世界を裏で牛耳る悪の組織の陰謀ではないかという説が、狂人たちの口から、説得力をもって語られるのを待った。 ...
ポケットから取り出した紙片、4つに折られていたのを開いて、約3分間、お湯に浸すのだ。 書かれていた文字が、お湯に溶け出して、紙が真っ白になったら、取り出すのだ。 文字が溶けたお湯を、僕は飲むのだ。知識が僕のものになる。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...
寺で女の子が雑巾掛けをしながら僕に言う。「おならが出そうなの」 「出せば?」と僕は答える。そして僕も屁をこく。 ...
電話の声が、僕に盗みをするように促す。「盗めって、何を?」僕はペットボトルの水を盗んだ。 すると「段ボールごと盗みなさい」 僕はトラックを借りて、荷台に段ボールを積み込む。在庫を全部。誰が通報した。パトカーが何台もやってきた。そのうちの1台に、君が乗っていた。 君と、3人の偽警官。その車に乗って、僕は走り出した。 ...
濁った水の中を歩いているようだ。いつの間にか地下鉄の하駅に来ている(実在しません)。スターバックスに行きたい。見つけた。僕らは従業員専用の入り口の前に立つ。出入り口はそれしかない。 駅の構内は冬の植物園のようでむっとする。霧が出ている。日本車が展示してあった。車内には草木が生い茂っていた。霧はさらに濃くなった。何も見えなくなった。 ...
僕は君に本を読んだ。朗読しながら、町中を歩き回った。カフェのテラス席で、ランチの間も読んだ。 ショーウインドーの中の、ショールを見ている。肌寒くなってきた。背中から君を抱きしめた。雨が降り出した。君は下着をつけていなかった。 海岸に出た。海水は砂浜と同じ色だった。彼方まで砂浜がつづいているように見える。足元に海水が来ているようにも見える。木の椅子に老人が腰掛けている。その隣に僕た...
暗殺者が僕を撃った。頭を狙った弾は外れて肩に当たった。スマホのカメラを構えた通行人が一斉に倒れた僕の写真を撮る、動画を撮る‥‥ 血の海の中で僕は気の利いた最期のセリフを考えている‥‥ 救急車は僕が気を失う直前に到着した。 アニメの登場人物のような青い髪をした男が病院から君に電話した。君はやってきた。お見舞いにたくさんの本を持って。 青い髪の男は、まだ電話中。...